受け入れ難き真実
取り敢えずフィアの振りをして生活をすることに決めた僕だが、記憶を整理する中で1つ疑問が生じていた。
「・・・そのポーズはよく分かりませんが謝罪をしていることは取り敢えず分かりました。では本来の目的を果たしますか。」
「フィア。親父が目ぇ覚ましたら部屋まで来いだと。悪いがすぐ来てくれ」
ーー疑問というのはこの父親のことだ。
兄達から名前が出てきている訳なので死んでいるということではない。それとディアさんの言い方的に一緒の家に住んでいる筈なのだが・・・
何故だかフィアの記憶から父親との思い出がが殆ど出てこなかった。
遊んでもらった記憶も何かお喋りした記憶も、一緒に食事を取った記憶すら無かった。僕は前世では父親が実質いなかったから分からないけどこんなのが一般的な父親な訳が無いことは分かる。
一体どんな人なんだろうか?取り敢えずは行ってみないことには始まらないな。
僕は一先ず2人についていくことにした。
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僕は父親の部屋に行くまでの道すがら、自然に、そして出来るだけフィアっぽく父親のことを聞いてみることにした。
「はぁーあ、めんどくせえー!なんで俺がわざわざ行ってやらなきゃいけねえんだよ」
・・・喋りかたはこんな感じで良いのかな?出来るだけ中学の不良をイメージしてみたんだけど。
「・・・さっきは急に素直になって今度は急に元に戻りましたね、気持ち悪いですよ」
「まぁ今の方がフィアっぽくはあるが、素直な時の方が100倍可愛げがあったな」
ーーよし、取り敢えず大丈夫みたいだ・・・土下座のせいで変な感じにはなってるけど。
まあ良いや、質問の続きだ。
「つかあの親父殆ど会ったことねえな、どんな奴なんだよ?」
「・・・どんな、ですか?そうですね、私達も仕事以外では殆ど会わないのでなんともーー」
「あいつはくそだよ」
ディアさんがイーストさんの話に食い込んでそう言った。
「ディア、気持ちは分かりますがそんなことを言うものでは無いですよ」
「ふん!知るかよ大体あいつがあんなのだから悪いんだ。フィアもよく覚えておけ、まずあいつは自分の子供の名前を考えるのが時間の無駄とかいう理由で1から順の数字を息子に付けてるような奴だ。」
ーーえっとどういうことだ?1から順に名前?
「イーストってのは"1番"、ディアってのは"2番"そしてお前のフィアってのは"4番"って意味だ」
ーーえ?何その父親?片仮名の名前だったから全然違和感なかったけどそんな言葉だったんだ。
これ日本だと"山野3番"とか"山野3男"って付けられてるようなものだよね?雑すぎる!
大体時間の無駄って・・・そもそも貴族なんだから他の貴族との接点もあるだろうにこんな名前で大丈夫なのか?僕なら息子の名前を番号にしてる人なんて付き合いたくないけどな。
そんなことを考えているとディアさんはさらに続けた。
「それだけじゃねえ。お前らも知ってるとは思うがあいつは殆ど息子と会うことはない。俺も年単位で会ってねえ。それこそさっき兄貴が言ってたように仕事ん時だけだ、恐らくフィア、今回お前が呼ばれたのもそれだろうよ」
仕事?僕が?14歳なのに?貴族なのに?話がよくわからなくなってきた。
農民とかなら幼い時から働きに出されるのはなんとなくわからなくは無いけど・・・僕2年後に学園に入学するんだよね?働いてる余裕あるのかな?
「・・・俺学園行くんだろ?なのに仕事ってなんだよ?」
「まぁすぐに分かるさ。それとあいつのやばさはこんなもんじゃねえ。あいつは俺達にーー」
「ほら、無駄話は終わりです。着きましたよ」
話に夢中だった僕だったが、いつの間にか父親の部屋の前にたどり着いていた。
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「失礼します。お父様、フィアを連れて参りました。」
イーストさんが扉をノックし、少しして中に入って行った。それに追随してディアさんと僕も中に入る。
入った部屋で最初に目に飛び込んできたのは、数える気が無くなりそうなほど大量の本だった。
両壁の本棚だけでは入りきらなかったのか、目の前にある机の上にもこれまた大量に並べられていた。
ざっと見る限りジャンルに拘りは無いのか皆が好みそうな大衆文学から純文学、生物図鑑や果てには恋愛小説まであった。
そんな本の山の中で1人ページをめくっている男が当主の"モード・ドロフォニア"だ。
此方に気づいていないのか少しばかり間を置きようやく視線を此方へ向けた。
「失礼、本に気を取られ気づかなかった。ではフィア君、早速此方へ来たまえ」
「・・・・・・チッ、俺らには挨拶も無しかよ」
ディアさんは小声でそう呟いた。
「フィア、今日君を呼んだのは他でも無い。仕事の話しだ」
ーー仕事・・・さっきの話で一番気になっていた所だ。
だけどその前に・・・
「・・・なあ?久しぶりに会った息子達に対してその対応はどうなんだ?」
「フィア・・・何を?」
本来この言葉は言うべきでは無かったのだろう、息子としてもフィアとしても・・・
だが我慢が出来なかった。
我慢しようと思えなかった。
なんでだろう?さっきのディアさんの呟きを聞いてしまったからだろうか?
とにかくこんな父親認められない、そう思ってしまった。
「・・・フィア君。君の言いたいことがよくわからないな。今私は君達のことを息子ではなく仕事を命じられる部下としても見ている。であれば過度に親しくするのは間違いではないか?」
ーーだめだ、こいつ親として振る舞えてないんじゃない。振る舞う気がないんだ。こんなのが父親だなんてーー
「話は終わりかね?では本題に入ろうか」
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くそっ!言い返したいのにこいつを打つ言葉が出てこない。何を言っても息子として見る気がないんじゃーー
「先程言った仕事だがね、なに、難しい事はない。君には学園に潜入してもらう」
「お父様、フィアはまだこの家の仕事すら何かわかってはいません。そこを説明しなければ話は進まないかと」
「おや?そうだったかな?ならばそうするとしよう」
「この家はね、10代前からその仕事を続けている。正確にはこの仕事をしていたからこの家があると言っても良い」
「・・・どういうことだ?その仕事が認められたから貴族になれたとかか?あほらしいーー」
「あぁ、まさにそういうことだよ。」
ーーほんとにそうなのかよ。貴族に上がれるほどの仕事ってどんだけのもんなんだ?
「私達の仕事はね、簡単に言えば汚れ仕事さ。一方に得をさせ、もう一方に害を与える、それがこの家の仕事さ」
なんだそれ?とにかく碌な仕事じゃないことだけは間違い無い。というか犯罪だろ、そんな家を貴族入りさせるってどういう事だ?
「・・・なんだよそれ?そんな仕事やる訳無いだろ・・・俺も兄貴達も」
「いや、君は・・・君達はやるよ。そういう風にしてある」
してある?改造でもされてるのか?
反応が気になり兄達の顔を見てみると、イーストさんは目を伏せ、ディアさんは拳を握りしめ震わせていた。
「さて、どこまで話したかな?あぁそうそう、仕事内容だったね。今度はもっとわかりやすく言おう。君達の仕事は依頼主が指定した標的の調査、そしてその結果をもとに判断し、その結果標的が依頼主の害となると判断された場合・・・その標的を殺害する。それが私たちの仕事だよ」
この世界に来て1番信じ難く、1番受け入れ難い話を、目の前の男はさも大したことでは無いかのように語った。
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