ドロイ・ドロフォニア
「お話します。私があの男を失脚させたい・・・いえ、本音を言えば殺してやろうとさえ思っている理由を」
ーー殺す?!温厚なイーストさんからそんな言葉が出てくるなんて・・・それにあの子?誰のことだ?
「まず、貴方も当然理解しているとは思いますが兄弟はもう1人います」
「3男・・・ですよね?気にはなっていたんですけど、ディアさんも教えて下さらなかったので」
そう、あの時は明確に拒絶された。兄弟にとって明るみに出て欲しくないようなろくでもない人物だったんだろか。
「貴方は会った事が無いので知らないでしょうから説明します。あの子の名前は"ドロイ・ドロフォニア"ドロフォニア家3男にして、当家の歴史の中で飛び抜けて天才でした」
「天才?凄い賢かったんですか?」
「確かに頭も良かったですが、それよりも魔法の腕が凄まじかった。8歳の頃誰に教わるでもなく直感的に魔力操作を行い、そのその翌月には属性に変換させることも出来ていましたね。因みに[光]属性でした」
8歳で魔力操作?!しかも教わらずに?なんだその最強主人公。しかも光属性って凄いレアだって授業で聞いたけど・・・段違いだな。
「あの子は本当に天才でした。しかしそれに驕らず強くなるための修行も欠かして居ませんでした。さらに人格も優れており、正義感が強く、愛想も良く、家の使用人達からも本当に慕われていました」
「凄すぎますねその人、才能があって努力もするってなんだか僕の標的みたいな人物ですね」
「確かに似ているのかも知れません。大変優秀で僕ら兄達も鼻が高かった。・・・しかし、あの子が14歳の頃、私達が恐れていた事が起こりました。父があの子に仕事の依頼を持ちかけたのです。内容は学園に入学し、標的を調査、結果によっては暗殺というものでした」
ーーえっ?それって!
「そう、貴方と同じ歳にで同じ依頼が舞い込んで来たんです。その時初めてあの子はこの家の仕事を知りました。そして愕然とし、失望し、怒りを露わにしました。あの子の正義感が許せなかったのでしょう。」
「当然仕事を断り、父を糾弾しました。しかし当然と言いますかあの人には全く響かず、攻撃を仕掛けたんです。ですがその時あの子に掛けられていた令呪が発動し、当てる事が出来なかった。令呪には仕事の放棄、術者への攻撃、そして父への攻撃をする事で発動するようになっていたのです。襲ってくる痛み、しかしあの子はそれを振り切り再度攻撃に転じました。・・・しかし、結果としてあの子は負けてしまいました」
「・・・そんな天才でも勝てないなんて、そんなに強いんですかあいつは?」
「強い・・・というものとは違いますね。秘密は属性の能力にあります。あの人の属性は[闇]。そして能力は"非暴力主義"認識した全ての攻撃を無効にする能力です」
ーーは?・・・なんだよそのチート能力、というかそれって闇なのか?
闇属性についてはイーストさんの授業でも何故かあまり触れられていなかった。だから僕はあまりこのことについて知識がない。
「この能力によりあの子は敗北し、反省という名目で1年間地下牢に幽閉、そして丁度貴方が7歳になった頃に・・・脱獄しました。私達兄弟は必至に捜索をし、ようやく見つけた時ーーあの子は、壊れて廃人になっていました。何かしらの理由で令呪が発動したのでしょう、その形跡が見受けられました。ひとまず家に連れ帰りましたが、父に見つかり、もう使えないと分かるや否や何処かへ売られてしまったそうです。その場所を私達は知りませんし、いくら探しても見つかりません」
嘘・・・だろ?正しいはずの人間がそんな目に合うなんて、絶対に許せない!許されてはいけない、そんな奴生きてちゃいけない!
ーーこの時、僕は怒りや憎しみが蓄積した結果、いけない考え方をしていることに気付いていなかった。
そして、感じている怒りをそのままイーストさんに向けてしまった。
「・・・ふざけるなよ、なんだよその話!なんでそんな事があったのに、この7年間テメェらは何やってたんだ!!」
ーー言った瞬間に後悔した。なんでこんなこと言ってしまったんだ?確かにイーストさんにも苛立ちを感じていたのは事実だが、あそこまで言うつもりはなかったのに・・・そんな後悔をしていると、珍しくイーストさんが声を荒げた。
「貴方の言う通りですよ!でも出来ないんですよ!奴の能力のせいで攻撃は効かない!不意打ちを狙ったとしても令呪があるから仕掛けられない!・・・・・・ですから今まで何も出来なかったし、今回のこの計画も貴方頼みになってしまっている。・・・情けないのは分かっています。ですが、情けなくて惨めでカッコ悪くても・・・あの子の仇をとりたいんです!」
「これが、私がこの計画を立てた理由です。・・・どうです?情けないですよね?ですからあまりいいたくありませんでしたし、ディアにも口止めしていました。」
「・・・じゃあなんで今日は言ってくれたんですか?」
「そう、ですね。なんとなく最近の貴方はあの子に似ているからでしょうか。それで聞いて欲しくなったのかも知れません。・・・フィア、こんな他人任せで情けない兄で申し訳ない。こんな人間ですが、これからも力を貸して頂けませんか?・・・宜しくお願いします!」
「俺からも・・・宜しく頼む!」
この声は・・・ディアさん!いつの間に中へーー
「ディア、貴方何を?これは私が1人で立てたもの、貴方が頭を下げる理由はーー」
「俺だって事情知って協力してる。そのことについて今までずっと腸煮えくり返ってたんだ。あいつにも、そして自分にもな・・・これは兄弟の問題だ。あと、水臭えこと言わずにさ、こういう時頭くらい一緒に下げさせろよーー兄貴」
兄が弟にに頭を下げる。普通は恥ずかしいしプライドが邪魔して出来ないだろう。しかし2人は平気でやってみせた。プライドがないからではない、それだけ本気だからだ。
「ーー2人とも頭上げて下さい。そんなこと、してもらわなくていい」
「ですがあくまで貴方には協力してもらってるんです、これくらいはーー」
「だからいいって!・・・さっきの話を聞いて、そして2人を見て、協力するという気持ちは無くなりました」
「・・・ッ!フィア、頼む!俺達に力を貸してくーー」
「協力じゃない、自分の意思で参加するんです!」
「・・・え?それって・・・?」
「さっき兄弟の問題って言いましたよね、僕だって兄弟なんです!貴方達の、3人の弟です!・・・その人は会ったことないけど、それでも!・・・僕はその人の仇を打ちたい。これは自分の意思だ」
確かに3男に会った事はない、僕どころかフィアすらも。だけど、話を聞き、兄2人が頭を下げる様子を見て、1人だけ手伝ってやってるという考えで動きたくなかった。
「ーー改めてさ、一緒に頑張ろう、イースト兄さん、ディア兄さん!」
「ーーありがとう・・・貴方は・・・ほんとにあの子に似てきましたね!」
「そうだな、まだまだ危なっかしいが頼り甲斐が出てきやがった!」
「ここからもう1度始めよう。僕らでーー僕ら4人で、父親を超える!」
超えてやる、闇属性がなんだ!生きたまま死んでるような・・・尸のようなあいつは、僕らが・・・俺がーー
決意新たに歩み出した僕達。兄弟の仇を打つ為、父親であるモード・ドロフォニアを超えることを再び誓い合った。
ーーこの時、僕らは気づいていなかった。僕の中に、"闇"が蓄積しつつあることにーー
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