71話 魔神
建築物の白磁色、青々とした木々の色、清らかな水の色。
無垢なこの三色と透き通った空の色のみで彩られていた天界は今や、闇が覆う影の国と化した。
廃墟で揺らめいていた炎すら、他に食らうものがないかと、小さく蠢くばかり。
濃い闇の層は陽光さえ通さず、ただ重たくそこに立ちこめるのみ。
かつて神々の楽園だった瓦礫の上、一人の男が腰を下ろしていた。
彼は目を閉じ、しばらく──あるいは人間でいうところのそれなりの月日を──ただそのようにして過ごしていた。
中性的な顔立ちや容姿も含め、最早神像めいた美しい姿。
されど彼は何かを感じ取ったように睫毛を震わせ、ゆっくりと目を開いた。
「見つけた。……ようやく来たね、僕ら神族の命運を決する時が」
彼はゆるりと立ち上がり、傍らに突き立つ赫槍を手にする。
そしてもう片方の手を虚空にかざし、払った。
途端、天界の砕けた石畳の隙間から粘性のある闇が浮かび上がり、みるみるうちに人型となる。
「君らは僕の従順なシモベにして、新たな種族。神が創造した、人間以上に神に近いモノ。それらをかつて天界では天使と呼んだけれど……そうだな。ただ天使と呼ぶのみではつまらない。君らは僕の敷く新たな世界の住人なのだから」
彼はそう言い「どうしようかな」と声を軽くして顎に手を当てる。
闇より出でし人型は完全に形を固定化し、彼の前に跪いてゆく。
その数、天界の石畳を覆い尽くすほど。
これぞ正に、死した神々の遺した魔力を彼が制御下に置き、闇として変換し、完全に使役している証拠。
新たな天の軍勢の目覚めに、彼は「よし」と指を鳴らした。
「安直だけれど、君らは黒天使とでも呼ぼうかな。魔神たる僕のみに仕える従順なシモベ。では……行こうか」
魔神……ノルレルスは血色で彩られた外套を翻し、足下……即ち地表を指し、告げた。
「魔を統べる神、魔神ノルレルスの名において命ず。地表、神竜の末裔が住まう地へ逃れた神を迎えに行け。刃向かう者はたとえ神であっても殲滅して構わない。……目標の子以外はね」
ノルレルスは己の内の強大な魔力を解放し、その力を黒天使たちに分け与えてゆく。
力を得た黒天使たちは喜びに打ち震える。
その最中……人知れず、ノルレルスは小さく頬を引きつらせた。
彼は配下が皆、跪き顔を伏せているのを確認しつつ、心の中で続けた。
──この痛み。これまで動きを止めていたにも関わらず……やはり限界か。けれどそれでこそ、目標を得る価値があるというもの。
魔神らしからぬ中性的な顔に好戦的な微笑みを湛え、ノルレルスは配下を……かつての同胞のなれの果てを率い、天界を発った。
──天界を崩してもなお、彼の戦いは未だ終わらず。
──寧ろ終わりなき戦いこそが、彼の神としての宿命であったのだ。
──正に空の向こう、星を抱き、今なお広がり続ける暗黒の世界が如く。




