1話 苦労を重ねるドラゴンテイマー
あなたは竜騎士という職について、どんなイメージを持っているだろうか?
空竜に跨り人々を守る英雄的存在か。
自由自在にに空を飛べる職場か。
はたまた単なる騎士のように、規律と礼儀を重んじる連中だと思っていまいか。
そこで俺は敢えてこう答えよう。
……結構ストレスフルな職らしい、人間にとっても竜にとっても。
「おいレイド! 今日もお前はドラゴンを撫でてるだけか? 仕事サボってんじゃねーぞ無能が!!」
「お前は楽でいいよなぁ。前線に出なくってもドラゴンと戯れてりゃ高い給料がもらえるんだから。この給料泥棒!」
「何とか言ったらどうだ? 言い返す度胸もない臆病者がよ!」
年若い竜騎士たちが、竜舎という竜を育てる建物内で、空竜を撫でる俺を見ながらいつも通りに罵詈雑言を吐き捨てていく。
彼らの言葉に、俺は心の中で少しは苛立ちを覚えていた。
──全く、日々命がけだからと言って、しがない竜の世話係な俺を突っつくのはやめてほしいんだがな。そりゃ給料はそこそこもらってるけど、業務量と比べれば安いもんだろう。
そう思いつつも、奴らの声に反応する余裕はない。
今はドラゴンを撫でているだけに見えて実際は触診の最中だからだ。
「フェイ。最近鱗の艶がないように思えていたけど、感触からして内臓も弱っているな。直近の任務で無理をし過ぎたんじゃないのか?」
小声で問いかけると、俺が撫でているドラゴンことフェイが唸った。
しかしその唸り声は、俺の持つスキル【ドラゴンテイマー】によって確かな声として心に届いた。
この世界ではスキルと呼ばれる特殊能力を十五歳で神様から一つ授かることがあるが、俺の家系は代々【ドラゴンテイマー】スキルを授かる血筋なのだ。
そして俺は【ドラゴンテイマー】スキルでドラゴンたちと心を通わせ、この帝国の宮廷ドラゴンテイマーとして働いていた。
『ああ、レイドにはバレてしまうかい。実はちょっと無茶をしてしまってね、ブレスの使いすぎだよ』
「ブレスの使い過ぎって、明らかに竜騎士の無茶振りじゃないか」
ブレスはドラゴンの必殺技として知られているが、簡単に連発できる訳ではない。
ドラゴンの生命力である魔力をごっそりと削るし、威力の凄まじさ故にブレスが通る内臓や喉の一部も痛めてしまう欠点を持つ。
しかしドラゴンに乗る竜騎士がブレスを放つよう指示すれば、操竜術という魔術で竜騎士に逆らえないドラゴンはブレスを連発しなくてはならない。
……その結果、内臓を痛めて体を弱らせるとしてもだ。
「俺から上の方とフェイ担当の竜騎士に掛け合ってみる。こんなの、もう三度目じゃないか」
『いいんだ、レイド。わたしももう竜としては老兵だ。体にガタがくる年頃ではあるし、これ以上自分の立場を悪くするな。そうやって我々を庇い、今や給料泥棒と言われている始末ではないか。あんなアホ共にまでな』
「それは……」
フェイは俺を罵る竜騎士たちを見て、ふんと鼻を鳴らした。
悔しいが、事実ではあった。
俺がドラゴンの体調を診て
「このドラゴンは前線には出せない、回復には長い時間が必要だ」
と上や竜騎士に掛け合えば
「ドラゴンの体調を整えるのも貴様の仕事だろう! 怠慢かこの無能な給料泥棒!」
と罵られる始末。
どんなに説明しても「ドラゴンは頑健な生物だ、そんなにヤワではない!」と信じてもらえない。
それでも代々一族の手で育ててきたドラゴンたちに無茶はさせられないと、俺は甘んじて給料泥棒という汚名を被ってきたのだ。
「でも、それもいつもの話だ。俺は気にせず、フェイは体をゆっくり休めてくれ」
『すまないレイド、我々のために苦労をかける』
それから俺は、別のドラゴンたちの体調も診たり世話をしていく。
この分では今日もひっそりと深夜まで残業だが、それも仕方がない。
何せ先代の両親も早くに亡くなり、【ドラゴンテイマー】スキルを持つ一族の人間はこの世にもう俺しかいないからだ。
ドラゴンたちのコンディションを整えるためにも、今夜も遅くまで頑張らなければ。