51話 ヴァーゼルの狙い
※描写を追加しました
結論から言えば、魔物の相手は拍子抜けするほどスムーズに済んだ。
精霊のミルフィがいるのもあったが、一番の決め手は古竜であるルーナの高い戦闘能力だ。
二人いる魔族の片方でも自由だったら五分五分だったかもしれないが、通常の魔物が相手ではどれだけ数の差があってもルーナに擦り傷一つ付かない。
古竜の力はそれほどまでに凄まじかった。
「向こうにはガラードもいるし、この分ならロアナたちも大丈夫だろうな」
『ああ見えて、彼もやるときはやるドラゴンですから。守護剣の元まではすぐに辿り着けるかと』
「……こっちの方は、レイドが魔族を拘束したお陰」
「不意打ちが上手くいっただけだよ……んっ?」
ミルフィの賛辞に照れかけていると、突如として魔族二人を拘束している廃墟の屋根上に一つの影が現れた。
……いや、影に見えたのは漆黒の外套で、そいつも背から巨大な翼を生やしている。
ともかく気配もなく、太陽を覆うように突然空から現れた漆黒の魔族は、短剣でゴラスとシルを拘束している鎖を切り裂いてしまった。
「ゴラス及びシルの魔力反応の消失、原因判明。術による魔力封印。……両名の解放、完了」
「ケッ、おせーんだよファントルスッ! このままやられるんじゃないかとヒヤヒヤしたッ!」
「助かった、感謝するわ」
ファントルスと言うらしい魔族の男は、暗殺者か東洋の忍者のような出で立ちをしている。
頭は鉄兜で、口元は面頬でそれぞれを覆っている。
そいつは感情の読み取れない瞳でこちらを見つめていたが、予備動作なしで屋根を蹴って俺へと肉薄してきた。
「封印術の使い手を確認。危険度、最上級と判断」
「速っ……!?」
短刀の振りを紙一重で避けた直後、ファントルスが短剣を水平に持ち、腰を落として独特の構えを取った。
「技量を確認──暗牙穿刀!」
「こいつ、その構えは!」
ファントルスが繰り出して来たのは、心臓を狙った刺突状の斬撃。
俺は地を蹴ってルーナの背に逃れたが、今の一撃には見覚えがあった。
魔族特有の高魔力と独自のアレンジで速度も威力も大幅に上がっており、技名は初めて聞くものだった。
しかし今の技の大元は、神竜帝国式・竜騎士戦剣術の暗牙穿刀で間違いない。
「どうして魔族がその技を……!」
何にせよ、高い魔力から練り出される魔法に加えて近接戦闘まで自由自在とは恐れ入った。
剣魔の六眷属、ますます正面から相手をしたくなくなってきたが……。
「封印術の使い手の技量を確認完了。次いで敵勢力に古竜種を確認。殲滅以上に、ヴァーゼル様への報告が最優先と判断」
「同感よ。わたしたちを縛り付けるほどの封印術を扱う、古竜を従える男。明らかに皇竜騎士の末裔にして再来。……ここで仕留めるのは可能かもしれないけれど、ヴァーゼル様の判断を仰ぐ必要はあるかもね」
ファントルスとシルは、俺やルーナを見定めながらそんなことを口にしていた。
それにまた皇竜騎士という言葉が出てきたが、俺のご先祖様は本当に皇竜騎士とやらだったりするのだろうか。
しかもさっき、俺の一族がヴァーゼルに根絶やしにされたとか聞こえたが……。
「おい、詳しく話を……!」
「速やかな撤退を推奨」
無機質にそう言ったファントルスが飛び上がった直後、ゴラスとシルもそれに続いて飛び上がった。
『逃がしません。レイドの一族に関する話もまだ聞いていませんよ!』
ルーナが上空へとブレスを放つが、魔族三人はそれを軽々と避けていく。
そしてゴラスはこちらへ振り向き、大声で言った。
「おい、そこの人間ッ! 次会ったら剣魔の六眷属の肩書きにかけて、今度こそお前の首を取ってやるぜッ! 百年前にヴァーゼル様が根絶やしにした筈の血筋、俺が確実に絶やしてやるッ!!」
そう言い残し、ゴラスは仲間と撤退していった。
『レイド、追いますか?』
「いや、今はいい。ロアナやメラリアたちも心配だから。でも……」
たった今ゴラスが言った「百年前」という言葉でピンときた。
帝国の実家にあった家系図が乱れていたのは、時間にして大体百年前の箇所だ。
となれば、妙に乱れて途切れているような箇所が多かったのは……つまり。
「ヴァーゼルに狙われて生死不明になったからとか、行方不明になったからとかか……?」
一族が散り散りになったのなら、そう考えることもできる。
それに加え、俺の一家の他にドラゴンテイマーの一族がいなかった理由、それもヴァーゼルに一族が狙われて数を減らしたからだとすれば説明もつく。
……あくまで憶測の域を出ないし、妄想と言われればそれまでの推測ではあるが。
「何にせよ、ヴァーゼルって魔族とは因縁がありそうだな」
水精霊に猫精霊に俺のドラゴンテイマーの一族と、ヴァーゼルには明らかに特定の一族を根絶やしにする狙いがあるように思える。
さらに剣魔の六眷属の中には神竜帝国式の技を使う魔族までいるときた。
また後でアイルに会ったら、改めて詳しく話を聞いてみよう。
そう思いながら、俺たちは守護剣を回収しに向かった皆の元へ向かった。
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