【閑話三:お嬢様(姉さん)】
姉さんを部屋に帰らせた後。僕はミゼルと二人になる。
「ミゼル。姉さんに怪我を負わせた犯人を始末してくれてありがとう。」
「いえいえ、当然のことをしたまでです。……お嬢様の『御神体』に傷をつけるだけでなく穢そうとしたのですから、本当なら奴らは原型を留めず路上に捨てられていたでしょうね。マリス様との通話で正気を取り戻しました。」
相変わらず血気盛んだなぁ。ミゼルは。彼は今でこそ涼しい顔をして淡々と話しているが、心中は何度もブチ切れて諸悪の根源を完膚なきまでに叩きのめそうという炎がメラメラと燃え上がっている。……姉さんのことになると更にその怒りは倍増する。
だってミゼルにとって姉さんは、
「自身を救ってくれた女神」
……だからだ。
「正気を取り戻せたんだ。それはよかった。…ああ、ミゼル。せっかく任務をこなしてくれたけど新しい任務ができたんだ。少し休暇を与えたい、と思っていたんだけど。」
無茶なことを言っていると自覚している僕は、ミゼルの方をチラリと見た。彼の表情は、「疲れ」なんてものを微塵も感じさせない涼しい顔をしていた。むしろ嬉しそうな顔をしている。
「いいえ、今すぐ任務に取り掛からせていただきます。……その任務は、お嬢様に関することでしょう?」
うわぁ。こいつは姉さんが関わることなら何でも嬉しそうにやり遂げようとするんだから。だって「女神」である姉さんのため、だもの。女神の行く道を阻むものは徹底的に排除する。
……任務を遂行してくれるのは嬉しいけど、やっぱり心配ではある。
「ミゼル、いい加減疲れない?日々の仕事に任務を立て続けにやってるじゃないか。いや命じてる僕が言うのも何だけどさ。」
僕のその問いに対して、涼しい顔のまま返答する。
「疲れませんよ。……私が『普通』じゃないのはマリス様もご存知でしょう?」
ああそうだったね。お前は「普通」じゃなかったね。
僕はさっきの労いの言葉を取り消して、次の任務について説明する。
「今日学園でね、姉さんのクラスメイトのアイリッシュが言ってたんだ。『姉さんのことが気になっている奴が居る』…って。」
「おやおや。おやおやおや。そんな方が『まだ』居たのですね。」
あーミゼルに火がついた。怒り半分悲しみ半分。今回の任務も怪我人多めかなぁ。
僕にとっても、ミゼルにとっても。
邪魔な存在は排除に限るよ。
いつだって、ね。