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【序:とある令嬢】

【序:とある令嬢】

 私はあの娘が憎かった。だって婚約者を奪ったのだから。

 毎回成績学年一位を獲る学級委員長を奪ったのだから。

 お気楽に生きている学園の人気者を奪ったのだから。

 お父様の権力を借りて嫌がらせを繰り返しても懲りずに男に媚びを売る。

 ーー平民のくせに、小汚い娘のくせに。

 階段から突き落としても、立ち上がる。

 平民だからあまり予備の無い制服をビリビリに切り裂いても、得意の裁縫技術で乗り切る。

 貴族たちにとって下品極まりない噂を流しても、協力者を得て強引ながらも誤解を解く。

 ……憎い。あの娘、が、憎い。

 殺したい、潰したい。嗚呼、治らない憎悪。いいえ、治らなくていい。

 沸き上がれこの憎悪の念!その憎悪、炎に焚べて更に大きな炎にしてやろう!

 あの娘に都合のいい存在に成り果てた男たち、クラスメイト、教師も。

 娘のテリトリーと化した憎き学園も。


 燃やせ。

 赤く、赤く。血も添えてやろう。

 燃えて、しまえ。


 ーーーそれだけ、それだけなの。そう、動機なんてこんなに単純なの。

 ふふふ、あはは。


 そう。……私は今から刑を執行されるのね。それも、火刑。

 学園に火を放ち燃やし尽くした私にお誂え向き、と思ったのでしょう。

 センス最悪よ。最底辺。…いいわ、そのお粗末なセンスに乗ってあげる。


 ーーーあの娘。私の婚約者と、結ばれたのね。お人好しなあの男とあんたはお似合いよ。…最悪だけど。

 あは、絶対祝福なんてしてやらない。だって私から奪って得た愛なのだから。

 あんたたちはこれからずぅーーーっと私の呪いを受けるがいいわ。

 せいぜい不幸せな結婚生活を送るがいいわ。


 ばーーーーーーーか‼︎


⦅囚人番号XXX:エカチェリーナ・アイリス 火刑執行前の呟き⦆

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