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【一:私(俺)は悪役令嬢】

 俺は夢を見ていたのだろうか。いや本当に夢なのか?

 俺の見た夢はとある女が全身全霊をかけて憎しみを吐露し炎の中に飛び込むというものだった。

 見た目、言動から貴族とかそういう裕福な家庭で育ったような女だった。何もかもを覆い尽くせるように黒い長髪。血に近いくらい赤い瞳。それを際立たせる吊り上がった目つき。

「俺何かそんな本読んだっけな…いや本じゃねぇな。声も聞いたことがある気がするってことはアニメかゲームか?」

 時々自分が出てる夢のはずなのに他人や二次元の存在視点…ということがある。今日もその類なのだろうか。困るよな、俺の夢なのに。

「……まーいいや。今日は日曜だからゆっくり朝飯食べよ。うん、そうしよ。」

 腹減ってたらまともな思考ができない。然程重要なこととは思えないので食後テレビ見ながらでも考えるか。そうと決まればいざリビング。ベッドから起き上がって階段へと向かう俺であった。

 

『貴女ね、生意気なのよ‼︎平民のくせに私の婚約者であるジン様に付き纏って‼︎彼がどれだけ迷惑に思っているかなんて、貴女にはてんで分からないでしょうね!平民なのだから‼︎』

 

 ……うーわ。

 姉ちゃんの部屋から女のヒス起こした声がする。この声の正体はわかる。姉ちゃんがプレイしてる乙女ゲーム「愛の鎖」に出てくるライバル女:エカチェリーナの声だ。彼女の声を担当してる声優が若手ながらめっちゃ上手い部類だから一定数のファンが居るキャラだ。

 というか姉ちゃんイヤホン付けろよ。いくら何でも朝っぱらから女のヒス声聞きたかねぇよ。たとえ演技の上手い声でもヒス声は俺には大ダメージを与えるんだよ。

 よし、文句言ってやろ。

「おい姉ちゃん!イヤホン付けてゲームしろよ!」

「ちょっと待ってってナツメ!今いいとこなんだって!」

「俺にとっちゃ悪いとこだよ‼︎」

 勢いよくドアを開けて文句を言ったら即返された。

「第一いいとこってライバル女がヒス起こして主人公に突っかかってるとこじゃねぇか。あれか?彼女の声優の演技目当てってか?」

「んーん違う!このあたりで攻略キャラのジンが主人公を庇っていろんな真実や事実をエカチェリーナに突きつけて断罪するの‼︎主人公を抱き寄せながら‼︎」

 断罪?……断罪?

「主人公に嫌がらせしてくる悪役令嬢エカチェリーナを断罪してザマァする展開!有りがちというか昨今流行ってる展開だけどこういうの需要あるんだよね。んでこっから先ネタバレだけど最後エカチェリーナ火刑になるんだ。学園に放火とかいう思い切ったことしちゃって。」

 つまり?主人公に嫌がらせをしてくるライバル女を攻略キャラが罵倒し倒すってこと?主人公は一切口出し手出しせずに?え?こんなの需要あるの⁉︎

「気分悪くならね?イケメンが女の尊厳踏み躙ってるとこ見ててさ。乙女ゲームってそんな殺伐としてたもんだったっけ…。」

「まぁなんないんじゃない?自分=主人公って考えてる人で愛されたい!都合よく恋愛したい!って思ってる人なら特に。」

 

 おお恐ろしい世界。俺金輪際乙女ゲームに触れないようにするわ。なんかこえーから。

「…じゃあ俺下に降りて飯食ってくるから。イヤホン付けてゲームしろよな。絶対だぞ。」

「うんわかったー。」

 姉ちゃんの気持ちのこもってない返事を聞いて、俺は階段を降りる。いやー朝っぱらから不快だわ。

 そういや。あのライバル女…姉ちゃん曰く悪役令嬢のエカチェリーナ。長い黒髪に吊り目の赤い瞳してたな。声も…何か今朝俺が見た夢に出てた女そっくりだったような。

 あの女も最後火刑にされてたような…じゃあ夢の中のあいつは悪役令嬢のエカチェリーナだったのか?

「なんで俺無関係のゲームキャラの夢見てんだ?そっからわかんねぇって。」

 うーん、うーんと考えながら俺は階段を降りていたのだが。

 ズルッと。

 右足が滑った。階段を降りていたから後頭部を強打する恐れがある。

「(いやいやいやそれだけは勘弁ッ…!)」

 だが現実は非情なものだ。階段の角部分に後頭部を強打してしまったのだ。出血したような感覚。じんわりと来る鈍い痛み。それを味わい俺は意識を失ってしまったのだった…。

 

 

 

 …。……。

 …………ん?俺、生きてる?

 あの痛みは?血は?傷は?何だかそれらは最初から無かったかのように起き上がった俺はピンピンしていた。

「嗚呼エカチェリーナ!やっと目が覚めたのね!」

「ほうらミカエリス!我が娘が悪ガキの放り投げた野球ボールが当たったぐらいで死ぬわけがないだろう‼︎」

 

 エカチェリーナ?我が娘?

 んで……目の前に居る裕福そうなご夫婦はどなた…?

 

「貴方たちは…誰……?」

 正直な気持ちを俺は吐露した。だって知らない人だし。俺の疑問を聞いたご夫婦は目を丸くして驚いていた。いや驚きたいのこっちなんだけど……。

「エカチェリーナ⁉︎貴方!やっぱりエカチェリーナは打ち所が悪かったんだわ‼︎もう一度お医者様を呼んで…!」

「落ち着きたまえミカエリス!大袈裟に騒いで彼女を変に刺激してはいけない!」

 慌てふためくご夫婦を他所に俺は状況を整理しようと試みた。

 どうやらこの「エカチェリーナ」は俺のことで、悪ガキが放り投げた野球ボールが頭に当たり気を失っていたようだ。長時間気を失っていた為このご夫婦…エカチェリーナの両親は心配して寝室に付きっきりだったらしい。

 えらく心配かけたな……お金持ちって結構気取ってるなんて偏見持ってたけど彼らを見てたらそんな認識吹っ飛んだ。「両親」ってのをめちゃくちゃ感じる。

 だが俺は彼らの子供ではない。というか娘でもない。男だし。……でも何だか体に違和感が。何というか…性別的な違和感が……。色々言い合っている夫婦の後ろに置いてある鏡を見てみる。この行動で違和感の正体が明らかになった。

 黒い長髪。それは何もかもを覆い尽くせるように濃い、濃い黒。

 赤い瞳。血や炎を思わせるぐらいの赤。

 吊り上がった目つき。何者かを射るかのような鋭い目つき。

 この特徴。間違いない。姉ちゃんがプレイしていた乙女ゲームのライバル女……。

 「エカチェリーナ・アイリス…。」

 姉ちゃん曰く「悪役令嬢」。「主人公をいじめる存在」で「攻略キャラに断罪される存在」。そして最後には……

 ーーーー「火刑に処される女」。

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