橋本美咲5
すっかり日も沈んでいる。帰路の電車内はスーツを着てる大人がいつもよりも多い。
いつもは日が出てるうちに、講義が終わればさっさと帰ってしまっているものだから、いつもと違う雰囲気に居心地の悪さを感じた。
皆なんとなく疲れた顔をしているように見える。
そもそも俺自身が疲れているのだろうか。
普段見たり聞いたりしない、新しい刺激もそれはそれで良いのだが、いっぺんに押し寄せてくると精神的に来るものがある。
ただ練習を傍観していただけでこんな状態になっている自分は貧弱だな、と悲しくなる。
しかし、美咲ちゃんに何故か気に入ってもらえたことには胸が躍っている。
俺はひょっとしてイケメンなのだろうか、などと考えて、変にニヤけてはいないだろうかと思い冷静になる。
彼女はあんなに強いのに、なんで応援してほしい、などと言っていたのだろう。試合で勝てるという実績があるだけでは足りないのだろうか。
なんだかんだで学校の授業でしかスポーツに触れてきていない俺にはその気持ちがよく分からない。
そういう自分の優れた部分を知ることができる、それだけでとても幸せなことじゃないかと思うが。
なんだか頭の中が美咲ちゃんでいっぱいになってきている。そして、あの子の頭の中がもっと知りたい。きっと俺に足りない何かが掴める気がする。
よし、明日からも武道場に通ってやろうじゃないか、と妙に気合が入る。