7話 竜の国へ
ルーナの背に乗り、一晩かけていくつもの山脈を超えてゆく。
古竜の翼のはためきは力強く、山越えをものともしない。
そうして向かえる険しい山々や渓谷の遥か先に、秘境と呼ばれる土地がある。
秘境には帝国のドラゴンたちも滅多に近寄りたがらないため、何かあるとは思っていたが。
『レイド。じきにわたしの故郷、竜の国へ到着します』
「故郷……そうか。秘境には古竜たちの群生地があるのか」
俺の世話してきた空竜種のドラゴンたちは、本能的に最も古い血筋のドラゴンである古竜を神聖視する傾向にあった。
つまり帝国のドラゴンたちにとってこの秘境は古竜の住まう聖地であるため、安易に近寄らなかったのだ。
『まずは国を案内する前にわたしのお父様、竜王の元へお連れします。詳しい話はそれからできればと……っ!?』
ルーナが上空で静止し、慣性が働き軽くつんのめるかのような衝撃。
何事かと目の前を見れば、こちらに向かい、正面から魔物が迫ってきていた。
鷲似の上半身に、獅子似の下半身を持った、ドラゴンにすら匹敵する体躯を誇る魔物……グリフォンだ。
やはり人里を離れれば大型の魔物も現れるというものらしい。
背に俺を乗せていることもあり、ルーナも警戒をしているようだった。
『クルルルルル!!』
『くっ、後少しというところで……! せめてブレスで撃ち落とせれば、レイドを危険な目に遭わせなくとも……!』
ルーナは口腔に魔法陣を展開し、稲光を放ちながら雷撃のようなブレスを収束させてゆく。
空竜の五倍はある超高密度の魔力消費に驚きかけるが、いや、そこまでやらなくてもいいだろう。
「要は奴を近寄らせなきゃいいわけだ。だったら……封印術・蛇縛鎖!」
グリフォンに向け、魔力を消費して封印術を起動する。
蛇縛鎖はハイコボルトに使った竜縛鎖よりも射程距離が長く、遠距離向きの封印術だ。
その反面耐久性は多少劣るが、要は使いようである。
「ふんっ!」
俺は手元に展開した魔法陣を操作し、グリフォンの翼に鎖が絡まるように動かす。
すると翼を封じられたグリフォンは、遥か真下へ落下してゆく。
『クエエエエエエ!?』
『大型の魔物をああも簡単に、こんな遠距離から縛るなんて……!』
「ドラゴンテイマーの封印術は近距離にも遠距離にも対応しているんだ。でないと暴れるドラゴンだって抑えられないから」
『だからと言って、わたしたち古竜が手を焼くほどのグリフォンをああもあっさり……』
危機が去って安心したのか、ルーナの声音は軽やかだった。
『流石は神竜帝国のドラゴンテイマーと言ったところでしょうか。ひとまず、他の魔物が出る前にこのまま竜の国へ急ぎます』
ルーナが霧に覆われた細い渓谷に突入し、そのまま飛翔してゆく。
ドラゴンは感覚器官が優れているため、視界が悪くても、周囲の音の反響のみで飛ぶことができるのだ。
お陰でルーナは翼を渓谷に擦らせず、そのまま進む。
それから霧が晴れ、視界が開けた先の草原で、ルーナは降り立った。
『到着しました。ここが竜の国です。ようこそレイド、歓迎します』
ルーナは人間の姿に変身し、俺の手を引いて駆け出した。
ドラゴンの姿だと凛々しい印象が強かったが、やはり人間の姿になると幻想的な美しさがある。
そしてルーナの帰還に気がついたのか、周囲から次々に古竜が寄ってきた。
色も体格も様々だが、皆鱗のツヤはよく、健康的に見える。
こんなにも多くの古竜を目にしたのは初めてだが、流石は竜の国か。
『おお、姫様が人間の男を連れ帰ってきたぞ!』
『あれが姫様の思い出話でよく聞いたレイドか』
『本当に連れてくるとは……皆の者、早々に祝いの準備が必要かもしれんぞ』
『もう……皆ったら!』
迎えに出てきた古竜たちの言葉を受け、ルーナは恥ずかしいのか少し赤面していた。
俺は思わず、くすりと笑いをこぼしてしまった。
『むぅ……。レイドまで笑わないでください。皆も冗談で言っているのですから』
「分かっているよ。でも、ルーナがここのドラゴンたちに慕われているのもよく分かった。ルーナは明るいし、俺もここの皆の気持ちがよく分かる」
そう伝えると、ルーナは照れたのか、一層顔を赤くしてしまった。
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