表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノットギルティ  作者: 雨寄乃至
2/9

ある日2

 夕陽が俺たちを照らしている。

ゆっくりと景色が変わってゆく。


「大体さ、悠真(ゆうま)くんよ。あんたバイト落ち続けてる理由分かる?」

「き、緊張しすぎだからでしょうか?」


 七味ちゃんはにやけながら続けた。

「違う。そのオールバックよ。すげぇダサイ。そんでもってヘタレ」


 七味ちゃん的には好みの髪型ではないのだろうか。というか髪上げてるだけでオールバックというほどではない。それに金髪の七味ちゃんには文句言われたくない。


「これは俺のポリシーです。俺を構成する大切な一部です。あと俺はとても漢らしいです」

「おまけに頑固なところね。もっと柔軟に適応できないものなのかしら。ほんとに不器用なやつね」

 こいつにそんなこと言われたくない。


「そ、そこまで言わないでよぉ。そもそもちゃんと学生してるもん。ちゃんと単位とってるもん。学生の本分は勉学に励むことではないでしょうか?」

「そうね、その通りね。あんたは確かに普通に頑張ってる。きっとこれからも普通にそれなりの人生を歩んで普通に死んでいくんでしょうね」

 しかし口が悪い女だ。


「やめろ! 俺は俺にしかできないBIGなことを成し遂げるんだ! 唯一無二の男になるんだよ!」

「BIGってなによ」

「……分かりません」


 そう。分からない。俺はどうすればいいか分からない。自分がちっぽけなやつだってことは十分に分かっている。


「あっ!」

 もやもやと自己嫌悪に陥っているとき、七味ちゃんがぎょっとしていた。


 俺たちを避けた小学生が自転車で土手を猛スピードで下っている。驚いてパニックに陥っているようだ。この勢いだと下手すりゃ結構な怪我を免れない気がする。


「うおおぉ! 今行く! まずはブレーキかけろ!」

 俺は必死に走った。

 聞こえた!ブレーキはかけているようだ!俺のせいでケガはさせられない。

 追いついた!俺は小学生を抱き抱え、ぐるぐると転がった。

「大丈夫か!?」

 目が回る。


「うえぇ、お兄ちゃん、ありがとう、怖かったよぉ」

 ありがとうなんて言うな。俺がいなきゃお前はこんなことにならないで済んだのだから。

 幸い怪我はないようだ。


「はい、お守り。これで泣き虫とバイバイよ」

 七味ちゃんも優しいところがあるじゃないか。


 俺たちはこの子を家まで送り届けた。

「ありがとうございました! この子が大変ご迷惑をお掛けしました」

 だからさ、違うのに。


「いえ、とんでもないです。俺がぼんやりしてなければこんなことにはならなかったんですから」

 尋常ではない感謝の言葉の数々を受け、俺たちはあの子の家を後にした。


 太陽はすでに沈んでいる。なんとなくひんやりとした空気に包まれている感じがする。


「あんたっていつもそうね」

七味ちゃんは笑っている。

「できることはやるだけさ」

少し、カッコつけてそう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ