79話 反撃
【お知らせ】
本作のコミカライズが一二三書房のコミックノヴァにて連載されます!
コミカライズは岸本悠希先生に描いていただきます!
11月10日から連載開始ですのでよろしくお願いします!
反撃開始の決行時刻である正午。
魔神の住まう天界へ乗り込む面々は、竜の国の中央へと集結していた。
集まった古竜の数はざっと数えただけでも二百以上。
さらに空竜であるフェイたちも加えれば三百を超えるかといった規模だ。
また、古竜の背には槍などで武装した猫精族の若人も数名おり、猫精族の呪い師から勇気と武運を授かる戦化粧と祈祷を受けていた。
彼らを見守りつつ、古竜と共に並び立つフェイたちへと近寄る。
「フェイ、悪いな。ヴァーゼルを倒した時に続いて、こんなことにまで付き合わせてしまって」
するとフェイは『何を言うかと思えば』と陽気に笑った。
『寧ろレイドやルーナ様には感謝しているよ。我ら空竜にとっては聖地である竜の国へと招いてくれて。それに嬉しいのだ。こうやって最後までレイドの力になれることが。神竜帝国に住む我々空竜に最後の思い残しがあるとすれば、レイドだったのだから』
「最後だなんてそんな、縁起でもないこと言うなよ」
すると空竜たちは各々、語り出す。
『僕らがいなくても元気でやっているかなとか。あまり忙しく働いていないかなとかさ』
『レイドは仕事好きだからね~』
『こうやって元気な顔を見られるだけでも満足ってものだよ』
そしてフェイは鼻先を近付けてくる。
老いた竜特有の優しい眼差しと、年季を感じさせるひび割れた鱗が視界に広がる。
『前にも言ったが、私は既に老兵だ。この命を、まだ若き家族のために使えると思えば。これ以上の終わり方はない。それにレイドはまだ生きねばならない。生きて、成すべきことを、未来を。どうか自由に描いてほしい。それが、レイドの家族として私が抱く最後の願いだ』
「フェイ……」
きっと神竜帝国から飛んで来た時から、全て覚悟した上で来てくれたのだろう。
空竜は竜種故にその強さは凄まじいが、それはあくまで他の魔物と比べた際の話。
古竜と比べれば生命力も魔力も劣り、それ故にこの戦いは、フェイたちにとって厳しいものとなるだろう。
……当然、賢い彼らはそれら全てを承知の上でここに集ってくれたのだ。
アイルの言葉ではないが、彼らの覚悟を無駄にする訳にはいかない。
「……ありがとう。でも無理はしないでくれ」
『それはな。本音を語ると、レイドの子を見るまでは死にたくない』
冗談交じりに笑うフェイ。
周囲の空竜たちもくすりと笑った。
そうして、反撃前最後の穏やかな時間を過ごしたところで、俺はルーナの姿を探す。
どこにいるのかと周囲を見回すと『レイド』と軽やかな声が聞こえた。
そちらを向けば、古竜たちをかき分け、古竜の姿のルーナが姿を見せる。
しかし普段の彼女とは違い、今のルーナは全身を武装していた。
鱗と同じ色合いの、銀の装甲を身に纏い、背には鞍を背負っている。
「ルーナ、どうしたんだそれ」
『竜の国に伝わる秘宝の一つです。かつてミカヅチが神竜に武装させたものと伝わっています。如何なる時も持ち出してはならぬと伝えられている品なのですが、今回ばかりはとお父様が持ち出しを認めてくださりまして。しかもこの鎧、リ・エデンと同じく真神鉄で造られているようで、強度は折り紙付きです。さらに竜の体格に合わせて大きさが変化する力まで備わっているようでした。……似合っているでしょうか?』
「ああ。とっても凜々しく見える。かっこいいよ」
『それは……よかったです』
ルーナは褒められてまんざらでもないようで、古竜の姿ながら少し照れているのが伝わってきた。
「しかしルーナが鎧を着ているのに、俺がその辺の服っていうのも少し締まらないな」
ノルレルスに胸部を貫かれた服は正面どころか背面まで大穴が開いていたので、現在はイグル王国へ行った際に購入していた予備の服を着ている。
普段の衣服は竜の鱗でも切れない程度には頑丈だったが、現状のものだとそうもいかない。
剣以外の装備が貧弱だなと危惧していると、ちょんちょんと俺を後ろから突つく指を感じた。
「……レイド。あなたはこっち」
後ろを見ればミルフィがいて、さらに猫精族たちが複数の木箱を抱えている。
その中の一人はロアナだった。
「レイドお兄ちゃん! 持ってきたよ!」
「ロアナ。持ってきたって……何をだ?」
ロアナはストンと俺の前に木箱を降ろした。
木箱の大きさに反し、音からして中身は意外と軽いのか。
そのまま蓋を開けたロアナは、中からいぶし銀に輝く手甲を取り出し、掲げた。
「これ、レイドお兄ちゃんの!」
その手甲を見て、俺は思わず「これは……!」と声を上げた。
するとメラリアが補足説明をしてくれた。
「これは我が里に伝わる鎧です。守護剣……リ・エデンほどの逸話は伝わっていませんが、かつて高名な武人が装備していたとのこと。これも役に立つかと思い、里を脱出する際に持ち出してきたのですが……。もしかすれば、かのミカヅチ殿が所有していた品ではないかと」
「うん、正解だよ。ミカヅチの記憶でも見たことがある」
姿見の前、嫌な顔をしつつ「非常に軽い素材ではあるが、神竜帝国風の鎧とは。普段の着物の方が動きやすい」と愚痴るミカヅチ。
そんな彼を「良いじゃない。似合っているわよ」とおだてる猫精族と思しき少女。
……前にアイルが言っていたミカヅチの仲間だった猫耳の少女とは、きっと彼女だ。
メラリアのご先祖様なのか、少女は顔立ちも髪色もよく似ていた。
そしてロアナから手甲を受け取ると、確かに金属とは思えないほど軽かった。
「ミカヅチの使っていた装備一式。……ありがとう、お借りします」
俺はその場で猫精族たちの手も借り、手早く鎧を身につけていく。
すると鎧は不思議なほどに体に馴染んだ。
ミカヅチは嫌そうな顔をしていたが、それは彼の戦い方が圧倒的な速度と膂力で敵を叩き斬るといったものだったからだろう。
俺としては鎧があった方が気休めでも安心感があった。
それから古竜の姿となったルーナの背に乗れば、周囲から歓声にも似た声が響き渡る。
古竜も猫精族も口々に『正に皇竜騎士』「伝説の一幕を見ているかのようだ」と話している。
『レイド、せっかくなので神竜皇剣リ・エデンを。皆の士気も高まります』
「分かった」
俺は左の腰、ベルトに鞘ごと差してあるリ・エデン──右の方にはリ・シャングリラを差している──を抜き、暗天へと掲げた。
途端、剣もこちらに応えてくれたのか、天へと一筋の光柱を伸ばしてゆく。
それを見た周囲の皆はさらに声を大きくし、歓声が爆ぜたかのようだった。
同時、竜王が前に出て、語りかける。
『正しく伝説。この光景も、これから成す神殺しも、それによる世界の守護も。必ずや後生に語り継がれ、魔王討伐に並び立つ、あるいは上回る偉業として知られよう! 皆の者、心してかかれ。その末、悪神の魂胆を見事打ち砕き、必ずや帰還せよ!』
「『オオオオオオオオオオオオオオオオッ!』」
事実上の総大将である竜王の鼓舞に竜の国が湧いた。
普段無表情のミルフィでさえ、引き締まった表情で拳を天に掲げていた。
『ではアイルよ! 手筈通りに頼むぞ!』
「任されよ! 爆炎の帳をここにっ!」
竜王の合図を受け、アイルが爆炎を壁のように生じさせ、竜の国の東西を塞ぐ。
次いで竜の国の上へと屋根のように爆炎の帳をかけ、俺たちの頭上にのみ大穴を生み出した。
「さあ、行けっ!」
アイルのかけ声に、まず古竜や空竜たちが一斉に舞い上がり、炎の大穴を抜けて天へと向かう。
まず彼らを先に行かせ、魔滅の加護による結界を生み出すリ・エデンを持つ俺が、ルーナと共に最後に出撃。
直後に爆炎で大穴を塞ぎ、魔霧を竜の国に入れないようにするといった寸法である。
「ルーナ、俺たちも!」
『行きましょう!』
古竜の最後尾、ルーナが飛び立てば、竜の国に残る古竜や猫精族から声が上がる。
彼らは種族に関係なく、子連れであったり、まだ幼い者たちだった。
また、老いた者たちは未来を繋ぐためと、フェイ同様にそのほとんどが戦闘に参加するため既に飛び立った後だった。
「レイド殿! お願いします!」
「姫様! 頑張れー!」
『後はあなた方に全て託す!』
『いっけー!』
大人たちの希望、子供たちの願いを背負い、俺たちは竜の国を旅立った。
決して負けられない戦いの始まり、それでも恐れはない。
何故ならすぐ側には、唯一無二の心を通わせた相棒がいるから。
必ず共に生きて帰ると、決めたのだから。




