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68話 温泉と闖入者

 空に昇っていた陽が山に沈みつつ、空を茜色に染め上げる、夕暮れ時。

 竜の国では各々が一日の終わりを感じつつ、それぞれの拠点や巣へ戻っていく。

 俺やカルミアは猫精族の集落へと戻っていた。

 すると……。


「ささ、カルミア様。どうぞこちらへ」


「えっ、ええ……」


 猫精族たちはどうやら日中、今後カルミアが過ごす部屋を準備してくれていたようで、カルミアは真っ先にそちらへと通された。

 俺も気になって付いて行ってみれば、その部屋とは前にメラリアが過ごしていた部屋だった。

 猫精族の次の長であるメラリアは、長老や多くの猫精族と共に、今は彼らの故郷へ戻って復興を行っている。

 なのでもうこの部屋に戻ることもないだろうし、加えて広々とした部屋でもあったので、カルミアが過ごすにあたり不自由する心配もないだろう。


「いかがでしょう、カルミア様。何分、今日一日で部屋を準備したものでして。至らぬ点もあるかと思いますが……」


「至らぬ点なんてないわよ! 寧ろ私のためにありがとうね。大変だったでしょう」


「いえいえ。この程度、故郷を追われた時と比べれば」


「そ、そう……」


 猫精族の案内人は部屋や集落についてカルミアにあれこれと説明を加えていく。

 一方、ロアナは猫耳をぺたりと垂らしながらこちらに寄ってきた。


「レ、レイドお兄ちゃん……お疲れ様……」


「ロアナこそお疲れ様。そんなに疲れた様子で大丈夫か?」


 するとロアナは尻尾と一緒に肩を落とした。


「うん、大丈夫だけど、ちょっとね……。今日は大人たちがカルミア様のために頑張るぞ! って張り切っちゃって。あたしも一緒に色々と準備したり、子供たちのお世話も手伝ったりして……」


「そっかそっか。よく頑張ってくれたな」


 思わず手を伸ばし、ロアナの頭を撫でる。

 するとロアナは顔を弛緩させて「うにゃ~」と気持ち良さそうに目を細めた。

 マタタビ好きな点も含め、こういうところは猫らしい種族だと感じる部分だ。


「……そういえばロアナ、ミルフィは?」


 いつも二人は一緒にいるので、こうして別々なのは少し珍しい。

 ロアナは上階を指す。


「ミルフィなら部屋で横になっているよ。今日は疲れたから夕食の時間まで少し眠るって。……神様が来ているのに集落が汚いと一族の恥だからって、実は今日は大掃除までしたの。その時、ミルフィには水を操って色んな場所を綺麗にしてもらったから。疲れちゃったみたい」


「水精霊でもこの広さの集落の掃除は骨が折れるよな……」


 よく見てみれば、集落も普段より綺麗になっている。

 そうして各所を眺めていると、カルミアが色々と案内されている後方、一部の猫精族が手を合わせてカルミアを拝んでいるのが視界に入る。

 呟いている内容からして、願っているのは一族の繁栄だろうか。

 カルミアがなんの神様かは未だに不明であるものの、あの願いが叶えばいいなと思った。

 ……肝心のカルミアは拝んでいる猫精族に気付いた途端「……どうかしたの?」と首を傾げていたけれど。


「レイドお兄ちゃんはどうする? もう部屋でお休みする?」


「いいや、その前に温泉かな。一日かけてあれこれ動いたから体を綺麗にしないと」


「ん、分かった! なら大人たちにレイドお兄ちゃんが入っている旨は伝えておくね!」


 ロアナはそう言い、どこかへと駆けて行った。

 彼女がああ言ったのにも訳がある。

 竜の国にはいくつか温泉が湧いているものの、俺や猫精族が使用している温泉は現在、男女共用で使っているからだ。

 というのも、かつてルーナが入ってきた時のように、元々は男湯と女湯で分かれていたのだけれど……。

 少し前、飛行練習中だった幼い古竜が誤って温泉内に落下し、男湯と女湯を隔てていた仕切り壁を粉々に破壊してしまったのだ。

 しかも排水管なども一緒に壊れてしまい、俺や残った猫精族たちでどうにか素人工事を行い、ひとまずは温泉の形を取り戻したといった寸法だ。

 なので現状では仕切り壁までは修復できておらず、温泉に男女どちらかが入っている際は、もう片方が時間をずらして使うようにしていた。

 とはいえまだ時間帯も夜に入る前の夕暮れ時だ。

 今入っても誰の邪魔にもならないだろうと思いつつ、俺は自室へと着替えやタオルなどを取りに戻った。

 それからすぐに温泉へと向かえば、入り口の掛札──誰かが入っていればこの札で分かるようになっている──からして、やはり誰も入っていない様子だった。

 俺は自分の名の彫られた札を掛け、そのまま脱衣所へ移動する。

 まだ肌寒い時期でもあったので、そこから温泉の方へと出れば少しだけ風が冷たかった。

 湯で体を流し、そのまま温泉へと浸かる。


「ふぅ……」


 じんわりとかじかんだ手足の先が温まってくる感覚に吐息が漏れた。

 顔を上げれば夕陽がゆっくりと山の向こうへ沈んでいくのが見える。

 温泉に浸かって一日の疲れを癒やしながら、輝く夕陽をのんびり見届ける、贅沢な時間だ。

 俺は時たま訪れるこの時間がとても好きだった。


「……さて、明日はどうしようか」


 ぼんやりと自らの仕事について考えてみる。

 作業といえば、治癒水薬の生成が大きなものだけれど、治癒水薬の貯蔵は十分だ。

 魔物の動きが落ち着き、古竜たちが大して怪我を負わなくなったためだ。

 お陰で最近は治癒水薬をあまり作る必要がないため、俺の仕事にも少しゆとりができている。

 少し前には治癒水薬を濃縮して効果を高めたりといった試みも行っていたが、もう濃縮した治癒水薬の生成も不要かと思い、生成した分だけ保存して放置していた。

 他の仕事についても、古竜たちの鱗が生え替わる時期もまだ先なので、その手伝いも不要だ。

 忙しそうな猫精族たちの手伝いをするのもいいけれど、前にあれこれやりすぎて「守護剣をお持ちの方にこれ以上、このような雑用をお任せするのは……!」と断られてしまったのを思い出す。


「うーん、珍しく暇ができたのかもしれないな。となれば温泉の仕切り壁の修復……は一人じゃ無理か」


 ほぼなくなっている仕切り壁の残骸を眺めていたら、ため息が出た。

 巨大な壁をもう一度温泉内に建てようとしたら、間違いなく力自慢の猫精族の力も必要だ。

 けれど皆、今や赤子の世話や親の手伝いで忙しい。

 特に若い猫精族は大体が親になっているので、余計に頼めない。

 仕切り壁の修復は全く現実的ではなかった。


「ならカルミアの面倒を見るのがいいか。今日行けなかった分、竜の国の外側を案内するのも……」


「それいいわね! 是非お願いしたいわ!」


「……はい?」


 幻聴か? という思いと共に、前にも似たようなことが起こったなと思いつつそちらを向く。

 頼む、聞き間違いか何かであってくれと願ったものの、残念ながら神に祈りは届かなかった。

 一糸纏わぬ姿の神本人、もといカルミアが立っていたからだ。

 濃い湯煙で体は隠れているものの、以前のルーナと違ってタオルすら巻いていない。

 裸体を一切隠すことなく、両手を腰の辺りに当てていた。

 ──記憶と一緒に羞恥心も飛んだか⁉ もしくは神族って別に男女がどうとか気にしないのか? 

 国や地域によっては混浴が普通だったりするそうだしな、とそんなふうにも考えてしまった。

 ただしここは竜の国かつ猫精族の集落、異国ではない。

 他人にこの場を見られたらちょっとした騒ぎになるのは必至だ。


「あの……カルミア?」


「ん? 何よレイド」


「温泉の出入り口、掛札……してあったよな? 俺、入っているって」


 カルミアは顎に人差し指を当て、ひとしきり考え込む仕草をしてから。


「んー……あっ! あの小さな札ね、ごめんなさい。私、あの文字読めなくて。あれってレイドが入っているって合図だったのね。でも……それがどうかしたの?」


「……」


 あまりにもあっけらかんとしていると言うか、悪びれがないというべきか。

 堂々とした態度のカルミアに、俺はどう話していいものかと逆に迷ってしまった。

 異常事態の中、当事者があまりに落ち着いているというのは、こうも異質さが際立つものか。


「……あのだな。本来、温泉は男女別に入るんだ。だから今はその、男が入っている時は女の人は入らないようにしているし、逆の場合もそうなんだよ」


「そういうものなの? さっき案内されている時、猫精族の皆から温まると気持ちいい場所って聞いたから来てみたけれど。そんな話は別に……くしゅんっ!」


 風が吹いてきて、カルミアは小さくくしゃみをした。

 ……猫精族たちが俺の語った話をカルミアにしなかったのは、多分、彼女にもそういう常識がある前提だっただろう。

 まさか全知全能といったイメージのある神族の少女が、記憶喪失中といえど、若い男の入っている温泉に全裸で突っ込むとは誰も思うまい。

 というかここまで前提的な常識がないと、逆によく服を脱いでここに来たなとさえ関心してしまうが……そうか。

 脱衣所に入った際、脱いであった俺の衣服を見て「ああ、ここでは服は脱ぐのね」みたいに察したのだろう。

 ともかく、カルミアの記憶や神族の常識がどこまで俺たちの常識と合致するかは謎だけれど……こうなっては致し方ない。


「カルミア、俺は先に出るから後はゆっくり浸かってくれ」


 腰にタオルを巻きつつ温泉から出ようとすれば、カルミアに手首をきゅっと掴まれた。


「ま、待って待って! それじゃレイドに悪いわよ! それに私、あなたたちの常識には疎いから、また変な粗相をすると困るし。ここでも色々と教えてくれると嬉しいな、なんて……」


 困り顔のカルミア。

 なお、今この状況が特大の粗相である。

 真っ先に教えられるのはそれくらいだけれど、今更それを語ったところで野暮だろうか。


「まあ、皆にばれなければいいか……」


 そう言いつつ、俺は温泉に浸かり直した。

 別段、俺がおかしなことをしなければ何事もなさそうな話でもある。

 ──昼間の様子を見る限り、特にルーナにばれたら不要な誤解を招きそうだけど……。その時は状況を正直に説明しよう。そうすれば分かってくれるはずだ。


「レイド! ありがとうね。なら早速……」


「まずそこの桶で軽く体を流してくれ。そういう決まりだから」


「わ、分かったわ」


 足先を湯に付けかけていたカルミアは即座に足を引っ込め……バシャッ! と桶で頭から勢いよく湯を被った。

 しかも「あ、熱ぅっ⁉」と跳ね上がっている。

 ……この神様、昼間の気絶や温泉に堂々と入ってきた件も含め、意外と天然かもしれない。

 それからカルミアは温泉に入ると、冷めた体に湯が染みたのか「くぅ~っ!」と唸った。


「ちょっと不思議な匂いがするわね」


「温泉の成分によるものだな。体に良いらしい」


「へぇ……そうなんだ」


 カルミアは俺の隣に腰を下ろし、一息ついていた。

 彼女はそのまま、空を見上げる。

 既に星が瞬き始めた、昼と夜の狭間を。


「……ねぇ、レイド。私、本当に空の上……天界ってところに住んでいたのかな」


「神族は皆、天界に住むって言い伝えが世界各地にあるから。きっとそうだと思う。現にカルミアは空から流星みたいになって、俺たちの前に降ってきたんだから」


「でもきっと、天界は今日レイドやルーナと飛んだ空よりもっと上にあるのよね。どんな場所だったんだろう……。思い出せたら、レイドにも話してあげられたかな」


 そう語るカルミアの横顔は、どこか寂しげであり、不安げであり……。

 知らぬ故郷を想像している気配があった。

 明るく元気に振る舞っているものの、やはり記憶がないというのは大きな心配ごとなのだろう。

 自分の生い立ちも、家族も、仲間も……故郷の景色さえ思い出せないというのは、どんな心境なのだろうか。


「レイド。……レイドにとってさ。故郷ってどんなところ? 神竜帝国を追い出されて竜の国に来たって軽く話してくれたけれど、それでも故郷は大切?」


 ふとそう聞いてきたカルミアに、俺は「どうかな」と素直に答えた。


「俺にはもう、両親も親戚もいない。だからあの国にそこまで思い入れはない。でも……あの国に残してきたフェイたち空竜は間違いなく俺の家族だった。だから単純に、フェイたちがいる土地って意味では……重要だし、思い出に残る場所ではあるかな」


「そっか。じゃあレイドにとって故郷っていうのは、家族がいる場所なんだ。そういう意味では、この竜の国も故郷なの?」


 純粋な瞳で尋ねてくるカルミア。

 俺は何を考えた訳でもないけれど、自然と頷いていた。

 そのまま、口にしたい思いが浮かび上がってくる。


「そうだな。ルーナたち古竜も、ロアナたち猫精族も、俺を暖かく受け入れてくれた。ミルフィもロアナ同様に可愛い妹分みたいに思っているし、アイルも……色々あったけれど、もう無関係じゃない。今更どうも思わないって言うには、多くの思い出を重ねてきた仲だ。だから……うん。皆がいる竜の国が俺は大好きだし、ここも故郷だと思っているよ」


 こちらが話し終えると、カルミアは少しだけ閉口した。

 けれどすぐに笑みを浮かべた。


「いいなぁ。凄く良くて、良いと思う。レイドは皆が好きで、皆を愛しているんだね」


「愛しているって言うと、少し表現が大きすぎる気もするけどな」


「そう? 私、今日だけでも色んな好きや、色んな愛があると思ったけどね。性別どころか種族も超えて、皆で楽しく集まって暮らしている。やっぱり素敵なところね、竜の国は。私の故郷もそんなふうであってほしいかな」


 再び天を見上げたカルミアに、俺は言った。


「なら、カルミアもさ。もっと竜の国を知って、ここを故郷にすればいいよ。記憶が戻っても戻らなくても、ここをそう思える場所にすればいい。皆も歓迎してくれるさ、気のいい人や竜ばかりだから」


「そうね。それはとても……とても素敵な提案だわ」


 カルミアはそう話し、一度ぐっと伸びをしてから。


「じゃあ、もっと竜の国を好きになれるよう、もっともっと知らなくちゃね! レイド、明日もまたあちこち案内して! 竜の国の外側も含めてね!」


「任せてくれ。カルミアが竜の国を好きになってもらえたら、俺も嬉しいから」







『……で、カルミアと一緒にのぼせてきた訳ですね?』


 目の前には、腰に手を当て立ちはだかるルーナがいる。

 笑顔であるものの、明らかに目が笑っていない。

 こんなにルーナが恐ろしいと思ったのは初めてかもしれない。

 俺は喉奥から声を絞り出した。


「はい……そうです……」


 ちらりと視線を横へ向ければ、今回の件の元凶がベッドの上で転がっていた。

 顔を赤くしており、ロアナや起きてきたミルフィが大きな葉をはためかせて風を送っている。

 できたら俺にも少し風を……と思いつつも、そんな頼みを口にする余裕はない。

 今は全力でルーナに状況を説明する必要があるからだ。

 ……というのもこの通り、問題はカルミアが温泉でのぼせてしまったことに端を発している。

 仕方なく彼女を背負って脱衣所に入り、できるだけ視線を逸らしつつ感覚を殺すよう努めて体を拭いてやり、着替えさせた。

 そしてカルミアを背負って一緒に温泉を出た結果……。

 カルミアがいない! と彼女を探す猫精族や、それに協力するルーナとばったりと出くわしてしまったという寸法である。

 しかも脱衣所の出入り口の近辺で。

 カルミアがのぼせていなければ誤魔化せたかもしれないが、あの状態では不可能だった。

 ──しかもカルミア、あの様子だと猫精族に一言も伝えずに温泉に来ちゃったんだよな。皆、とても驚いていたし。それに猫精族に一言でも入れていたら、ロアナ経由で俺が温泉にいるって知った誰かが止めたとも思うし……。

 色んな意味で今更であったのと、ロアナものぼせたカルミアを見た途端に全てを悟ったのか「あちゃー……!」と肩を落としていた。

 さらにミルフィはどこで覚えたのか「……らっきーすけべ?」とか真顔で言い出し、それもルーナの怒りに拍車をかけた一端となった。


『レイド……私は心を込めてお願いしましたよね? できれば私を一番近くに感じてほしいと、あのわがままを許してほしいと……』


 見ればルーナはそう言いつつも、圧力の籠もった笑みは次第に弱々しい表情となり、それに伴い声も弱くなってしまっていた。

 正直、さっきの怖い笑みよりよほど心にグサグサと刺さってくる。

 こんなにしおらしいルーナも珍しく、罪悪感すら湧いてくる。


「違うんです……。本当に誤解なんです……。不慮の事故だったんです……」


 自然と敬語が出てしまった。

 昼間にあのやりとりがあった後でこれなのだ。

 これはもう事情を根気よく説明しつつ平謝りしかあるまい。

 ……結局、夕食の時間帯までに誤解は解け、ルーナは普段通りに戻ったものの。

 これ以降、ルーナがカルミアをさらに警戒……もとい、行動に注目するようになった気がした。

 カルミアもカルミアでこの後、男女が温泉に入る意味をほんのりと猫精族の大人から聞かされたようで「ご、ごめんなさい……レイドもルーナも……」と反省気味だったのは、最早言うまでもないだろうか。


 ***


 猫精族の集落で宛てがわれた部屋にて。

 ベッドへ横になった私は、窓から差し込む月明かりを眺めながら、今日の出来事を思い返す。

 目覚めた時には既に、彼が……レイドがいた。

 あまり癖のない黒髪、ちょこんと頭の先から伸びた毛、こちらを気遣うような瞳。

 一日中レイドにお世話になりっぱなしだったけれど、驚くことに、彼は竜の国唯一の人間であるという。

 にも関わらず、竜の国を治める王族、共に生きる猫精族、さらには水精霊や魔族と呼ばれるらしい種族の子たちまで、彼に心を許しているようだった。

 しかも見た限りでは、レイドは彼らと仲が良いだけでなく、半ば纏め役のようでもあった。

 彼には不思議な人望や人徳があるようで、それは行動を共にした私も感じるところだった。

 神竜帝国でも竜の世話をしていたというし、彼は世話や、誰かを助けるのが得意なのだろう。

 猫精族の少女、ロアナから聞いたところによれば、彼は少し前に古竜や猫精族たちのため、誰にも真似できないほどの働きを見せたのだとか。

 きっとレイドが皆に慕われているのはそういった理由もあるはず。

 ある、はずだけれど……。


「本当、不思議な人」


 私が神族……というらしい種族だからだろうか。

 レイドからは魔力とは違った、不思議な気配を感じられる。

 その力はどこか懐かしく、心安らぐようで、私も知っている気のするものだった。

 ──彼は何者なのだろう。どうしてこんなふうに感じるのだろう。

 記憶を失っているからか、私は全てが不思議でならなかった。

 人間も、竜も、精霊も、魔族も、神族も……そうやって感じる私の心も。

 ただ、そうして多くを考えているうち、一日の疲れが出たのだろうか。

 私はいつの間にか意識を手放し、夢の世界へと旅立っていた。


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