橋本美咲7
美咲ちゃんの華麗な舞は呆気なく終幕を迎えた。
それから30分ほど練習に励み、各々が帰り支度を終えた。そして美咲ちゃんは俺の元にやってきた。
「えへへ、負けちゃった」
情けない、といった笑みを浮かべながら続けた。
「一真くんの前でカッコつけるつもりだったのに」
あぁ、俺を意識してくれたのかと顔が綻ぶ。
「あんな異様な……いや、神業にはマジでびびったよ。というか危ないって。見てるこっちがヒヤヒヤしたよ」
「心配ご無用! 私は死なないわ!」
ガッツポーズを掲げた腕は華奢であった。体の一部のように竹刀を振り回しているのが信じがたい。
「今日も疲れたぁ。なんだかお腹すいちゃったなぁ」
こ、これはもしかしてチャンスだろうか。心臓の音が大きくなる。
「じ、じゃあさ、どうです? ご飯」
「ガッテン承知の助よ!」
わかってんじゃん、といった具合で秒で反応してきた。俺の緊張を返してくれ。
ということで美咲ちゃんが好きだという、大学を出てすぐの中華料理屋に入った。片言のウェイターが忙しそうにあっちこっちを駆け巡っている。
ラーメン、餃子、炒飯、ニラレバ炒め。細い割にずいぶん食べる子である。それらを飢えた獣の如くあっという間に平らげてしまった。
俺はそんなに食べたら戻してしまうだろう。情けないが、俺はご飯と野菜は注文しなかった。
残りの餃子と格闘していると、
「そんなんじゃすぐまた何か食べたくなっちゃうじゃないの。いっぱい食べないと大きくなれないわよ」
おばあちゃんみたいなこと言うなよ。正直もう何も入らない。
「むしろよくそんなに食べられるもんだね、スラッとしてるから驚きです」
「やだぁ、セクハラー!」
冗談まじりの声で答えたが、しかしその表情はだんだんと曇っていった。