【三:義弟とお話】
一眠りした後、俺…いやエカチェリーナに転生したから私?はメイドに衣服を替えてもらった。すげーフリル。しかも刺繍とかが細かいの。俺にとっては初体験でしかなかった。
「はい、できましたよお嬢様。」
「ありがとな……じゃなかったありがとう。」
慣れないのは着替えだけじゃない。言葉遣いだ。私(俺)の身分はお嬢様なのだ。だからそれなりに丁寧な言葉遣いをしなければならない。普段の言葉遣いなんてしたらお母様にビンタされるだろう。義弟マリスが「はーい」って返事しただけで怒ってたからな。
メイドに着せてもらった衣服のスカートを少し持ち上げて私(俺)は階段を降りていく。今度は転けなかった!良かった!私(俺)階段が死因だったからめちゃくちゃ気にしている。階段を。
落ち着けよ私(俺)。今はお嬢様だからバタバタ走らない。かと言ってモタモタ、ソロリソロリ、なんてのもみっともない。シャキッと歩くんだぞ!
広間に来た私(俺)の目の前に現れた人物が居た。
「姉さん!もう大丈夫なの?僕物凄く心配したんだからねっ。今度から気をつけてよ?」
「ええ、……事故とはいえ私(俺)の不注意だったわ。貴方の言う通り気をつけるわね。」
……義弟のマリスだ。
「それなら大丈夫だね。明日の学校行けそうだし。一緒に登校しようね!」
明るい笑顔で明日の約束を取り付けるマリス。天使みたいな……いやこいつ天使じゃねぇわ。
何故否定したのかというと、彼のゲーム内の行動全体を改めて考えると天使とはいえないからだ。
『姉さんってほんっとゴミみたいな性格だよねぇ。お父様の権力使ってこの子を学園から追放だけじゃなくこの世から消そうとするなんてさぁ。うちの本当の家族じゃないくせに。』
『○○、君は何だか今までにない面白い子だよね。いや、比較対象があのクソ女だったからかな……いやでも君の行動には目が離せなくなってるのは本当だからね。どう?このまま僕と結婚しちゃわない?』
……とか言ってくる奴だからな!
このマリスという義弟、ゲームでは「隠し攻略キャラ」というポジションにいる。隠し攻略キャラというのは、攻略キャラのエピソードを全開放した時に現れるルートの攻略キャラということだ。
彼から断罪を受けたエカチェリーナはとても傷ついたことだろう。義理だが弟から罵倒されてしまったのだから。
「(こいつは気をつけなければならないキャラの一人だ……よし、覚えたぞ。)」
行動指針としては、「主人公をいじめない」のは全キャラに対して当然のこと。彼には「父親の権力を武器にしないこと」だ。血の繋がっていないエカチェリーナが自分の父の権力を悪用しているなんてのはマリスにとって不快極まりないことだと思うから。
「うふふ、明日貴方と登校するのが楽しみね。」
とりあえず返事をしておく。私(俺)はマリスを不快にさせてはならない。謙虚に、謙虚に……。
私(俺)に笑顔で話していたマリスは、急に真顔になって私(俺)の顔を覗き込んだ。え⁉︎考えてることバレてる⁉︎
「姉さん。昨日姉さんにボールをぶつけた奴の特徴って覚えてる?」
「へ、ぇっ⁉︎」
少し声が裏返ってしまった。はしたない……。だって真顔で昨日の悪ガキの特徴聞いてくるんだもん…。
「そんなの、覚えてないわ。私(俺)はその時後ろを向いていてそいつの顔なんて全然見えなかったんだから。」
正確に言うと階段の角に後頭部を打ちつけたんだけど。だから悪ガキの正体なんて全然分からない。適当に言ってその条件に当てはまってしまった無関係な人物に迷惑かけたくないし。
「ふぅ……ん、そう。」
「ほら、もうその話は終わりにして?他の話題にしましょうよ。」
ちょっと俯いてマリスは少し低い声を出す。そんな彼を見ると断罪シーンを思い出してしまうので早くあの笑顔に戻ってほしい。そう思うしかなかった。私(俺)の話題を変えようという提案にマリスの表情はすぐ元の笑顔に戻った。
……嗚呼良かった。火刑エンドを回避するにはマリスを不機嫌にしてはならない。
この後私(俺)たちは庭に出て紅茶とお菓子を味わったり、流行りの音楽について話したりした。今日は何とか彼の機嫌を取ることに成功した気がする。
「姉さんに…させた奴…て…んだ…。」
マリスが誰かに電話をしていたことは気になったが大したことではないだろう。よし、私(俺)は明日に備えて寝よう。性転換・フラグ回避とストレス溜まりやすいことをやってたからもう眠い眠い。
……おやすみ。