思考32 ついにドラコン誕生だ!…あれ?〈Aチーム〉
【SFの部屋】
夜のスリバチ盆地。
ハスッポイモンの浮き葉の上に哀愁を背負ったカエル一匹とカピバラ一匹とクマ一匹と、姿なきブレインズがいる。
「ん……え……?」
「え、なんだって? 遠闇ちゃん……?」
遠闇『いや、だからさ、この流れって、もしかしてそのままドラゴン出来ちゃうのでは……』
「んあれぇー?」
「あっはっはー?」
しらず〔……君らな……ドラゴンまでまだもう少しかかると中間報告で言ってなかったか……? もう少しこう、演出とかなんとかならなかったのか、仮にもドラゴン誕生は我々ブレインズの第一目標なんだぞ?〕
宵闇|《なんだろうねこのなんとも言えないビミョ~~~な空気?》
「いや、まさかオレ達もこんな形で着地するとは思わなくてだな……」
「もっと時間かかるだろうって思ってたしぃ……?」
「完っ全に喜ぶタイミングを失しちゃったよな……」
「だってだって、ヤツアシテンモクもぐもぐするのに適した動物の姿がまさかドラゴンだとは思わないじゃん……?」
「ま、まさか悪ふざけしてたノリで誕生しちゃうなんて……」
「まったくこれだからブレインズってやつぁ」
〔まぁこのままここで狼狽えていても仕方ない。私と宵闇は茶でもしばいて大人しく眺めてるからAチームで設定づくりを進めてくれ〕
《がんばってね》
『くぅぅっ!? このビミョ~~~な空気のまま自分が進行するのかっ! いやまぁやったるけどさ!』
「そ、そうだそうだ! ここまで見た目が決まってるなら後の設定も難しいことはないだろう、サクッとやってしまおうサクッと!」
「Aチーム切り替えてこー!」
「「「「「おー?」」」」」
「心なしか元気がない!!」
『えーとまず見た目だけど、四つ脚で翼を持つ生物って事でいいの?』
「地上を走るならやはり四つ脚がよいのでは?」
「おそらくかつて六本あった脚の一対が翼に進化したのだろう」
「うんうん、この星の生物は環境に適応して脚が四本以上ある奴もいるからな!」
「いや、待ってくれ。大地を走れるような太い脚が四本もあっては、重量がかなりかさむんじゃないか?」
「くっ……ちょっと目を逸らそうとしていた点を突いてきたな……!」
「目を逸らしてはいけないぞ、何故なら重量問題こそがドラゴンをつくる上での最大の障害なのだから!」
「現世界の鳥さんがどんな思いでハードな減量してると思ってるんだ!」
「そうだそうだ!」
「説明しよう!
鳥は空を飛ぶために極限まで体重を絞り込む工夫を凝らしており、骨の軽量化から始まり、歯を捨てより軽い嘴を獲得し、胸だけマッチョにして他の筋肉をそぎ落とし、毛皮よりも軽い羽根を生やし、食べた物は体内に溜めずとっとと排泄する、なんか色々なものを捧げた末に高度な飛行能力を獲得し地球上の空を制した超生物なのである!」
「……時に諸君、“立つ鳥跡を濁さず”って諺があるじゃろ?」
【立つ鳥跡を濁さず】
立ち去る者は、見苦しくないようきれいに始末をしていくべきという戒め。また、引き際は美しくあるべきだということ。
「何言っとんじゃ鳥さんは身体を軽くするために飛び立つ直前にフン落としてったりするんじゃぞ!」
「嫌味か? 『あんさんはほんまにいつも最後の始末が綺麗ですなぁ』とかいう嫌味の類かぁ!?」
「表面的なことばっかり評価して……鳥さんの陰の努力なんか……! 何も知らないくせに……!」
「もうこのことわざの意味を”表層の美しさだけを見て内情に目を向けない愚か者”とかにすべきでは?」
「待てっ、落ち着くんだっ、鳥のフン過激派なブレインズ!」
「鳥のフン過激派なブレインズとは一体……」
《重い鳥といえば、巨大な飛行鳥で有名なコンドルは上昇気流に乗って飛ぶことで羽ばたきを最小限に抑えてるらしいよ。自力だけじゃ重くて飛べないんだって》
〔そもそも虫とは違い鳥が羽ばたくのはその力で身体を上に押し上げるためではないらしい。羽ばたくことで羽に揚力を発生させることが目的なんだそうだ。飛行機の助走と同じく、翼に風を受けることが肝心なんだな〕
「ボクたちが脱線している間にお茶の間の有識者から貴重な御意見が流れてきたぞ」
「なんかこっちへの意見っていうよりまったりティータイム中の雑談って感じだったけど」
「この二人が揃ってる時の安心感はなんだろう」
『ケロケロッ。オイラたちいっつも進化の部屋でこんな話ばっかりしてるからね』
「いつもカエルが別チャンネルでお世話になってます」
「上昇気流か……。いくらこの星では風の助けがあると言っても、盆地内部ではその手は使えないかな?」
「盆地の気候は外よりもあったか。場所によってはきっと上昇気流や山からの山颪が吹く場合もあるけど、基本的には重気体が流れず留まっているような地形だ。空気は停滞気味だと思われる」
「体重が重いとそれだけ翼のサイズも大きくしなくちゃならないんだよねぇ」
「ちなみに体重60kgを支えるのに必要な翼長はおよそ17mとのことだ。両翼を広げたら34mにも及ぶな」
「翼が大きいとそれを支える筋肉量も多くなって更に重くなる。もはやろくに羽ばたく事も難しいだろう」
『そんじゃあさ、一旦四つ脚から離れてみるかい?』
「え、そんなこと出来るの?」
「ふむ。そもそも地表を速く走りたいから、という話だったな?」
『うん、固定概念捨てて考え直してみると、絶対に四つ脚じゃなくちゃならないってことはない気もする』
「人だって二本足で速いし、ダチョウさんやオオミチバシリさんの例もある」
「二本足ならだいぶ軽量化されるよな!?」
「それならば減らしたついでにもう一対翼を増やしてみるのはどうかね? それならば現世界の鳥とも見た目の差別化が図れよう」
「翼が二対あるってことか。それなら飛行能力二倍とまではいかなくても、一対ごとの翼長を無理のない範囲に抑えられそうだな」
「いいかもしんない」
「夜間となると重気体の中に突っ込むことになるよな?」
「海のほ乳生物のように息を止めて活動しているんじゃない?」
「ついでに軽気体を肺に溜めて浮力の利用はできんかね?」
「胸膨らませて重気体に突っ込む訳か」
「それは悪くない考えだね。どれくらい効果があるかは判らないけど、身体膨らませるのは見た目が面白い」
「ついに!!!」
「モフモフ生物が出来た!!!」
「やったぁ!!!」
「モフモフモフモフ!!!」
「名前はどうするんだ?」
「そりゃあ【マサカノドラゴン】で」
「でもなんだかんだ見た目はドラゴンとは掛け離れちゃったよな?」
「さすがに四翼モフモフ二本脚のこの生物は我々もドラゴンとは言えないかなぁ?」
「じゃあ名前は【マサカノドラコン】にしよう」
「よし採用!」
「いやー危うくドラゴン誕生しちゃうところだったよー」
「別に誕生したって全然いいんだけどさ?」
「むしろ誕生させたがってるんだけどさ?」
「出生から名前までなんか不憫な子だなマサカノドラコン君」
「見た目と名前が決まったとなると、次に考えるのは詳しい生態か」
「それをいうなら生息地が先じゃないの? 盆地の外にどんな世界が広がっているんだか全く未知数じゃないか」
「それじゃあ次は盆地周辺の環境整備をしていこうかね?」
「それでいいか遠闇?」
『オッケー。ほいだら……』
“スリバチ盆地外部の環境”
『――について相談開始だぞい!』
「マサカノドラコンや周辺の軽気性生物はわざわざ危険を犯して重気体に突っ込む。ということは、外で捕獲できるような獲物が少ないということだろう」
「そうなると周囲は多くの生物にとっても暮らしづらい……樹木がほとんどない荒野かな?」
「樹木が少ない土地となると他に砂漠、サバンナ、高原、高山などがあるぞい」
「意外とあるんだね?」
「高原てそこそこ草が生えてるイメージだけど、樹木は少ないんだ?」
「森林限界というのがあってな。高地に生える樹木は寒さや風に強い数少ない種類に限られる上、それ以上の標高ではそれらも生きていられないんだ。結果、牧草地のような背の低い草や低木ばかりが生えるような環境が出来あがる」
「風も厳しい環境に入るんだ?」
「背が高いと樹木が倒されたり、水分が蒸散しすぎてなんやかんやツライらしい」
「なんやかんやな、なんやかんや」
「気になる人は“風衝地”で検索してみてちょ!」
「寒さや風か……そういえば、この辺りって確かめっちゃ寒いんだったっけ」
『冬は厳しい寒さ、夏は過酷な熱さ、だね』
「なら標高の高い高山地域のような環境で考えてみてはどうだろうか?」
「実際盆地周辺は山に囲まれてるし、いけるんじゃない?」
「今回は意外と早く決まったね」
「良かった良かった」
『よーしそれじゃあAチーム! 早速盆地の外まで見に行くぞー!』
「「「「「オー!」」」」」
つづく
「あいつ、オレを見た目だけで評価しないなんて……フッ、おもしれー奴 by小鳥」
「キュン…ッ by鳥のフン過激派なブレインズ」
「ラヴストーリーが……!」
「今はじまる……!」




