橋本美咲2
人もまばらな昼下がり。この食堂、クーラーついているのか?やけに熱い。
結月ちゃんは額にかいている汗を拭いつつ続ける。
「悠真くんさ、剣道やったことある?」
こんなに汗かきなら辛いものは食べないほうがいいのではないだろうか。
「高校の体育で少しやったことあるくらいかな」
「あっ、それなら尚更感動するかもね!」
そう言ってカレーを一気に頬張った。
「感動、ですか?」
「そう! 最近剣道部に入った子がすごいみたいなの! 鬼のような強さを誇るらしいよ! もう部内で1番強くなっちゃったんだってさ!」
結月ちゃんの額にはずいぶんと汗が流れている。
才能ってやつか。羨ましいな、というかなんだか妬ましい。
「やっぱ尋常じゃない努力の結晶なんだろうね」
そう、努力。やはり才能だのなんだのは存在しない、と信じたい。
「たった半年足らずでそんなに強くなるのかな? 他の部員もきっと何年も努力してるはずなのに?」
結月ちゃんの眼差しが急に真剣なものになった。
「悠真くんってさ、お化けとか信じない人でしょ。頑固っていうかなんていうか」
違う。決して頑固ではない。七味ちゃんみたいなこと言うな。
「ご、こめん。なんだかにわかに信じがたい話だったもので。俺、そんな鬼さんを一度見てみたいものです、はい」
つまらない男だとは思われたくない。上ずった声で必死に取り繕う。
「よし! 決まりね! 今日も練習してるはずだから、今から武道館に直行ね!」
結月ちゃんにニコニコが戻る。しかしずいぶんと行動力のある子だ。
気付けば食堂は閑散としていた。