14話 ドラゴンの手当て
竜の国にある猫精族の集落にて、俺やルーナはロアナたちと共に生活することになった。
と言うのも、来たばかりの俺ではあまり勝手が分からないだろうというルーナや猫精族たちの気遣いがあったのだ。
「こっちは薪が積んであって、自由に使えるから。あ、でも火の消し忘れはダメだよー?」
「気をつけるよ。……あれは?」
ふと視界の端に、猫精族がドラゴンたちの世話をしているのが映り込む。
ドラゴンテイマーとしては、興味深い光景だった。
「猫精族って、竜の国に匿ってもらう代わりにドラゴンの世話をしているのか」
「うん! 鱗を磨いたり寝床を整えたり一緒にお昼寝したり、のんびりやってるよ〜!」
「最後のやつは世話なのか……?」
「でも、少し困っていることもあってね」
ロアナは首を回して、木陰の下で休んでいるドラゴンを見つめた。
「あたしたち猫精族は魔力を身体強化に回している分、魔術は全然使えなくて。だからポーションみたいな魔法薬を作れないの。だから、ほら」
ロアナが指した先には、背に痛々しい生傷の付いた古竜が横たわっていた。
腹を上下させ、痛みで息を荒くしているのが分かる。
『彼は先日、狩りの最中に魔物に襲われ怪我を負いまして。あれからずっと横になっているのです。古竜は強い再生能力を持ちますから、怪我はそのうち治るかと思いますが……』
ルーナは顔を曇らせていた。
猫精族たちが一生懸命に看病しているが、苦しそうに呻く同胞は心配なのだろう。
それならばと、俺はルーナに言った。
「ここは俺に任せてくれ。ただで衣食住を提供してもらうのも忍びない、力になる」
『レイド、何をする気なのですか?』
「見ていてくれ、手早くやる」
その辺から薬草を数種類採取してから、魔力を消費して、宙に魔法陣を展開する。
この竜の国は人里離れた秘境にあるので、貴重な薬草が自生しているのは確認済みだ。
それから俺は魔法陣の中央へと薬草たちを浮遊させ、錬金術を起動。
錬金術とは本来金を生み出す術だが、近年では、素材を調合して別の品を仕上げる魔術として知られている。
魔術の設計図である魔法陣を規定通りに組み直せば、素材ごとに狙った品を調合できるので便利な魔術だ。
錬金術を起動して十秒もすれば、薬草たちは半透明な緑色の魔法薬、ポーションへと変じていた。
帝国にいた頃もよくこうして、ドラゴン用ポーションを作成したものである。
「よし完成」
『ええと、たったのこれだけの間に、ポーションを作ったと……?』
「そもそもポーションって、こんなに簡単にできるものじゃないよね……!? 専用の魔術の他にも錬金窯とかが必要って聞いたけど!?」
ぽかんと呆けた表情のルーナにロアナ。
俺としては、ここまで驚かれたことに驚いている。
「うーんと、そうなのか? でも俺の一族は代々こうしてポーションを作っていて、何より帝国では錬金窯なんて使う暇がなかったから。昔からこうして作っているんだ」
帝国での仕事量は殺人的だったというか、出撃していなかった数十体のドラゴンを毎日俺一人で世話していた。
多い時には百体以上だ。
だから扱いが難しい錬金窯でのんびり薬草を煮る暇もなかったというのが正直なところだった。
「ポーションの色合いや匂いも悪くない。……見ていてくれ」
俺は倒れているドラゴンに近づき、瓶に入ったポーションを傷口に数滴垂らした。
するとドラゴンの傷はみるみるうちに再生していき、鱗まできっちり生え揃ってゆく。
「流石は古竜。再生促進のポーションもよく効くな」
ちなみにこのポーションは経口摂取も可能だが、こうして傷口に塗布しても使える。
苦いポーションを飲みたくないと訴えるドラゴンの世話もしていたので、独自に改良したのだ。
彼らは意外と、味にうるさい生き物だ。
「おお……! 姫さまが連れてきたドラゴンテイマー、流石なもんだなぁ……」
「あんな深い傷口を即座に再生させるなんて、秘術みたいねぇ」
周囲の猫精族に関心した様子で見つめられ、どこかこそばゆい思いだった。
『レイドは想像以上に多才ですね。わたしたちの想像を遥かに超える技術を習得しています』
「お兄ちゃんがいれば、竜の国も安泰だね!」
「大げさだよ。でも……」
ルーナやロアナの温かな言葉が、自分の心に染みるのを感じた。
こうして自分の働きを認められるのは何年ぶりだろうか。
どんなに頑張っても罵声を浴びせられた帝国での生活が嘘のようだ。
「俺、ずっとこの国で暮らしたいな」
『ええ、ぜひそうしてくださいな! わたしたちも、レイドの力になれるはずです』
そう言ったルーナは人間の姿で微笑み、ぎゅっと俺の手を握ってくれた。
そしてこれが、竜の国で永住しようと本格的に考え出すきっかけとなった。
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