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【五:何もしていないのに何もかも変わっている】

また状況整理をしよう。ちなみに今は自習時間だ。だから少し余裕がある。…まず主人公:アイリッシュ・アドニスと攻略キャラ兼エカチェリーナの婚約者:ジン・ギムレットについてだ。

 主人公:アイリッシュはあんなに明朗快活の四文字が似合いそうなはっちゃけた子だっただろうか?ゲーム情報がインプットされている私(俺)でも戸惑うぐらい原作と乖離している。原作では少し控えめだけどやるときはやる系の少女だ。エカチェリーナに対しては控えめに挨拶をして、エカチェリーナやその取り巻きに言い寄られてる時は少し詰まったような声になる。だが今朝会った彼女は「おはようエカチェリーナさん!」と元気な声で私(俺)に挨拶をしてきたのだ。もうここから違う。しかも昼休みの約束まで取り付ける。(厳密にいうとマリスの提案に乗った、なのだけど)こんなの主人公じゃない…いや主人公なんだけど原作と違うから混乱してしまう。

 次に婚約者:ジン。彼は私(俺)の婚約者だ。原作での関係としては家同士で決めた婚約、でしかない。ジンはそう割り切っていたのだがエカチェリーナはジンを本気で愛していた。だから彼がアイリッシュに興味を持つことが気に入らなかった。

 エカチェリーナはそれはもうありとあらゆる手段を用いて二人の仲を引き裂こうとした。平民であるアイリッシュには高価で予備を買うことができない制服を刃物でズタズタに切り裂いたり、階段や谷やら高所から突き落としたり。数々の嫌がらせを受けて精神が摩耗したアイリッシュがジンに近づくことを恐れるように。もっと他の分野で使えばいいであろう熱量を嫌がらせに費やしたエカチェリーナはもう大切なモノ・目的を見失っていた。

 ……ジンへの愛情を見失っていたことに気づいていなかった。

「(悲劇のヒロインならぬ悲劇のヴィランっていうか……でもこれで彼女の罪は帳消しにはならない。)」

 登校時に考えていたことだが私(俺)は「いじめ」という行為を絶対に良しとしないし、情状酌量とかそういうのも無しではっきりと「悪」だと思っている。最悪「死」に繋がる故に、だ。

 ジンは友人に証拠写真・映像を入手してもらい、公開処刑という断罪をエカチェリーナにやってのける。そしてトドメに

『僕には君への愛なんてモノは最初から無かったよ。それは今も、これから先もくれてやらない。』

 ……と言い放った。そのセリフでエカチェリーナは腰が抜けて力なく座り込んでしまい、次のシーンに移る為の暗転が入る。原作はこうだった。こういう展開だった。

 この後自暴自棄になったエカチェリーナは学園に放火をし、その罪で投獄されるのだ。そして火刑に処されて終わる。ジンのルートはエカチェリーナを断罪し、その後アイリッシュと婚姻を果たす。その婚姻は驚かずにはいられないモノ。……跡継ぎの座を弟に譲ってただの「ジン」としてアイリッシュの夫となったのである。其れ程までにアイリッシュを愛しているということを証明したのだ。

 

 そんなトンデモ展開のジンルート。フラグをそのまま拾っていけば私(俺)はアイリッシュをいじめていじめていじめ抜いてジンに断罪された後火刑…の二人にとって邪魔な存在となるというのに。……というのに。

 今朝の様子では私(俺)は二人にとって邪魔な存在ではない。むしろ「友人の一人」のように扱われている。どうして?私(俺)は何かやっちゃったのか?また何かやっちゃいました?……いややってない。

「(やったことといえばマリスの機嫌を損ねることが無いように必死でイエスマンに徹していたことだけだ。あの二人には一言二言ぐらいしか話していない。それも挨拶ぐらいだし。)」

 ……ならば私(俺)はどうして二人に関するフラグを回避できているのだろうか。私(俺)が転生する前のエカチェリーナが回避していたのか?…まさか。あの彼女がそんなことをするタマなわけがない。謎が一向に解けないぞ。

「(こういうのはチート能力を発揮してフラグを回避し登場人物とそれなりの関係を築いてハッピーエンド……っていうモノじゃないのか?)」

 私(俺)に備わっているチート能力じみたモノは「愛の鎖に関する知識」のみ。でもその能力を使ってフラグを回避していない。「私(俺)が何か行動を起こす前」に「フラグを回避した」ことになっている。

 …つまりこの世界で私(俺)のできることは、

「原作と乖離したシーン・展開を目の当たりにしそのまま流れるように生活を送ること」

 ……だけである。「ジンルート」で「エカチェリーナがアイリッシュをいじめ抜くことがなく」、「エカチェリーナがジンたちに断罪されることもなく」、「エカチェリーナが学園に放火もすることなく」。……「エカチェリーナが投獄されず」に「火刑に処されること」も無い世界。

 そんな世界で、私(俺)は生きていくことになるのだ。こんなの「虚無」だ。必死で回避しようと考え行動しようと意気込んでいたのに。蓋を開けてみれば何という。

「私(俺)にできること……」

 ……もう、こうするしかない。

 私(俺)……朝比奈ナツメ…いや、エカチェリーナ・アイリスは……。

 

「(原作とかフラグとか考えずにそのまま第二の人生を送ってしまえばいいんだ‼︎)」

 

 ……人はそれを「やけくそ」というんですよ。 

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