12話 猫精族のテイム
ロアナの提案に、思わず自分の耳を疑いつつ言う。
「たとえ強くなれても、テイムされた側は主人の言いなりなんだぞ。構わないのか?」
「大丈夫! あたしも猫精族だし、お兄ちゃんは悪い人じゃないって匂いで分かるから。あ、でも男の人だから夜とかはちょっと襲われちゃうかもだけど……それでもあたしは強くなりたいのっ!」
「……。…………」
まさかロアナくらいの少女から、夜うんぬんの話が出てくるとは……。
妙な居た堪れなさを感じるが、一体何がこの子をここまで駆り立てるのだろうか。
「いや、絶対に襲ったりしないけど……。ルーナ、この子はどうしてこんなに強くなりたいんだ?」
横で困ったような笑みを浮かべていたルーナに問いかける。
『猫精族はこの通り、今は竜の国の庇護下で栄えているのみなのです。最大の理由は近年活発化している魔物により、元の住処を追われたためです。だからロアナは故郷を取り戻す力を欲し、日々鍛錬に明け暮れているのです』
「そ! だから一気に強くなる方法があるなら、飛びつきたくなるのが人の心ってもんでしょ?」
「ちょっとは疑ったり警戒した方がいいとは思うけどな」
ただ、事情の方はよく分かった。
故郷を奪還しようと努力している子の頼みを無下にするのも、それはそれで気が引ける。
「……話は分かった。ただし俺はあくまでドラゴンテイマーだ。ロアナを確実にテイムできるとは限らないからそこは分かってくれ」
「きっと成功するよ。ドラゴン百体のお世話に比べたら楽勝でしょ?」
「それを言われるとどうしても成功させたくなるな」
苦笑すると、ロアナもつられてくすりと笑う。
全く、ここまで期待されてはどうにかしたくなってしまうじゃないか。
ここはひとつ、この子の力になってあげようか。
「魔力、開放!」
俺は体内から魔力を放出し、ロアナの周囲に魔法陣を展開する。
半透明な燐光を放つそれの縁には、古代語でテイム契約に関わる術式が刻み込んである。
要はこの魔法陣だけで、魔導系の契約書十数枚文の情報量と拘束力を持つわけである。
また、高い魔力を持つドラゴンをテイムできる以上、俺は理論上なら他の生物もテイムできる。
テイムでネックになるのは、テイム対象の魔力が高すぎると俺の魔力を跳ね返され、テイムが成立しなくなる点だ。
ただしロアナの魔力はドラゴンほど高くないので、ここは問題ない。
しかしテイムには他にも問題点があり、それは「命の波長」とでもいうべき特殊な魔力の流れを相手と完璧に合わせる必要があることだ。
さらに魔法陣の一部を書き換え、猫精族の規格に即興で仕上げる必要もある。
猫精族と「命の波長」を合わせるのも、大掛かりな魔法陣の書き換えもこれが初めてだが、これまで培ってきた勘と経験で成功させてみせる。
──命の波長は波みたいなものだ。それが俺とロアナ、完全に一致したタイミングで仕掛ける……。……、…………今!
「我、汝との縁を欲する者なり。汝の血を我が血とし、汝の権能を我が権能とする者なり。消えぬ契約を今ここに!」
ロアナと自分の「命の波長」が完璧に合ったと感じた瞬間、詠唱を開始し、終了までもっていく。
すると魔法陣が収束し、ロアナの首元にもルーナと同じような紋章が現れ、彼女との魔力的な繋がりを薄っすらと感じた。
「これでテイム完了だけど、どうだ?」
「うーんと、確かに力が湧き上がってくる感じ! ちょっと試してみるね」
ロアナはざっくりとした所感を述べつつ、その辺の生木に手刀を当てる。
そのまま思い切り細腕を横薙ぎにすると、細いとは言え生技がバキン! とへし折れた。
およそロアナの少女の体から出たとは思えない、凄まじい膂力であった。
「これが、テイムされたあたしの力……! やっぱりレイドお兄ちゃん、只者じゃないよ!」
「そう言ってもらえると、俺も頑張った甲斐があるよ」
テイムの成功でロアナの身体能力も無事向上したようで、俺の魔術の腕も捨てたものじゃないらしい。
喜びはしゃぐロアナを見て、俺まで嬉しくなってきた。
「今日から俺はこの集落でお世話になるけど、改めてよろしくなロアナ」
「うん! それと暇な時があったら、あたしの修行にも付き合ってね。もっともっと強くなりたいから!」
ロアナは元気よくそう言ってから、集落を案内するために俺を導いてくれた。
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