ルール違反者
実力テストを終えた僕らは、先生の案内で教室へ向かった。そしてそれぞれ席へつき、早速授業が始まった。
ほとんどの同級生がはじめての内容に頭を抱えていたが、僕は既にイースト兄さんに習っていた内容だったので、特に苦労することもなく、むしろ隣の席のシルフィさんに教えてあげられる程・・・なんか今の僕、得意分野になると急にマウント取り出すオタクみたいになってるな、気をつけないと。
午前の授業が終わり、1時間の昼休憩となった。学園には食堂があるらしく、しかも結構豪華だ。
同級生達はこれくらいの食事が当たり前なので特に動揺もなかったが、その中で1人キョロキョロしている人が居たーーミスタル君だ。
どうするべきか迷ったが、意を決して話しかけることにした。
「あの、ミスタル君?どうしたの?」
そう声を掛けると彼は振り返り僕の顔を確認するや否や、少し表情が死んだ。しかしすぐにいつもの彼に戻りーー
「どうも、ナオキさん。僕平民出身なのでこんな食事はじめてで・・・何から食べようか迷っていたところなんです」
普通通りの表情だ。あの顔は見間違いかな?
そう思っていると、シルフィさんが大盛りの丼をお盆に乗せこちらにやって来た。
「2人とも、一緒に食べない?」
そう言われ、僕は勿論了承した。そしてミスタル君の反応が気になり顔を伺ってみると、100点のスマイルで承諾していた。
あれ?これもしかしてさっきのあの表情、シルフィさんだと思ったらお前かよ!っていう顔だったのかな?だとしたらなんか・・・ごめん。
こうして僕らは3人で食事をすることになった。
「それにしてもシルフィさん、結構食べるんですね。細身だから最初びっくりしました」
「ん?そうかな、うちではこれでも少なかったよ?2人のところは違うの?」
「僕は平民なので、そこまで贅沢な暮らしは出来ませんでしたねーー」
「あぅっ!ごめん!そんなつもり無くて・・・」
「分かってますよ。グラスさんがそんな人なら今僕はここにいません」
うわすごい大人の返し方!この顔でこれ言われたら皆好きになりそう。
「そういえばナオキさん。朝のあの魔法、あれば誰に教わったんですか?」
「あぁそれは兄さんにーー」
「あれ?ブラーガン家ってナオキ君以外いたっけ?」
しまった間違えた!ここは嘘でも独学とか言うべきだった。どうしよう・・・
「へぇ、お兄さんに。いつか会って教わってみたいものです」
やばいどうしよう!イースト兄さんのことを言ったらドロフォニアだってバレそうだし・・・!
そんな時、1人声を掛けて来た人がいた。
「ーーその話、俺も混ぜてくれよ」
すごいがたいのいい子だな、少しディア兄さんみたいだ。
「えっと・・・君は確かーー」
「フラム・カルド!同級生の名前くらいさっさと覚えやがれ!それともなんだ、格下の名前は覚えない主義とかか?」
うわー、絡まれた。ヤンキーだよ。
「い、いえ!すいません僕物覚えが悪くて、カルドさんですね。宜しくおねがしいます」
あからさまにビビりながら答えてしまった。なんだよおねがしいますって。
そんな僕の様子を見てクスクス笑っている者がいた。まぁ別にいいんだけどさ。そう思っているとーー
「おい!お前らコソコソうるせぇんだよ!向かってくる度胸もねぇんならせめて黙っとけ!!」
意外にもカルドさんがそれを止めてくれた。優しい、とはまた違うんだろうけど、良くも悪くも真っ直ぐって感じかな?
「あの・・・ありがとうございます」
「あ?つかお前もあんだけの力あんなら自分で黙らせりゃいいだろうが!なんで黙って聞いてた?」
「なんでって・・・別にいいかなって」
そう答えると、カルドさんは冷めたような表情になりーー
「んだよ、ようやく骨のある奴に出会えたと思ったら才能にあぐらをかいてる腑抜けやろうかよ・・・」
才能?ーーそんなものにあぐらをかけるんだったらいくらでもそうしてたさ。だけどそんなもの昔も今もなかったから努力して来たんだよ・・・!それと、才能なんて言葉で片付けてしまったら、兄さん達と一緒につけた実力がなんだか軽いものになるだろうが!
僕は去っていくカルドさんを呼び止めた。
「あのすいません。今の発言・・・取り消して貰えませんか?」
「・・・ナオキ君?」
「取り消せ?なんでだ?現にさっきのお前は笑われたことを別にいいと言ってやがった。そんな奴に取り消す言葉なんてねぇよ」
「僕が取り消して欲しいのは才能にあぐらをかいてるってところです。確かにさっきはそんな風に言いましたよ。でも、あれは僕だけが笑われたからだ!でも今のは違う!才能なんて言葉を使われるのは僕にとって兄さん達も愚弄することと同じだ。だから・・・取り消せ。」
体の中から暴力的な言葉が飛び出してくる。フィアがまた出かかっているのかも知れない。そのせいなのか僕の口調も少し乱暴になっていた。
「こいつ・・・なんだよ?」
「ナオキ君、落ち着いて!ルールでもあったでしょ、無闇な戦闘は違反だって。このままだと2人ともそうなっちゃうよ?・・・だから、落ち着いて」
ーーシルフィさん、確かに少し冷静さを欠いてた。すぐこうなってしまうのが悪い癖だ。
「ごめん、ありがとうシルフィさん。お陰でちょっと落ち着いた」
「はぁー、良かった。ほら、お互い謝ってこれでおしまーー」
「グラスさん、ナオキさんは謝る必要なんてないと思いますよ」
そう言ったのはミスタル君だった。これまた意外だ。こういうのは率先して仲裁するタイプだと思ってた。
「カルドさん。貴方のそれは価値観の押し付けに過ぎない。気に触る箇所や沸点は人それぞれ違います。それを自分の物差しで語るとこうなるんです」
「陰口言われて黙ってるのは男じゃーー」
「喚いて無理矢理大人しくさせるのが男ですか。であれば僕は男らしく無くていいです」
あまりの正論にその場にいる誰も、カルドさんでさえも声を上げることは出来なかった。
そんな状況の中、先生がやって来た。
「なんだこの状況は?誰か説明しなさい」
当事者では無さそうと判断された群衆に対し、そう質問された。そして赤みがかった髪色をした、なんだか軽そうな人が答えた。確か名前は"フィリオ・リフト"
「はいはーい!俺が説明しまーす!」
「うざったい。早く言え」
「せんせぇ連れないな。まぁいいや。ざっくり言うとカルドが喧嘩打ってナオキが乗りそうになったのをフラークが黙らせた所でーす」
すごい簡潔で正確だな。軽薄そうな見た目と話し方だけど頭はいいのかも知れない。というか今更だけど"リフト"?!リフトって確か!
「報告ご苦労。では当事者2人はあとで校長室にーー」
「あのさー先生!この学園、授業用に闘技場あるだろ?そこ使ってこいつらのどっちが上かはっきりさせない?」
前言撤回、頭おかしいのかこいつ?まず教師に敬意ってルールどこ行った?
「言ってる意味が分からん。まず何故お前にそんな口を叩かれるいわれがある?」
「あれ?しらねぇの?俺はこの学園の理事の息子だ。立場的にあんたより偉い」
「初日にしてもう忘れたのか?この学園内ではお前らは平等ーー」
「ーーは?んな訳ねぇだろ?潰すぞ・・・!」
こいつ本当にやばい。親のコネ全開で来てる。こんな風に育っていることを考えると親はこいつに甘そうだな。下手なことやったら本気で潰して来そうだ。
「・・・・・・何が目的だ?」
「さっすが先生!雇われ従業員!!話が早いよ」
「あんたへの依頼は2つ。まずは闘技場の解放、そして2つ目・・・こいつら2人の決闘を許可してよ!」
心の底からこう言いたいーーどうしてこうなった?
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