告白
目が覚め、始めに映ったのは真っ白の天井。そして視線を徐に右手に移した。
ーー赤くない。いつも通りの肌色だ。まるで昨日のことは夢だったのではないかと思える程綺麗な肌だった。
しかし、手の震えが止まらない。昨日の光景が脳裏を離れてくれない。魔物でこれなんだ・・・もし人間相手だった場合、僕は何も出来ないかも知れない。
それにしても昨日のは一体・・・?僕の体に何が?
そんなことを考えていると、兄さん達が部屋に入ってきた。
「やぁフィア。体調は大丈夫ですか?」
「・・・お前、昨日一体何があった?何か覚えてねえのか?」
「昨日は・・・まず、あの魔物を殺さなきゃと自分に言い聞かせてました。それを反芻しているうちに意識が途切れていってーー気付いたら暗い空間で両手両足鎖で繋がれてました」
そう、僕はあの時どこかに閉じ込められた。転生前の白い空間と真逆の真っ暗な場所で。それと、そこから放たれる瞬間、一瞬モニターのようなものが見えた気がする。
「暗い空間で拘束?だがお前の体は間違いなく魔物と戦ってた。ーーその話を鵜呑みにするとすれば、2重人格ってことか?」
「・・・確かに、そう考えれば私が感じていた疑問は概ね解決します」
「疑問・・・ですか?」
「ええ、昨日の貴方はまるで昔のフィアのようでした。正直私の考えとしては、今の貴方が第2人格だと思っています。そう考えれば1年半前から急に人が変わったようになったのも肯ける」
僕の方が第2人格、これは正しい。元のフィアと今の僕は性格がかなり違う。気付くのは当然だ。
2重人格、昔のフィアのよう・・・恐らくここから分かることはーー
「昨日魔物を殺したのは第1人格、つまり元々のフィアってことですよね?」
「ええ、恐らく。つまり今の貴方は本当のフィアでは無い。貴方に自覚は無いのかも知れませんが」
「まじかよ・・・!なぁ、正直に話してくれ、お前は誰だ?もしフィアじゃねえんなら今までどんな気持ちで俺たちと居た?」
ーーもういいか。正直に話せばこの2人になんて言われるか分からない。「弟を奪いやがって」とか言われて殺されちゃうかな?まぁでもいいや、ずっと嘘をついてきた。もうこの2人には嘘をつきたく無い。それで殺されるなら僕は諦められる。
こうして僕は、転生してきてからのことを2人に聞いてもらった。
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話は数時間に及び、当たり前だが2人は動揺を隠せずにいた。
「・・・つまり貴方はヤマノナオキという人物で、1年半前にフィアの体を乗っ取る形で転生したと」
「はい、そうです。今まで黙っていて・・・本当にすいませんでした!」
僕は立ち上がり、2人に頭を下げた。勿論許させるはずがない。見知らぬ誰かが弟の体を奪いぬくぬくと暮らしていたのだから。
「ーーフィア。いや、ナオキ」
名前を呼ばれ、恐る恐る顔を上げた。すると、拳が顔に飛んできた。
「ディアにい・・・ディアさん」
「・・・悪いな、1発だけ殴らせてもらったぜ」
「1発・・・だけ?そんなんでゆるせるんですか僕のことを?」
「はぁ〜?!許すわけねぇだろ!お前は弟の体を奪って、ずっと俺たちを騙してたんだろうが?」
ーー痛い。殴られたとこもそうだけど、今はもっと別のところがすごく痛い。でも、大事な人達を裏切った。これは受け止めなくてはいけない痛みだ。
「はい。この1年半、ずっとです」
この回答の後、イーストさんが口を開いた。あぁ、この人からも断罪されるのだろう。
きついな・・・。
「ナオキさん、質問させて頂きます。貴方はディアのずっと騙していた、という質問に対し、"そうだ"と答えましたね?」
「はい・・・」
「ーーでは、父に初めて会った時に、父に向かって行ったあの言動。あれも嘘ですか?」
「えっ?・・・あっ・・・?」
「ドロイの話をした時、自分の意思で仇を打ちたいと言ってくれたこと、4人全員で父を越えようと言ってくれたあの瞬間も、貴方にとっては嘘でしたか?」
「あれは・・・違う!嘘じゃない!僕は・・・ほんとに・・・信じてくれる訳無いですよね。こんなこんな嘘塗れの人間ーー」
「そうですか!じゃあもう良いです!」
・・・・・・えっ?!良い?何が・・・?
「あの・・・何が・・・?」
「ん?ですからもう貴方を咎めません。勿論弟の体を奪っていることや嘘をつき続けていたことは許しませんよ。ですが・・・」
「私達の為に本気で怒ってくれた。私達の為に本気で頑張ろうと思ってくれた。そして実際ものすごく頑張ってくれた。これを知ってしまったら、もう私には貴方を咎める気力は無くなってしまいました!ディアはどうです?」
「ん?だから言ったろ、1発殴ったからそれでちゃらだ」
「言ってませんよ」
「あれ?そうだっけか?まぁ大まかにはイーストと同じだよ。あの言葉が嘘じゃねぇってのはなんとなく分かってたからな。それと俺の出したメニュー、あんなもん本気で頑張んなきゃ達成なんか出来ねぇよ!生半可な気持ちの奴がこなせる内容にしたつもりはねぇ」
これは・・・なんだろう?決して許されてはいない。だけど・・・なんだが・・・"報われた"気がした。この人達はフィアである僕じゃない。"山野直気"を見てくれていた。その事実だけで、僕は・・・
「改めて、すいませんでした!そして、ありがとうございます!」
僕は不格好に泣きながら頭を下げた。
「おいおい、泣くんじゃねえよ!野郎の涙なんて誰が得すんだ!さっさと拭け!」
そう言ってディアさんはハンカチを手渡してくれた。
「すいません、ディアさん、ありがとう・・・ございます」
「・・・なぁそのディアさんってやめようぜ。最近は兄さん呼びだったから違和感がすげぇ。それにーー」
「貴方はもう私達の弟ですからね。1年半も兄弟やってて、今更解消なんてありませんよ。ナオキーー君はもう1人の私達の兄弟です!」
ーーあぁ、これはなんだ?こんなことあっていいのか?僕は罪人で、嘘つきで・・・それなのにこんなに幸せでーー
「決めた、もう迷わない。僕は強くなる。兄さん達をを守れるくらい強くなります!」
「お!大きく出たなぁ!まぁ10年後くらいにはなれるかもな!」
「そうですね!私はおまけして9年で!」
「絶対にすぐなりますからーー見てて下さい!」
その後僕らは軽口を叩きあったり、前世の話なんかをして過ごした。
思えば今日、初めて本当の兄弟になれたのかも知れない。
僕はこの2人を絶対に守る。イースト兄さんの悲願である、父親との決着も絶対に勝ってみせる。もう迷いは無い。魔物だって自分の力で倒してみせる!
ここからまた始まる。フィアでは無い、山野直気の人生が!
ーーこうして時は過ぎ、僕はいよいよ学園に入学することとなる。
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