プロローグ2
「やぁ、こんにちは山野直気君」
突然声を掛けられ、目を覚ました僕の前に映ったのは、真っ白な空間とそこに1人佇んでいた黒髪の女の子だった。
どこだここ?僕は確か背中を刺されて・・・
「ねぇ、聞こえてる?もしもーし?」
その声で僕は意識を彼女に戻した。
「お!ようやくこっちに意識戻った!突然のことで全然状況掴めないとは思うんだけど取り敢えず私の話を聞いてね!」
「えっ?あ?・・・はい」
僕は何が起こっているのかよくわからないまま彼女の説明を受けた。
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ーー説明された内容は信じがたいものばかりだった。
まず、彼女は魂の調整者であり、死んだ者の記憶を消して別の世界に送ることで全ての世界の魂のバランスを一定にするのが仕事らしい。
ようやく落ち着きを取り戻した僕は
「何故元の世界で生まれ変わらせないんですか?」と質問すると・・・
「元の世界だと前世の記憶を呼び起こすものが沢山溢れてるからね。出来るだけ思い出さない方が世界にとっても都合がいいんだよ」
とのことだった。
記憶持ちの方が知識の蓄えがある分、優位に立つことがあるそうだ。その為、基本別世界に送られるらしい。
"異世界知識を持った人がいても問題なのでは?"と思ったが、魔法が主流の世界が多いため、どうせ思い出してもたいして役に立たないとのことらしい。
それに科学が進んでいる世界から転生しても、僕らの世界の科学力の方が上らしい。
例外として僕たちの世界の優秀な知識人などは別世界を急激に発展させすぎてしまう可能性がある為同じ世界の全く縁のない地に送られるらしい。
「話続けるね。さっきも言ったけど私の仕事は魂を送ることだけど、どんな世界に送るか、どんな家庭に生まれるかを決めるのには基準みたいなのがあるのよ」
「基準・・ですか?」
「例えば普通に暮らしてたら同じくらいのランクに転生になるね。そして世界的な大犯罪者だったら最低な環境に転生することになるってことだよ。」
彼女の話を聞いて1つ疑問が生じた。転生の基準という話だ。
先程何もなければ同じ、大犯罪なら最低と言っていたが、1人殺してしまっている僕はどうなるんだろうか?
「・・・あの?因みに僕みたいに事故で人を殺してしまった人はどうなんですか?」
「そうだね・・・一応言っておくと人を殺してしまったら絶対点数を引かれるって訳じゃ無いんだよ」
「えっ、なんでですか?」
「例えば犯罪者に襲われた時の正当防衛で殺してしまった場合なんかだね。本人に悪意がなく、かつ正統性が認められれば問題ないよ」
なるほど。確かに正当防衛で罪に問われる事はないし、こっちでもそういう判定になるのは頷ける。
「で本題の君の質問だけど・・・残念ながら君はダメだね、悪意がなかったとはいえ法を犯して殺してる訳だからね」
そりゃそうだ・・・僕自身"全然問題ないよ"
とか言われてても絶対信用できない。
「わかりました。仕方がないです」
「あれ?意外と達観してるね?善人だってもう少し慌てふためくもんだけど」
達観か・・・どっちかというとこれは諦めに近いかな。
生前なんの役にも立てず、人を殺し、母親の死目にも会わない奴が幸せになる権利なんてあるはずがない。
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そういえばもう一つ疑問があった
「僕を刺した女性って因みに誰だったのか分かりますか?」
「彼女はね、君が殺した"東 光輝"君の彼女だよ。10年間怒りが治らなかったんだね。いやー凄い愛だこと」
東光輝・・・その名前を魂に刻み込むように反芻した。
二度と同じ過ちを繰り返さぬように・・・
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「他に質問とかある?よかったら遺言とか聞いてあげるけど」
「いえ・・・ありません。遺言を残そうにも残したい言葉もありませんし人も居ないですしね」
「よし!それじゃ転生をさせるね。次の人生が良いものにしていく事を願っているよ。」
ーーー青白い光が僕を包んでいく
ーーーあぁなんだか眠くなってきた
ーーー自分が消える感覚はさほど悪くはない
消えゆく意識の中で彼女の声が流れてきた。
「・・・それじゃ、気をつけてね・・・」
こうして山野直気という存在は終わりを告げる。
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