殺さなければ進めない
充分に体を休め次の日、僕は兄さん達に連れられ、森へ来ていた。
「さぁ、やってきました。ここにはさして強くない魔物が蔓延っています。なので駆け出しの戦士なんかはここで実力を試すんです。かく言う私も最初はここで初戦闘を行いました」
「んまぁ登竜門的な場所だな。ここの魔物程度やれねぇ奴は戦いに向いてない」
なる程。ここの魔物を倒す事が出来たら駆け出し戦士位の実力は付いたと考えて良いってことか。まぁ兄さん達より強い事はあり得ないみたいだし、そこまで気負う必要は無いのかもな。・・・だけど油断は禁物!
「ーーよし!頑張るぞ!」
「その意気ですよフィア!もし危なくなったら私達がサポートしますから安心して討伐に集中して下さい」
「んまぁでも、いざとなりゃ助けてくれるなんて考え方で行動はすんなよ。実戦経験を積むって意味でも来てんだからな、お前もそのつもりで臨めよ!」
「はい!」
ーー初めての実践。緊張しないと言えば嘘になるが、そこまでしてはいない。期末テストの時の方がよっぽど緊張してる。
「では、行きましょう」
こうして僕らは森の奥へと歩を進めた。
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魔物に出会うまでの道すがら、少し話をした。
「イースト兄さん、ディア兄さん、僕の特訓ってどれくらいまで進んでるの?7割くらい?」
「そうですね・・・私の方は8割といったところですかね。そもそも大半は魔力の向上と属性チェックだけを教えてもらい、あとは自分でと言う人ばかりですし。学園入学前に力をつけておく人は結構いますが、フィア程やっている人は稀です」
「そうなんですね・・・あと2割か。ディア兄さんの方は?」
「こっちは6割ってとこか。今はまだどちらかと言うと喧嘩っぽい動きだからな、そこを修正しないといけねえ。獣はともかく対人なら確実に慣れられる」
喧嘩っぽい・・・あんまりそんなつもりなかったんだけど、体に染みついちゃってるのかな?早く治さないと。
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ーーなどと会話をしているうちに、遠くで一匹の魔物を発見した。地球の生き物で言うと虎のような生物だ。違う点とすればひと回り大きい事、そして目が真っ赤な事だろうか。正直見た目だけで怖くなって来た。
「ローデタイガーですね。この森にいる魔物の中では割と強い方です。まぁでも、今の貴方なら仕留められると思いますよ」
「よし、せっかくだし今日はあいつの肉料理にしようぜ!意外とうまいんだよあいつ」
ーーえっ?ちょっと待って。仕留めるとか料理にするとか・・・"殺す"って事?そんなこと・・・いきなりーー
「えっと、あの魔物殺さなきゃいけないの?倒すだけじゃ?」
その質問を皮切りに、兄さん達の空気が変わった。
「・・・私達が貴方をこの森へ連れてきた理由、勿論魔物のレベルが低く、実力を見るのに最適だから、というのが1番です。しかしもう一つあります。それはーー"殺す"ということを体験してもらう為です」
殺しを体験させる為?!なんでそんな?ーーもしかして!
「仕事の事ですか?最終的に標的を殺さなきゃいけないかもしれないから、そういう事ですか?それなら父親を倒すって事で終わった話でしょう?」
「その事じゃねえよ。今更そんなもん蒸し返すかバカ!イーストが言いてえのは、殺すことにある程度慣れとかねぇと駄目って事だ」
殺しを慣れろ?何を言ってーー殺したことのある僕は知っている。殺すっていう感覚は慣れちゃいけないものだ!あんなものに慣れてしまったらおかしくなる。
「嫌だ!そんなもんに慣れるなんて絶対にーー」
「貴方が入学する学園では、魔物を殺す授業があります」
ーーえっ?殺す授業?一体、なんで?
「フィア、結構前に隣国なんかと戦争する可能性もあるって言ったよな」
「えっ?あ、はい」
「もし戦争が起こった場合、もしくは大量の魔物が攻めて来た時、戦闘能力があるものは全員徴兵されることになってる。そんな時、敵を目の前にして"殺せません、殺したくありません"って言ってる奴はすぐに死ぬ」
「そうならない為に学園では、魔物を殺して少しでも慣れるという授業をしているんです。流石に人を殺す授業は出来ませんが」
・・・理屈は分かったけど、殺されない為に殺すって、なんだよそれ・・・
「あと、魔物を殺したく無いってのは俺から言わせりゃわがままだ」
「なんでですか?」
「俺たちが普段から食べている飯なんかはほとんど魔物だからだ。それくらいはお前だってしってんだろ?自分は殺したく無い、殺すなんておかしいっていうくせに死んだ後の肉は頬張る、これはどうなんだと思うぜ」
「ーーフィア、辞める今ですよ。ここであの魔物を殺せないのであれば、貴方にあの父親を下す事は絶対に出来ません。魔物を殺せない者が人間に対して殺すつもりで向かうなど不可能です。それ程の相手ですから」
ーー父親を倒すには魔物くらい倒せないといけない。それは理解してるつもりだ。ディア兄さんの言葉も言い方はきついけど理解できる。
僕だってあいつを倒したい。仇を打ちたいという気持ちは全く嘘じゃ無い。だけど、いざあの魔物を殺すイメージをした時、体が動かない。足がすくむ。
「・・・酷ですがあと10秒で決めてください。そこまで迷うくらいならやらない方がいい。ーーでは、カウントを始めます。10・・・9・・・8・・・7ーー」
動け!動けよ!ここで動かないんなら、なんの為に僕は今まで頑張ってきたんだ!
「6・・・5・・・4ーー」
動けよ!動いて殺せ!動け、殺せよ、殺せ!殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、コロす、コロす、コロす、コロす、コロす、コロす!
僕が・・・オレが!ーーその時、何かが僕の中で切り替わる音がした。
「3・・・2・・・いーーフィア?どうしました?」
「なんで・・・急に笑い出して?」
オレは笑みを浮かべ、そして左手で剣を持ち、魔物に急接近した。
魔物はこっちに気付きやがったが・・・もうオセエよ!
相手の真下に潜り込み、まずは足を切る。こうしてバランスを崩したところで、目を斬り付ける。視界も失い、動くことすらできねえ肉塊にーーシネ!そう言って動体を2つに割った。
「んだよ・・・コイツこんなもんか。さて、次の獲物はーー」
「フィア?本当にどうしたんですか?貴方らしくない・・・いや、昔の貴方みたいです」
「つか誰だお前?今まで見てきたフィアの利き手は左じゃなかったんだが?」
フィアは2人の方を一瞥しーー
ーーなんか言ってんな?まぁいい、折角戻ったんだ!もう少し暴れてさせ・・・クソ!なんだこれ?
またこの痛み、アイツが入ってきた時みてぇだ!・・・意識が、消える・・・またあんなとこに・・・閉じ込め・・・ら・・・
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あれ、ここは?さっきまで鎖みたいなもので・・・
「フィア?」
はっ!イースト兄さんの言葉で意識が外に戻った。そうして目に映ったものはーー赤く染まった剣に同じく赤い僕の右手、そしておそらく魔物だったであろう肉塊が目の前に落ちていた。
ーーはっ?えっ?何これ?・・・僕がやったのか?確かに殺さなきゃ・・・とは思ってたけど・・・いつ?どうやって?それよりも・・・本当に僕が?
血の臭いと自分が殺したという客観的事実から、その場で吐いてしまい、そしてそのまま・・・意識が途絶えた。
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