9話 竜姫の寝床
竜王の宮殿を出てルーナに案内された先は、神殿のように洞窟の一角をくり抜いて作られた、真っ白な部屋だった。
やはり古竜といえど姫君ということか、清潔で綺麗な場所だと感じられた。
『ここはわたしの自室です。普段はドラゴンの姿で使っているので、人間からすれば大分大きいかもしれません。それに物がなくて少し殺風景でしょうか』
部屋を見せたからか若干緊張気味のルーナに、俺は首を横に振った。
「いいや、大分綺麗でいいと思うぞ? 俺が世話をしていたドラゴンたちの竜舎は、寝藁や鱗でかなり散らかり放題だったから」
『そう言ってもらえると安心します』
ルーナは安堵した様子で微笑んだ。
それから部屋の一角にある、柔らかな草木を編んだような寝床を指した。
『普段はあそこで眠っているのですが、今宵はレイドもあそこでお休みください。他に良い場所もないので。その、わたしが使っている場所は嫌かもしれませんが』
「全然そんなことないよ。寝床を貸してくれるだけでも嬉しいし、少し興味もある」
文献によれば、古竜は希少な草木を魔力で編んで寝床を作ると言う。
魔力を器用に扱える古竜だからできることだが、実際に目にするのは初めてだ。
荷物を降ろし、寝床に横になって感触を確かめつつ匂いを嗅いでみると、香草も編み込まれているのか優しい匂いがした。
『そ、そんなに匂いを嗅がないでください……!? 恥ずかしいですっ!』
「あ、悪かった。でもただ匂いを嗅いでいた訳じゃないぞ、少し待ってくれ」
俺は持ってきた荷物の中から薬草の一種であるネムノ草などを取り出し、手短に魔術で調合する。
そして小さな袋に調合した物を詰めると、ルーナは頬を綻ばせた。
『心が安らぐ良い匂いです。これは一体?』
「ドラゴンをリラックスさせる効果のある、香り袋だ。香りがいいのは勿論、俺が世話をしていたドラゴンたちにも好評でさ。何よりルーナの寝床に使っている香草たちとも相性がいいから、快眠になると思って」
俺が寝床の匂いを嗅いだのは、ルーナの寝床に使われている香草の種類を調べるためだ。
ドラゴンが好む香草は大抵知っていたので、匂いを嗅いで種類を把握し、相性のいい薬草を詰めた香り袋を作れたという寸法だ。
試しに香り袋を脇に置いてルーナを寝かせてみると、ルーナは目を丸くしていた。
『おお、これは……! 調合した薬草の効果で魔力の回復効率が三割ほど増している気がします』
「魔力回復も見込んだものだからな。古竜にも効果があってよかった」
ルーナは寝返りを打って、こちらを見つめる。
『レイドのお世話していたドラゴンたちは皆、こんなに素晴らしい環境で毎晩寝ていたのでしょうか?』
「俺の世話するドラゴンたちにはゆっくり体を休めて欲しかったから。これくらいは気を利かせていたよ」
『流石は一流のドラゴンテイマー、細かなところまで気を配っていたのですね』
瞳を輝かせるルーナ。
こうも素直に褒められると、少し照れてしまう。
『お父様の体調改善の件もですが、やはりレイドはこの渓谷に必要な人材です。ぜひ永住を検討してくださいませ』
「大げさだよ。でも他に行くあてもないから、そう言ってもらえると素直に嬉しい」
俺の調合した香り袋は人間にとってもある程度のリラックス効果がある。
その日の晩、俺はルーナと共にぐっすりと休むことができた。
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