22話 皇帝、秘境へ踏み入る
「ええい、くそ! やはり山道は嫌なほどに揺れるな。レイドめ、こんな場所に逃げ込むとは!」
崖の際を走りガタガタと揺れる馬車の中、皇帝は忌々しげにレイドを罵っていた。
確実にレイドを探し出したかった皇帝は、捜索隊を直接指揮するために遥々帝国から秘境まで付いてきたのだ。
……周囲の反対を、普段通りに癇癪気味に押し切って。
旅人の証言から、レイドは秘境へ向かったとされている。
加えて秘境は古竜の群生地があると皇帝一族の言い伝えにあったため、皇帝は竜好きのレイドならそこへ向かってもおかしくないと踏んでいた。
一方皇帝と同じ馬車に乗っていたアゾレア宰相は、窓から外を訝しげに見つめていた。
「どうした、何か気になる点でもあるのか?」
「その、今日はいつになくドラゴンたちが大人しいと思いまして。昨日までの咆哮を上げて暴れまわる様子が嘘のようです」
アゾレア宰相の視線の先には、護衛の竜騎士を乗せるドラゴンたちの姿があった。
「ふん。空竜種は古竜種の縄張りでは大人しくなるそうだからな。大方、古竜たちを恐れて咆哮も上げんのだろう」
「しかし……」
アゾレア宰相は唸った。
空竜たちはこの秘境に踏み入る前の今朝から、竜騎士の指示を聞く程度には落ち着いていた。
「確かに空竜は古竜の縄張りでは大人しくなると言い伝えにありますが、果たしてそれだけでしょうか……?」
ある意味、皇帝たちがこの渓谷に来ることを空竜たちも今朝から理解しており、それで大人しくなっているような気もするとアゾレア宰相は感じていた。
普段と違うドラゴンたちの様子に何か嫌な予感もするが、ドラゴンたちが竜騎士に対して従順なのだから今はそれでいい。
一騎当千の力を持つ神竜帝国レーザリアの竜騎士隊さえいれば、何物も恐るるに足らないのだから。
「素早くレイドを回収し、古竜が出れば蹴散らすまでのこと。そうであろう、アゾレアよ」
「はい。その通りでございます、陛下。必ずや今回の遠征にてレイドを見つけ出しましょう」
「その通りだ。そして我にここまでさせたレイドには、たっぷりと礼を授けねばなぁ……がぁっ!?」
皇帝が歪んだ笑みを浮かべた直後、馬車が急停止して大きく揺れた。
窓の外を見れば、数体のグリフォンが馬車を取り囲むように現れ、馬車を揺らしている。
『フォーン! フォーン!』
「馬鹿な、こんな場所にグリフォンだと!? ……うあぁっ!?」
さらに閃光が馬車の車輪付近に直撃したかと思えば、その直後に崖が崩れ、馬車が落下し出した。
「り、竜騎士は何をしておるのか!? 我が窮地を救え愚か者ども!」
竜騎士たちは泡を食ったように操竜するが、最早間に合う距離ではない。
皇帝とアゾレア宰相はただ青ざめた表情で、落下する馬車の座席に掴まっていた。
そして皇帝たちには、先ほどの閃光が上空から放たれたドラゴンのブレスであると察する余裕すら残されていなかった。
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