思考34 本格始動!コノキナンノキ?〈Bチーム〉
【幻想の部屋】
小部屋へと続くドアがみっつと音響セットがある。
カピバラ一匹と姿なきブレインズBチームがいる。
宵闇|《ドラゴンを飛ばすために生息地用の浮遊島をつくるよ》
「いやつくれるかぁ!!!」
「なんだその『そうだ、タイムマシン作るためにちょっと未来に行って見てこよう』みたいな頭がハッピーな案は!?」
《精霊の力を使えばつくれるかもしれないよ。それに巨大な島が浮かぶ機構がつくれるならドラゴンの飛行にも役立てられるんじゃないかな》
「そういや私達には精霊の力があるのだった!」
「た、確かにもしかしたらつくれるかもしれない……のか……?」
「Bチーム精霊の存在忘れがち問題」
「とりあえず、でっかいものを浮かばせる時に役に立ちそうな精霊を探してみるか」
「とりあえず風精霊は使えそうだよな」
「雷精霊は……電気だしなんやかんやややこしい工程を踏めば使えるかもしれん。現段階では全く思いつかないが」
「あとは磁精霊の磁力の力で浮かせるとか、火精霊の火力で浮かせるとかかなぁ?」
「下からジェット噴射すんの?」
「地上阿鼻叫喚だな」
「他には何がいたっけぇ?」
「水、地、光、重」
「光精霊はまったく使い道がわからん、パスだパス」
「重精霊は? 確か自身の質量を変える力を持っていたよね?」
「質量の変化……浮遊島……浮遊……」
「それって、質量を軽くして浮力を生み出すことはできないか?」
「浮力ってなんだっけ?」
《浮力っていうのは“周囲の密度よりも軽い物体に上向きに作用する力”のことだよ。水に浮かぶ流木とか、空中に浮かぶ気球とかだね》
「揚力の次は浮力と来たか」
「これはふぁんたじーせかいのはなしあいでおまちがえありません」
「確認定期」
「確認は大事」
「前も見たぞこのやりとり」
「重の精霊ボルボックスの能力は増量と減量だったな」
「体細胞の中で子ボルボックスさんが増えまくって重くなる!」
「減量時は逆に中身が消えるんだな?」
「ではこの時密閉した空間に活性化した重精霊を満たして減量を行った場合、空間内はどのような状態になるでしょうか? 理由も含め30字以内で答えなさい」
《“空気が入らない場所で質量が減ったことから空間内の密度が下がる”》
「理科の問題みたいになってる」
「ちゃんと30字で答えてるの偉いな」
「ちなみに密閉されてない屋外で極限まで減量すると軽くてそのまま空の彼方にすっとんでいくぞ!」
「キラリーン☆」
「重精霊くぅ―――んっ!?」
「重精霊が数が少ないレアものってまさかそれか!? それの所為なんか!?」
「とにかくだ。重精霊は水素やヘリウムといった軽い気体と同じようなふるまいができると考えていいわけだな?」
「それなら飛行船よろしくでっかいもんも浮かばせられそうではある」
「重精霊に意外な使い道があったんだな?」
「初めに考えた時は思いもしなかったねぇ?」
「ところで、精霊が活性化するためには特定の音波が必要な訳だが」
「常に浮かび続けるためには常時音が鳴り続ける必要があるのね?」
「えぇーどうすればいいだろう? 浮遊島の下部の岩肌がこう、複雑な模様の凹凸になっていて風の作用で音が鳴るとか?」
「地形そのものが楽器みたいになって聖域化してるのか」
「でも岩でしょう? いつまでも同じ形を保ってくれるかな?」
「風化したり、崩落したり……うーん、確かに少し頼りないかもしれない……」
「万一崩れちゃったら浮かぶ力もなくなって墜落しちゃうものね?」
「それはダメだよ、大惨事だ!」
「そもそも数百年単位で浮かんでてくれないとその上に生態系築くなんて夢のまた夢だぞ」
「ああーっ、ここまでは良い流れだったのに……!」
「何か手はないのか!? 空飛ぶ休息地案を捨てるのはもったいないぞ!」
「んーとんーと岩肌がダメならあとは……」
「……植物?」
「おおっ?」
「生きてるから損傷してもまた生えてくるし、岩より軽いし!」
「空飛ぶでっかい島ならぬ、空飛ぶでっかい樹かぁ、悪くないね!」
「外のブレインズも“ 巨大生物はファンタジーの醍醐味”って言ってたことだしね!」
「外のブレインズも植物想定はしていないんじゃないか?」
「外のブレインズからも“常に極小の超音波を出し続けて精霊を活性化し続けることで生きてる生物とかどう?”って案が来てるしな!」
「生命維持とは直結してないかもだけど常に精霊を活性化し続ける生態ではある」
「樹が浮かぶとして、なんだ? あのいかにもな樹のフォルムが浮かんでるのは違和感ないか? 重心バランス的に」
「じゃあひっくり返して根っこを上にする? 安定はするでしょ」
「いや待て待て! 光合成するくせに葉っぱが下側に付いてる意味が分からん! そもそも地べたに生えてるわけでもないのに根っこが必要なのか?」
「じゃあ根っこはいらない?」
「どこかにそんな植物無かったっけ。根っこがなくて地面をコロコロ移動する枝の塊みたいな……」
「西部劇によく出てくるやつ?」
「タンブルウィード!」
「あれはでも枯れた奴が転がってるんだしなぁ」
「あっ、ヤドリギみたいにまぁるい見た目にするのはどうだ? 上下がないから悩む必要がないぞ!」
「丸なら中心に核のような物があって、そこに重精霊が溜められているってのはどうだい?」
「おー、おもしろいかも」
「いかにも浮かびそう」
「意外な植物が来たね」
「重精霊の力で浮かぶ丸くてでっかい浮遊植物、アタシもいいと思う! どうかな宵闇ちゃん?」
《面白いね。でもその案で行くなら一つ解決させなくちゃならないことがあるかな》
「なんだい?」
《その植物がどうやって生きているか、だね》
「あーそっか! 生きてる植物ならそこを考えないとなんだ!」
「じゃ~浮遊植物くんについて思考してみよ~!」
「お~っ!」
「ドラゴンを考えるはずが生息地を考えて、生息地が生息する方法を考えて……」
「そして本日も豪快に本題から逸れていく話し合い」
「ブレインズ本調子出てきたなって感じだな」
《そんな訳で次の議題はこれだよ》
・議題:“浮遊植物の生態について”
「そもそも植物って根っこがなくて生きていけるの? 養分とか吸い上げてるんじゃないの?」
「根っこって何の役に立ってるんだっけ?」
《今別チャンネルでしらず君に聞いてみたけど、役割は主に“地面に固定する”“水を吸収する”“窒素などの養分を吸収する”の三つじゃないかって》
「とりあえず固定の必要は無いから、それはクリアしてるな」
「水の吸収……根っこじゃなくて植物の表面からいけないかな」
「確かにそんな植物もいるよな」
「なんかこう……表面が効率よく露を集めやすい構造だったり」
「全身の朝露が口元に流れてくるような体表のトカゲもいるしな」
「気になる人は“水分を集めるトカゲ”で調べてみよう!」
「上空にも雲や結露はあるし水の確保に関しては大丈夫だろう!」
「問題は養分だね?」
「植物三大必須養分はリン酸、カリウム、窒素!」
「地面に生えてる植物すら度々リン酸やら窒素やら不足して育成不良起こしたりするらしい。有名な例でいくと作物の連作障害とかだな」
「同じ場所で同じ作物を育て続けると育成不良や病気になりやすいっていうアレか」
「へ~」
「どうしてそんなことになるんだろ?」
「確かねぇ、作物によって吸収する養分の配分とかが違うんだけど、おんなじ作物を植え続けると土壌の養分の過不足が偏っちゃうんだってさ」
「なるほど、自生してる植物たちも基本的にはその場から動けない……」
「自分や周囲の植物が競って養分を奪い合えば自然その土地の必須養分は不足しがちになる、と……」
「じゃあ動けない植物たちはその問題をどうやって解決してるの?」
《それらの成分も空気中には存在しているんだ。でも植物には空気中から成分を吸収することはできなくて、雨に溶けて土壌に染み込んではじめて吸収できるようになるみたい》
「あー雨が土壌の不足した養分を回復させてるのかー」
《後は根粒菌とか、空気中からもそういった成分を吸収してくれる生き物との共生かな》
「うんうん、そういう奴らが浮遊植物とも共生している可能性はあるな!」
「そうだ! 空気中の欲しい養分が雨に溶けてるってことなら、浮遊植物の中に雨を溜めておく場所があるのはどうだろう?」
「さっき言ってた“表面が効率よく露を集めやすい構造”ってのを使えば……できそうだな!」
「丸っこい構造なら一番内側の底にちょっとした池みたいに溜めておくのは?」
「いいねいいね! ただの水だと蒸発しやすいし、ほんのり樹液が混ざってたらいいとおもう!」
「水と養分、いっぺんに解決できるな!」
「やったー!」
《ここまでに出てきたことをまとめてみたよ》
・枝の形によって発生する周波成分によって重精霊・風精霊を活性化させ浮遊している
・重精霊は中心でつくられる核に集まっている
・植物表面に付着した水分は枝を流れて中心部に樹液と共に溜められる
「よぉし、これでドラゴンが100匹乗っても大丈夫な浮遊植物ができたぞー!」
「名前はどうする?」
「木が浮いてるから【浮木】?」
「大きさのスケールに対して名前がちょっと短くない?」
「じゃあよくクスノキとかカシノキとかいうし、【ウキノキ】にしよーぜ」
「木の字が重複しとる!」
「カタカナなら気にならん気にならん」
「ゆる~い」
《それじゃあこの植物の名前は【浮遊樹ウキノキ】に決定だね》
「更に樹が増えた!」
「くどいくらい樹木を大主張している……!」
「ま、我々が付けるのはすべて便宜上の名前だしいいんじゃないか」
「ゆるゆる~」
《次回からいよいよここに棲むドラゴンの設定を進めていこうか》
「おっしゃーがんばるぞー!」
「おーっ!」
「あれ……精霊の力で浮かべるならそもそも離陸問題で頑張って上空に棲家を用意する必要もなかったのでは……」
「しーっ」
つづく




