思考7 空気の設定をしよう!〈Aチーム〉
【SFの部屋】
何もない空間。
カエル一匹と姿なきブレインズAチームがいる。
「思いついたんだけどさ、例えば昼と夜で大気中に充満する気体がガラッと変化しちゃうってのはどうだろう?」
「ほほぅ?」
「それで?」
“夜の間地面は生物たちにとって有害なものになる。だからその間生物は上空に逃げて飛び続けていなければならない。”
「って感じ」
「前回出てきた“飛行能力を獲得せざるをえない状況”からの着想だね」
「昼と夜で環境が変わるのは面白いね」
「ならばそれはなぜ引き起こされるのだろうか?」
「植物の仕業とか?」
「地球の多くの植物は昼間には光合成し、酸素を大気中に放出してる。一方奴らは常時呼吸も行っており、夜間は光合成をしないので二酸化炭素のみ放出し続ける」
「つまり昼間は酸素、夜間は二酸化炭素を多く出す……と」
「この現象を大袈裟にすれば昼夜の環境逆転できるかもしれないね」
「いいねいいね、面白そう!」
「そうすると問題点は……」
・なぜその惑星の植物はそんな現象を起こすのか?
――生物が起こす行動には必ず理由が存在する筈。
・“濃度が高い気体の中で飛行”という設定を生かせるか?
――重い気体は下に溜まる。一方動物は上空を飛んでいるが両立可能か。
・惑星全体が環境逆転する場合逆転に合わせて避難するような動物は生まれるのか?
――そこがはじめから逆転環境ならはじめから両環境のハイブリッド生物が生まれてしまい、避難の為に飛行能力を獲得する動物は生まれないのではないか。
・動物は夜間中飛行し続けられるのか?
――辛いんちゃう?
「……と、この辺りが思いつくね」
「確かに環境に順応した生物が全く生まれないのも不自然だな」
「あ! 昼と夜、それぞれの環境に適応した違う生物が活動してるってのはどう!?」
「あたしもひらめいた。日が沈むと寒くなるから植物は比重の重い【重気体】を放出して周囲を覆い熱を閉じ込めるってのは? 日が出て来ると再び【重気体】を吸収して周囲の環境と同じ【軽気体】が充満した状態になるの」
「そうなると【重気体】の中で活動出来る奴らを【重気性生物】として、逆に昼間の【軽気体】は【重気性生物】にとってはきっと有害に違いない」
「呼吸を最小限に抑えるために【重気性生物】は昼間仮死状態で眠りにつく。そこを狙って現れるのが比重の軽い【軽気体】の中で活動する【軽気性生物】たち!」
「【重気性生物】が寝ているのをいいことにそいつらをパクパク食べちゃう」
「みんな仮死で無抵抗だから【軽気性生物】にとってはよりどりみどりじゃないか!」
「なんか生態系っぽいものが出来てきたぞ」
「待った待った、【重気体】で満たされている間【軽気性生物】はそこから逃れるために飛び続けるんだろう? 夜間は飛んで昼間は餌を探してじゃあ寝る暇もないぞ」
「例えば昼の時間が地球の三日分……72時間あって、【軽気性生物】は餌を取ったり休んだりしながら渡り鳥よろしく大陸移動して常に昼間のエリアで活動してるとか……」
「いっそたっぷり半年おきに昼夜逆転とかでもいいかも」
「地球と同じ頻度で昼夜逆転して【重気性生物】が12時間おきに仮死状態になったり起きたりを繰り返してたらちょっとせわしないもんね」
「あとは……惑星全体じゃなくて、ごく一部の地域で起きてる現象なら話はもっと簡単じゃない?」
「例えばすり鉢型の地形内だとしたら【重気体】も溜まりやすそうだね」
「そういう手もあるんだよなぁ」
「惑星全体と一部地域とどっちがいいのかね」
「悩む」
「せっかくなら惑星全体を一律同じ環境に決めちゃうよりも、惑星の中に色々な環境を設定する方が面白いんじゃない?」
「確かに」
「評価する」
「完全に同意」
「それじゃあ今回は惑星の中のすり鉢型の地形に範囲をしぼって設定するってことでいいかね?」
「OK!」
「……と、なると今度は昼が来るのが半年に1度とかだと困るよな」
「うんうん、大陸移動しないとなると【軽気性生物】が餌にありつけなくなっちゃうね」
「48時間おきに昼夜逆転とか」
「昼夜の時間が平等でなくても、昼間が20時間で夜間が40時間とかでもいいし」
「そんなこと出来るの?」
「地球みたいに自転の軸が太陽とズレてれば出来る」
「そのかわり惑星内の半年後には夜間が20時間で昼間が40時間になるけどね」
「そうなんだ」
「軸が傾くってことは季節があるって事だからね。四季があるとは限らないけど」
「合わせて一日60時間……よっぽどゆっくり自転してるのか、惑星がやたら大きいのか」
「その辺もおいおい考えていこう」
「っていうか遠闇くんさっきからずっと黙っちゃってるけどどうしたのさ?」
遠闇『いや……なんだか真面目な話が始まっちゃって入っていけなかったケロ……』
『というわけで進行役という使命を思い出したのでここからは自分が進行するぜ!』
「むしろなぜ忘れるのか……」
「ふざけることに全力を注ぎ過ぎでは」
「この泥船に乗った感」
『ドーンと任せんしゃい!』
「遠闇くんが入ると何故か途端に雑談が多くなる不思議」
『とりあえずここまでをまとめると現在我々は自転の軸が傾いた惑星の北極寄りか南極寄り、夜が長い冬~春頃の、すり鉢型の地形内部の生態系を設定中で――…』
「あのぅ、いい加減『惑星』とか『すり鉢型の地形』とか言いづらくないです?」
「そうだね、なんでもいいからなんか名前付けちゃおっか」
『じゃあ候補ある人は元気よく挙手!』
「肉体ないけど【エースエーフ星】!」
「肉体ないけど【スリバチ盆地】!」
『はい決定!』
「それでいいんだ!?」
「シンキングタイム0秒だよ!」
「適当だなぁ」
『ほらどうせ我々がつけるのはすべて便宜上の名称だし?』
「考えるのが面倒なだけじゃろがい」
「ブレインズにネーミングセンスがない事は思考2で証明済みだからね仕方ないね」
『じゃあ改めて。エースエーフ星冬~春頃の、スリバチ盆地内部の生態系ね』
・温室効果ガス的なものを出す謎植物のお陰で凍える夜も快適温度な死のガス地帯。
・そんなガス地帯の中でも逞しく生きる一部の生物たちがいる。ガスがない昼間は寝てる。
・そんでもってガスが消えたところでこれ幸いと現れてスリバチ盆地の生物たちをもぐもぐしに来る外の生物たちもいる。
『これまでの情報をまとめるとこんなところだよ』
「ちゃんとまともなまとめだった」
「いつまた突拍子のないこと言い始めるかと身構えてしまった」
「遠闇ちゃんはやればできる子カエルの子」
『ケロケ~ロ』
「場所は北極寄りの方がいいなぁ、北半球の方が馴染みがあるし」
「それに南極より北極の方が寒そうだし……いや、気分的にね?」
「わかるわ~」
「ところでこの謎植物は【重気体】を自ら出して自ら吸収してるってことでいいの?」
「一部は生成して、一部は吸収して次に有効活用?」
「結構都合がいいシステムだな」
「大量の気体をすぐに吸いとれるもんかい?」
「海綿みたいなスポンジ上の気管があるとか……」
「浸透圧とか毛細管現象的なものでうまいことできないかな」
「管……パイプ……なんか、蓮っぽい植物が思い浮かんだぞ」
「そいや蓮根の穴って空気を植物全体に行き渡らせるためにあるんだよね」
「せっかく思いついたついでに蓮っぽい形状で設定出来ないかね?」
「蓮なら【重気体】を水面に見立てて巨大で平らな葉っぱ的なものが飛び出しているイメージ」
「【重気体】より外に葉が出てるということは、蓮っぽい植物はもしや【軽気体】を吸い込んで植物全体に行き渡らせている?」
「つまり【重気体】はエネルギーにはならず、暖房としてしか使っていない……」
「つまり蓮っぽい植物は【軽気性生物】!!」
「なら養分はどこで得ている?」
「別の共生する植物が朝になると蓮っぽい植物が出した【重気体】を吸い込み、代わりに養分を根に落とす!」
「植物ってそんなすぐに気体吸い込めるものか?」
「他に何かあるかな」
「空気清浄……水質改善……貝……炭……キノコ……」
「キノコいいよ!」
「うん、キノコ! 菌類!」
「空気清浄しそう!」
「蓮っぽい植物の下にはキノコが密集して共生してる!」
「そこにはキノコやバクテリアを食べる夜行生物、それを更に食べる肉食生物……」
「昼間にはスリバチ盆地の生物を狙って翼を持つ生物もやって来る……」
「生物がいれば死骸が出る、それもまた蓮っぽい植物ひいてはスリバチ盆地へと還元し養分となる……」
「おおー!」
「生態系の完成だー!」
「きれいに繋がったぞー!」
「「イーエ~~~イ!!」」
「ハイタッチ出来ないのがもどかしい!」
「肉体ないからな!」
「あはははは!」
『ハイハイりょーかい毒素を持った気体に菌類の密集地帯ね、ふむふむ……』
『……これって腐海の森では?』
つづく