21話 竜姫の意思
ある午後の昼下がり、俺はルーナからとある話を聞いていた。
「……つまり皇帝の手の者が、俺を探しているのか?」
『間違いありません。レイドが帝国でお世話をしていたドラゴンたちが、咆哮と共に知らせてくれたのです。兵士共々、秘境並びに竜の国に踏み入って来る腹積もりのようです』
「帝国のドラゴンたちが神聖視している秘境にまで、兵士を差し向けるのか」
帝国の皇帝一族にも「秘境に手を出すな」という古竜との盟約があると聞いているが、あの皇帝は先祖が代々守ってきたものまで無視するつもりなのか。
もしくは古竜など空竜と変わらないと考えているのかもしれないが、それは大きな間違いだ。
戦闘能力面においては、古竜は並みの空竜十数体に匹敵する力を持つ。
このままいけば皇帝側が返り討ちに遭うものと思うが、それでもルーナたちに余計な迷惑をかけるのは心苦しかった。
「ルーナ、教えてくれてありがとう。なら俺は迷惑をかけないうちに、竜の国を……」
『出る、などと言わないでくださいね? レイドは今や竜の国に必要な人材であり、それは全ての古竜や猫精族たちも知る事実。何よりわたしはあなたの相棒です、レイドの窮地を捨て置くことはできません』
ルーナは瞳に強い覚悟と慈しみを込め、じっと俺を見つめてきた。
「そうだよ! お兄ちゃんが困っているならあたしも助けるよー? それにほら、お兄ちゃんから教わりたいこともいっぱいあるし、もっと遊んで欲しいもん!」
横で話を聞いていたロアナも、おやつの果実を食べきってから勢いよく立ち上がった。
『今や竜の国には魔物の侵攻もなく、レイドのお陰で傷や病で苦しむドラゴンも皆無となりました。これほどまでに竜の国に貢献してくださっている人物を放り出せば、それこそ古竜の王族末代までの恥。……ですよね、お父様?』
『うむ、左様である』
振り向けば木の陰から、初老の男性が現れた。
骨太であり筋骨隆々とした、白髪の偉丈夫である。
しかし声音で竜王だと分かる、あれが竜王の人間に変身した姿か。
竜王は俺の肩に手を置き、静かに告げた。
『レイドよ、何も一人で抱え込むことはない。今やレイドもこの国の住人、ならば全身全霊を以って守りぬくのが国の主の努めなり。……皆の者! 話は聞いていたな!』
竜王の一声に応じ、木陰から、岩陰から、竜の国の各所から次々に古竜が舞い上がった。
中には俺が傷を癒した古竜も、鱗の生え変わりを手助けした古竜もいた。
『これより我らは神竜帝国の者共を退ける! 勝手に追放して連れ戻そうなどと、不心得にもほどがあると知らしめてやろうぞ!』
『『『おぉー!!!』』』
賛同する声の中には、普段からお世話になっている猫精族の姿もあった。
「古竜の皆も猫精族の皆も、本当にありがとう。でも、あまり無茶はしないでほしい。いざとなったら俺が魔術でどうにかするから」
そう伝えると、ルーナはいたずらっぽく微笑みかけてきた。
『大丈夫ですよ。何せ帝国の主力は歩兵よりも空竜たちを駆る竜騎士。しかし空竜たちは皆、レイドの味方でわたしたち古竜にも友好的です。であれば帝国側がどういった顛末になるかは、火を見るよりも明らかでしょう』
《作者からの大切なお願い》
ここまで読んで頂きありがとうございます!
「面白い」「続きが読みたい」
と少しでも思ったら広告下の
「☆☆☆☆☆」を押して応援をお願いします!!
皆さんの応援とポイント評価が面白い作品を作るモチベーションになっていきます!
そしてブックマークも押して今後も物語にお付き合いいただければ何よりです!
どうかよろしくお願いします!!!




