ある日1
「ねぇ、七味ちゃんはなんでタバコ吸うの?」
「生きてる感じがするからよ」
「もったいないなぁ、そういうことしてなきゃもっとモテると思うんだけどなぁ」
「うるさいわ、そんなことはどうでもいいのよ」
それは暑い、夏の土手で俺たちは持て余していた。もっとやることはあるはずなのに。蝉の鳴き声と熱気が俺の気力を削いでゆく。
が、しかしだ。俺は自分に負けるつもりはない。己の限界を超える精神力を発揮する。
「それじゃ、散歩でもする? 暇だし」
「嫌。暑い」
「なら、映画でも見に行きます? 涼しいよ!」
「嫌、2時間も座ってるのつまんない」
七味ちゃんは明後日の方向を見ながらやる気のない受け答えを続けていく。
「ちくしょう! お前はジジイか! どんだけ無気力なんだよ!」
「うるさい。だいたいあんた金無いじゃん。私にたかる気? わざわざあんたみたいな貧乏人に私が付き合ってあげてるのに」
「……やめてください」
泣きそうになった。確かに貧乏学生である。バイトでもしなきゃ遊ぶ金も確かにない。
だがしかしだ。俺は七味ちゃんを楽しませたい。この無気力女のやる気ってやつを引き出してやりたい。俺の純粋な優しさを踏みにじるこの女をギャフンと言わせたいのである。
椎名七味ちゃん。変な名前だよな。趣味はギャンブル、酒、タバコ。おおよそ青春煌く大学生とはかけ離れた、まるでおっさんのような素敵な嗜好をお持ちの方である。
それに加えてこの無気力な性格。なんで彼女はこんななのか?
俺は彼女を救いたい。だって見た目はとっても可愛いんだもん。
しばし無言の時間が過ぎていた。相変わらず七味ちゃんはぼーっと空を眺めている。3本目のタバコに火をつけ始めていた。
動かない。動けない。全身の血の気が引くような、妙にやるせない気持ちが溢れてくる。
太陽が、夜に向かい始めている。
「散歩、しよっか。少し涼しくなってきたし」
「うん! しよう! 散歩しよう!」
感情が込み上げてくる。必死の努力が報われた気がした。