49話 剣魔の六眷属
『ここが猫精族の里か、酷い有様だぜ……』
猫精族の里に踏み入った際、ガラードは顔をしかめてそう言った。
誰も管理していないから草木が生え放題なのは勿論、建物も廃墟同然となっている。
猫精族も竜の国に移り住んでそれなりに長いと聞くが、まさかこんなにも荒れているとは。
「あたしたちの里、ただいま……」
ロアナは涙ぐんだ表情でそう言い、メラリアは歯が砕けんばかりに噛み締めていた。
「魔物さえ来なければ、メラリアたちの里だってこんなことには……!」
「二人とも、感傷に浸るのは後だ。今は守護剣を取り戻さないと」
俺がそう言うと、メラリアはこくりと頷いた。
「レイド殿、分かっています。あの剣さえあれば、いずれ猫精族の里を取り返すこともできるはず。我が未来の同胞たちのためにも、必ずや」
周りに魔物がいないことを確認しながら、俺たちはメラリアの後に続いていく。
「この先にある里長の家、その地下の大空洞に守護剣は保管されています。中は強い結界に守られているので、魔物には踏み荒らされていないはず……」
「でも、あそこは里の真ん中にあるから。きっと魔物もうろついているはずだよ」
ロアナの言葉に、メラリアはこくりと頷いた。
『確かに周りから魔物の匂いもします。多少の接触は避けられないでしょうね。……いや、この匂いは……』
ルーナは大気の匂いをくんくんと嗅いだ後、アイルの匂いも嗅いだ。
『アイルと似た匂いがします、これはつまり……』
『来るぞっ!』
ルーナとガラードが翼で一行を覆い隠した直後、周囲に炎の竜巻が吹き荒れた。
「まさかこの炎、アイルじゃないよな?」
「レイド! 貴様にテイムされている妾に何ができようか!?」
ジト目で睨むと、アイルは納得いかない様子で騒いでいた。
それから炎が収まり翼の下から出ると、猫精族の家の跡の上から誰かがこちらを見下ろしていた。
「わーぉ、流石は古竜の翼ァ! 俺の炎を通さんかァ!」
「さっさと終わってくれたら楽だったのに」
俺たちを見下ろしていたのは、髪を緋色に染めた浅黒い肌の男と、新緑のような明るい髪色の少女だった。
しかし二人とも、背から一対の翼を生やしている。
加えて竜の国を焼き尽くす勢いだったアイルに匹敵するほどの魔力、これは。
「レイド! こやつらは四天王【剣魔のヴァーゼル】直属の魔族、剣魔の六眷属だ! この時代でも生き残っていようとは!」
アイルが話すと、魔族の少女は眠たげな表情で首を傾げた。
「あれっ? アイル様、どうしてそいつらと一緒にいるの? どうせ猫精族が剣を取り戻しにそのうち来るからって、ヴァーゼル様に言われて見張ってたけど。アイル様が来るのは予想外」
「ほーぅ! どうやらヴァーゼル様が水精霊の里に差し向けた魔物共、無事にアイル様の封印を解いたらしいなァ! つっても、相方が言った通りにどうしてアイル様が人間と一緒にいるかは気になるトコだけどッ! ……まさか捕虜になってたりとか、しないっすよねッ?」
目を細めた男に、図星を突かれたアイルはひゅっと俺の後ろに隠れて一言。
「黙秘権を行使する」
「ダメだこの四天王……」
せめて言いくるめる程度の努力はしてほしい。
「……待って」
「ん? どうしたおチビちゃん……ってお前、水精霊かッ! まーだ生き残りがいたなんてなッ!」
声をかけたミルフィに、魔族の男は相変わらず陽気と言うか、わざとらしくおどけた反応を見せる。
しかしミルフィの表情は硬く、声音も押し殺したようだった。
「……今、ヴァーゼルが水精霊の里に魔物を差し向けたとあなたは言った。つまり、この里を魔物に襲わせただけじゃなく、水精霊の里を魔物で壊滅させたのも……!」
「正解。わたしたちの主人、ヴァーゼル様の導き。魔王軍四天王のアイル様を封じるほどの一族、生かしておけば邪魔になるのは明白。だからこそアイル様を解放するついでに、隙を突いて……とは言え」
魔族の少女はため息交じりにアイルを見つめていた。
「ヴァーゼル様の意図も、あの様子ではアイル様には伝わっていないようだけど。てっきり捕虜になったならもうバラされていると思ったけど、単に気づいてなかったのね」
「……ぎくぅっ!?」
背に隠れているアイルのそれらしい反応を感じ、俺は思わず苦笑した。
これはアイルが考えなしなのか、それともヴァーゼルって奴がしたたかなのか。
いや、多分両方だろう。
「……わたしたちの一族を、よくも……!」
魔力を練り出し、魔法で水を生成していくミルフィは既に臨戦態勢だった。
怒りで息を乱すミルフィは、数秒もしないうちに攻撃をしかけそうな気配がある。
それを見てか、魔族の男の方は炎の魔力を、少女の方は風の魔力を解放していく。
魔力量はやはり並みの空竜を上回ってアイルと同レベル、やはり化け物じみている。
それに魔力の基本属性は大きく分ければ六つ。
炎、水、風、地、光、闇。
剣魔ことヴァーゼルの六眷属と言うからには、各六属性の精鋭魔族がいるのだろうと察せられた。
「剣魔の六眷属が一人、鬼火のゴラスッ! ヴァーゼル様の命令だ、剣を取りに来た猫精族以外は全部燃やしていいってなァ!」
「同じく、緑風のシル。わたし眠いから、手早く済ませたい」
「ああ、とっとと終わらせてやる!」
俺がそう言った直後、ゴラスとシルの立っていた廃墟の下から封印術の鎖が何本も飛び出した。
奴らが話をしている隙を突いて、俺は封印術を密かに起動させ、地下に鎖を仕込んでいたのだ。
──アイルの相手をしてよく分かった。たとえ魔族でも、魔法を使われる前に封印術で縛れば速攻で片付く!
「この気配、まさか封印術……!? あり得ない!!」
シルが目を見開いた瞬間、俺の鎖が魔族二人に殺到した。
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