ある日2
夕陽が俺たちを照らしている。
ゆっくりと景色が変わってゆく。
「大体さ、悠真くんよ。あんたバイト落ち続けてる理由分かる?」
「き、緊張しすぎだからでしょうか?」
七味ちゃんはにやけながら続けた。
「違う。そのオールバックよ。すげぇダサイ。そんでもってヘタレ」
七味ちゃん的には好みの髪型ではないのだろうか。というか髪上げてるだけでオールバックというほどではない。それに金髪の七味ちゃんには文句言われたくない。
「これは俺のポリシーです。俺を構成する大切な一部です。あと俺はとても漢らしいです」
「おまけに頑固なところね。もっと柔軟に適応できないものなのかしら。ほんとに不器用なやつね」
こいつにそんなこと言われたくない。
「そ、そこまで言わないでよぉ。そもそもちゃんと学生してるもん。ちゃんと単位とってるもん。学生の本分は勉学に励むことではないでしょうか?」
「そうね、その通りね。あんたは確かに普通に頑張ってる。きっとこれからも普通にそれなりの人生を歩んで普通に死んでいくんでしょうね」
しかし口が悪い女だ。
「やめろ! 俺は俺にしかできないBIGなことを成し遂げるんだ! 唯一無二の男になるんだよ!」
「BIGってなによ」
「……分かりません」
そう。分からない。俺はどうすればいいか分からない。自分がちっぽけなやつだってことは十分に分かっている。
「あっ!」
もやもやと自己嫌悪に陥っているとき、七味ちゃんがぎょっとしていた。
俺たちを避けた小学生が自転車で土手を猛スピードで下っている。驚いてパニックに陥っているようだ。この勢いだと下手すりゃ結構な怪我を免れない気がする。
「うおおぉ! 今行く! まずはブレーキかけろ!」
俺は必死に走った。
聞こえた!ブレーキはかけているようだ!俺のせいでケガはさせられない。
追いついた!俺は小学生を抱き抱え、ぐるぐると転がった。
「大丈夫か!?」
目が回る。
「うえぇ、お兄ちゃん、ありがとう、怖かったよぉ」
ありがとうなんて言うな。俺がいなきゃお前はこんなことにならないで済んだのだから。
幸い怪我はないようだ。
「はい、お守り。これで泣き虫とバイバイよ」
七味ちゃんも優しいところがあるじゃないか。
俺たちはこの子を家まで送り届けた。
「ありがとうございました! この子が大変ご迷惑をお掛けしました」
だからさ、違うのに。
「いえ、とんでもないです。俺がぼんやりしてなければこんなことにはならなかったんですから」
尋常ではない感謝の言葉の数々を受け、俺たちはあの子の家を後にした。
太陽はすでに沈んでいる。なんとなくひんやりとした空気に包まれている感じがする。
「あんたっていつもそうね」
七味ちゃんは笑っている。
「できることはやるだけさ」
少し、カッコつけてそう言った。