5話 竜姫の申し出
「俺の窮地って、誰から聞いたんだ?」
俺の国外追放決定の話は古竜が知るほど早く広まっているのかと、身構える前に苦笑が漏れた。
するとルーナは落ち着き払った声音で語り出した。
『強いて言うならば、わたしたちの同胞からでしょうか。あなたが帝国で家族同然に育てていた空竜たちからです』
「竜舎にいた皆が? どうやってそんなことを」
『ドラゴンの咆哮は遠方までよく通り、時には山をも越える。それはドラゴンテイマーであるあなたもご存知ですね?』
「それは勿論。その辺りは知っているけど、もしかして」
察すると、ルーナは続ける。
『そうです。彼らが咆哮に声を乗せ、届けてくれたのです。「竜姫よ、どうか追っ手に先んじて若きドラゴンテイマーに救いの翼を」と。同時にレイドのこれまでの功績も伝えてくれました。誠心誠意ドラゴンに向き合っていたあなたの姿勢は、実に素晴らしいと感じています』
竜舎にいたドラゴンたちは俺が去った後も哀しげに咆哮を上げていたが、俺を助ける意味もあったとは。
万が一にも生きてまた再会できたなら、心からの感謝を伝えたかった。
「それと今、竜姫って聞こえたけどもしやルーナ自身が?」
『ええ。今の竜王の娘という意味であれば、わたしが竜姫で相違ないです』
竜姫とは、文字通りに古竜の姫君のことだ。
古竜にはドラゴン全体を纏め上げる王族がいると一族の言い伝えで俺も知っていたが、まさか実際に目にする日が来ようとは。
というか、たまたま三年前に助けたのが竜姫だったとは、不思議な巡り合わせもあったものだ。
『レイド。わたしはあなたに救われた恩を返すべく、あなたを迎えに来ました。そしてわたしたち古竜にも、あなたの優れたドラゴンテイマーの力は間違いなく必要だと感じています。もしよければ、共に古竜の住まう竜の国へ来てはいただけませんか?』
突然現れたルーナからの申し出は、正直に言えば願ったり叶ったりだった。
帝国から出た俺は協力者もおらず、天涯孤独の身。
そこで力を貸してくれるというならば、断る理由などない。
「それなら俺からも頼みたい。力を貸してくれるなら、ぜひ」
ルーナに頭を下げると、彼女は背をこちらに向けた。
『では、わたしの背に乗ってください。今なら誰にも見つからずに飛び立てるかと』
俺はルーナの背に乗り、両手と両足で挟むようにしてルーナに掴まった。
帝国の竜騎士が空竜に乗る際には、跨りやすいように鞍が必要になる。
しかも靴は分厚いブーツ状のものでないと、ドラゴンの鋭い鱗で足を傷つけることになる。
だが幸い、俺は空竜を世話していた都合上鞍なしでもドラゴンに乗り慣れていたし、長靴も仕事柄、常に厚手のものを着用していたので問題なかった。
『行きます、掴まってください!』
次の瞬間、ルーナは翼を広げて一気に上昇した。
大気が体に押し当てられる感覚の後、視界いっぱいに星空が広がる。
樹海は既に遥か真下、やはり竜と飛翔する際の開放感は何者にも勝る。
『素晴らしいです、そばにいるだけでこんなにも速度が上がるなんて。やはりレイドはわたしの……!』
ルーナは何やらぶつくさと上機嫌に呟いているが、風に阻まれてよくは聞こえなかった。
それから生まれ育った帝国が見えなくなるまで、ルーナ自身の飛翔速度もあり、あまり時間はかからなかった。
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