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【十一:義弟の様子がおかしい】

お屋敷に帰ってきた私(俺)とマリス。……と私(俺)・マリスを迎えに来てくれた執事:ミゼル。これはいつもの三人だ。

 ……でも何だかおかしい。今まで何度かマリスが不機嫌な顔をしていたけど、今回は一際不機嫌で険しい顔をしていた。その顔をしたままミゼルに何か言っている。

 更におかしいのはミゼル。ミゼルは普段からニコニコと胡散臭い笑みを浮かべて喋っているのに、今回は無表情に近い顔でマリスの話を聞いている。一体全体どうしちゃったんだ?

 私(俺)は馬鹿正直に「二人ともどうしたの?そんな顔して……」と聞こうかと思ったがやめておくことにした。だってここが火刑エンドのフラグになるかもしれない。マリスが更に不機嫌になって有る事無い事を両親はじめ周囲の人間に言いふらして私(俺)を四面楚歌の状態にして追い詰めるかもしれない。それに自棄を起こした私(俺)が学園に放火したり酷けりゃ何人か殺してしまうかも。「どうせ死刑なんだもの!何人殺しても同じだわ!」とか言って刃物を振り回す可能性もゼロではない。

 うう、私(俺)ずっと唸りながら考え込んでる。つらい。

 

 ああもう。

 ……自棄、起こしてしまおうかな。

 でも放火とか殺人はしたくない。犯罪だし。いじめは絶対にしたくない。私(俺)にとっては立派な犯罪行為だから。

 じゃあ何をするか。

 

①法律に反する行為ではない。

 これは当たり前だ。犯罪なんてしたら火刑エンドだけじゃ済まない可能性がある。膨大な慰謝料払わされるエンド、とかな。それは絶対にお断りだ。

②原作乙女ゲームの関係をできるだけ壊さないようにする。

 これは「できれば……」な条件だ。もう乖離している部分が多い状態だが(アイリッシュの性格とかウォッカ先輩たちとか)、できるだけ拗れた・捻れた関係に発展することがないようにしたい。

 例えば、ジン以外の攻略キャラと恋愛関係になるとか。

 この世界は本筋ではジンと結ばれるルートなのだが、マリスとミゼルの行動が隠しルートと似ているので何かしらのアクシデントにより本来なら存在しないはずの逆ハーレムルートが発生している可能性が浮上した。だから最低限の交流(挨拶・授業を一緒に受ける…)しかしないようにもしたい。

 

 大まかだけどこの二つだけは譲れない。

 そこで私(俺)の行き着いた答えは。

 

「(家出、しよう。)」

 私(俺)は今悪役令嬢:エカチェリーナ・アイリスだ。娘・息子を溺愛している両親から多くのお金をもらっている。あんまり触ってなかった自室の引き出しを開けてみるとそれはもう出るわ出るわ。現代庶民じゃ到底手にすることもできないような金品とかかなりある。恐るべしアイリス商会である。

 この金品をある程度持っていこう。質屋に持っていって換金してもらえば長期の家出の足しになるだろうから。でもカバンは大きくないものにしなければ。かの有名な王妃たちは金品などをたくさん馬車に詰め込んで逃亡を図るも失敗してしまったのだから。欲張ってはいけないのだ。

 そうと決まれば今夜にでも決行だ。善は急げ、ってな。

 ……いや、家出って「善」なのか…?

 

 そんなこんなで、あっという間に夜中になってしまった。家出作戦決行である。

 

「(ごめんなさい、お父様。お母様、マリス、ミゼル…ベルモット…。)」

 家族みんなが寝静まり、巡回している執事やメイドにガードマンの気配がしないことを確認できた。よし、ちょっと細長い旅行用カバン(リュックサックとかにありがちなシャカシャカした布地を使用している)を背負い準備していたロープを垂らしてお屋敷を出よう。

 できるだけ音を立てずに、素早く。……どうやら運動神経は転生前…男子だった時そのままだったようだ。よかったよかった。

 

 私(俺)はお屋敷を離れ、大通りに出る。まずは第一関門のお屋敷を脱出することに成功した。ほっと一息……はできなさそうだ。まだまだ遠くに逃げなければ。時間は夜中だ。大通りに出ても転生前の繁華街じゃないからほとんどの店は閉まっている。だから人が少ない。私(俺)が部屋に、ベッドにいないことに気づいたお屋敷の人が追いかけてきたらすぐに捕まってしまう。いくら転生前の運動神経がある私(俺)でも大人数で来られたらひとたまりもない。

 少し息切れがしてきた。給水ポイントのないマラソンをしている状態だからだいぶハードなことをしているんだと自覚する。

 どこか…息を整えられる場所、物陰……。

 前・左右を見ながら必死で休憩場所を探す。…ない。店の看板やベンチなどは閉店と同時に店の中や倉庫に持っていってしまったから死角となる場所がない。倉庫とかの陰を探してみたが大通りの店は店と店の間がとっても細く狭いので大した休憩場所にならない。

 

 もう、このまま突っ切ってしまうしかないのか。

 私(俺)の身体、もっててくれよ……!

 

 などと思っていた時。

 曲がり角から一人の女の子が現れた。危ない…ぶつかってしまう……!

 

「…え…⁉︎エカチェリーナさん…⁉︎」

 えっ…嘘……アイリッシュ?

 なんでこんな真夜中にアイリッシュが…?と思うと同時に私(俺)は彼女に少しぶつかって転んでしまった。いててて……。あ、怪我してないよな⁉︎アイリッシュ!

「わっ⁉︎大丈夫ですかエカチェリーナさん!思いっきり転んで…あ、擦り傷ができてる…。」

「大丈夫、大丈夫よ……ごめんなさい。ちょっと私(俺)は急いでるので…」

 どいてください、と言い終える前にアイリッシュは真剣な顔で

「だめです!ちゃんと手当てしないとバイキンが入って膿とか…酷くて壊死とかしちゃったらどうするんですか!私、手当てします!……あと、事情がおありでしょうから他の人たちには絶対言いません。ジンにも言わないようにしますので。」

 …と言ってくれた。

 彼女の行動・言葉に少し泣きそうになった。今私(俺)のやっていることはただのエゴ。自分が逃げよう、ってだけでここまで走ってきて勝手に転んだだけだ。そんな私(俺)を放っておかずに懸命に手当てをしようとしてくれている。

 更には、「他の人たち」には言わないとまで言ってくれたのだ。

 なんて優しいのだろう。やはり彼女は「乙女ゲームの心優しい主人公」なんだ。

 

「アイリッシュさん、ありがとう……。」

「いいえ、私はお昼に貴女に助けてもらったから『お返し』…ううん『恩返し』ですね。それをしたかった、っていうのもあります。」

「そうなのね…。」

 こうして彼女に手を引かれ私(俺)はとある建物の中に入ることにした。

 その建物とは。

 全体的に白くて、てっぺんにいい音を奏でそうなベルがある建物。

 そう、教会である。 

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