2話 帝国からの追放
結局朝方まで働き続けた、辛い残業明けの翌日。
俺は職場の本陣である神竜帝国レーザリアの宮廷に呼び出されていた。
なにやら第三十七代目のレーザリア皇帝が、直々に俺に会いたいと言っているようなのだ。
できれば仮眠を取りたかったが、仕える主の呼び出しを断れる訳もなく、眠気と気怠さを訴える体に鞭打ち宮廷へと向かった。
……すると開口一言目、皇帝は俺を労うでもなく、冷たい視線で睥睨しつつこう言い放った。
「レイド、貴様は本日限りでクビだ。貴様の怠慢ぶりは我が耳にまで届いておる。帝国の恥め、二度と宮廷に立ち入るな」
「なっ……!?」
正直、開いた口が塞がらなかった。
この帝国はドラゴンを主力とした竜騎士部隊によって国防を担っている。
人間を襲い食う魔物だってドラゴンにより駆逐されているのに、そのドラゴンたちを唯一まともに世話する俺がクビ?
しかも近年魔物が活性化していてただでさえ被害が増えているのに、そのタイミングで竜たちを世話する俺を切るだと?
「皇帝陛下、質問をお許しください。それは何かの間違いでは?」
「黙れ給料泥棒風情が! 貴様ごときが陛下に意見する気か!」
「日々ドラゴンを撫でるだけの役立たずめ、そんなに我が身が可愛いか!」
皇帝の脇に控えていた宰相のアゾレアや貴族たちから怒声が飛んできた。
給料泥棒とは、今朝まで徹夜で業務に励んでいたのだがと立場を無視して突っ込みたくなる。
皇帝は鷹揚に片手を上げ、騒ぐ家臣団を黙らせた。
「我が国のドラゴンたちは従順で誰にでも世話ができる。アゾレアたちの言う通り、今や貴様など給料泥棒に過ぎぬわい!」
「今まで竜たちが大人しかったのは、心を通わせる術を持つ俺が世話を続けてきたからです」
俺は即答し、このまま俺がいなくなればこの国は大変なことになると説得を試みた。
「ドラゴンたちは豪胆に見えて、精緻な彫像のように繊細な面も併せ持つ生き物なのです。何より彼らは竜騎士に酷使され、酷く弱っています。陛下、どうかお考え直しください。俺の【ドラゴンテイマー】スキルがなければ、この国のドラゴンたちのコンディションを保つことは難しくなるでしょう」
「減らず口を。そのふざけたスキルを重宝し、我が父上……先代の皇帝は愚かにも貴様ら一族を高く評価し、多額の給金を支払っていた。しかし我が目は節穴ではない。今やドラゴンたちは今まで以上に穏やかな気質になり、世話など誰にでもできる様子。貴様のような無能に払う金があるなら、新たにドラゴンを仕入れたいところだ!」
「その通りです、皇帝陛下。何よりこの者のドラゴンを休ませろという妄言を聞き入れ、今までどれだけのドラゴンが竜騎士と共に出撃できなかったことか」
「【ドラゴンテイマー】を名乗る者がドラゴンは繊細と断ずるなど、己の手で世話をしてきたドラゴンはひ弱に育ったと言っているようなものだぞ!」
生来の癇癪さを発揮しつつあるレーザリア皇帝を始め、アゾレア宰相や貴族たちも強く俺を非難してきた。
馬鹿な、皇帝や貴族といえど、竜たちについてもう少し見識があってもいいだろうに。
ともかく主の過ちを正すのも仕える者の責務だと、俺は強く反駁する。
「いいえ、俺の言っていることは本当です! それにドラゴンの気質が穏やかになったのも、俺が彼らに話をつけたからで……!」
「愚かな、ドラゴンと会話ができる訳がなかろう!」
アゾレア宰相の一喝に続き、周囲の貴族たちも「レイドの語りも堕ちたものよな」と失笑を重ねる。
「虚偽の申告に職務の怠慢、何よりその陛下に対する不誠実な姿勢! これらは帝国への反逆である!」
「レイドよ、本来ならば貴様に死罪を言い渡したいところであるが、その薄汚い血で帝国の土を汚すこともあるまい。貴様は国の恥、よってこの帝国から追放とする! 宮廷どころか二度と帝国の土を踏むな!」
「そんな、馬鹿な……」
何起こっているのかと愕然とするが……いや、ここに至ってようやく気がついた。
これは一種の魔女狩り裁判のようなもので、皇帝、宰相、貴族に至るまで全員がグル。
なんらかの事情で俺を排除しようと、こうして面会し、形だけでも「反逆者」に仕立て上げるためのもの。
先代の皇帝とかつての宮廷ドラゴンテイマーであった父は、立場や身分を超えて共に理解し合う友人同士だった。
しかし最近、先代の皇帝が病死しその息子が後を継いだ途端、こんなことになってしまった。
そういえば宰相も、新たな皇帝が即位した途端、先代皇帝に仕えていたクリスからアゾレアに変更があった。
思えばクリスが宰相を続けていたなら、こんな横暴は許しはしなかっただろうが。
──あの新皇帝が手を回したのか。宰相まで都合がいい男に変えるとは、最早やりたい放題だな。
とはいえ天涯孤独の身で、生まれ育った帝国まで追い出されては、この先どうすればいいのか。
最早職を奪われるだけでは済まない始末。
今はただ、呆然とする他なかった。
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