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思考31 ゴールは唐突に現れる?〈Aチーム〉


【SFの部屋】


 夜空に浮かぶ青白い星は童月。

 その奥でうっすらと橙色の地表を見せるのは母月。

 二つの月に照らされ夜の静寂しじまに山の稜線が浮かび上がる。


 あの山の向こうにあるのは外の世界。この猛る風の星にあってその地形から風の影響を最小限に留める穏やかなる(・・・・・)死の盆地(・・・・)の――外の世界である。






遠闇『いや~ハスッポイモンの上でのんびりお月見もいいもんだなぁ~』

「やっぱりいつ見てもいいもんだね、エースエーフ星から眺める母星。別世界! って感じがするよ」

「月見団子とお茶が欲しくなるねぇ」

『電気ポットならあるよ』

「前回足場に使ってた電気ポットをしれっと出してくるなし!?」

「なんか開幕ほっこりしてるけど、遠闇くんは自分が進行役であることを思い出して?」

『まぁまぁ、せっかくだからのんびり月でも眺めながらここまでを振り返ろうじゃないか。間に中間報告とBパートが入ってるからおおまかなこと忘れちゃったでしょ』

「ちゃぶ台と湯呑みセットまで出てきた!」

「本格的に居座る気だぞ、こいつ!?」




『中間報告でも言ったとおり、Aチームはこれまで主に盆地内部の設定を重点的に固めてきたね』

「生態系づくりが楽しくてノリにノっちゃったよね」

「盆地内部はハスッポイモンが放出する死のガス地帯」

「比重が重く下に溜まるので、重気性生物も安心して活動できるぞ」

「朝になると盆地の菌類たちがガスを吸い込んで薄くなっちゃうので、重気性生物のほとんどは夜が来るまで仮死状態で眠っているか、ガスが残っている地下にもぐってやり過ごすよ」

『一方でこの星には軽気性生物って奴らもいるんだよね』

「軽気性生物は盆地の外に生息する生物たちだ。昼間に盆地に降り立って盆地内部の生物をもぐもぐする」

「この軽気性生物について考えていくのが次の目標じゃあないだろうか」

「捕食者の姿が明確でないと、それに適応した盆地内部の生物も考えていきづらいからね」

「そこで我々Aチームはこの星に生息する動物の脚の数を考えた!」

「急に飛躍したよな」

「足の数を考える為にこの星の物理法則について考えた!」

「もう好きに設定しろよって声が聞こえてきそうだったね」

「物理法則を考える為にエースエーフ星という天体が実は母星の周辺を回ってる衛星だったことが判明した!」

「もう何が何やらって感じだわさ」

『とまあ、ここまでが前回までのあらすじかな』



『そんな訳でこれから盆地の外、主に軽気性生物について設定していきたいんだけど、意見がある人ー?』


「モフモフ!!!!!」


「モサモサ!!!!!」


「フワフワ!!!!!」


「そういや君らがいたな」

「前回は盆地内部の生物をモフモフにしたがってなかったっけ?」

「……毛皮ぁ……毛皮があるならなんだっていい……」

「……はやく……はやくモフらせろぉぉ……」

「毛皮すわせろぉ……」

「もふ……ふわ……」

「おあずけ食らいまくったおかげで毛皮フェチなブレインズに禁断症状ではじめてるぞ」



「見せてあげよう、追いつめられた毛皮フェチの本気という奴を!」

「今度こそどんな障害も乗り越えて至高の毛皮を手にしてみせる!」

「まずは軽気性生物の生態について考察といこうか者共!」

「「「「「オー!」」」」」

『オイラの仕事取られた』

「まぁまぁ、のんびりおせんべでも齧ってなよ」

「まずこの軽気性生物の獲物とはなんだ? それはもちろん盆地内部の虫や小動物である」

「主な獲物はどれにしようか? 比較的大きめなヤツアシテンモクあたりはどうだろう」

「おお、いよいよ大きめの獲物をもぐもぐする動物の登場か!」

「くっ、ウチのかわいい一つ目ちゃんをもぐもぐするなんて……!」

「ヤツアシテンモク君も抵抗できないカサセオイ君の殻に穴開けて中身吸っちゃうだろ」

「生態系づくりでもぐもぐ描写は避けて通れぬ道だからなぁ」



「ところでヤツアシテンモクってどんな食感なんだろう?」

「ヤツアシテンモク君てカニなの? 虫なの?」

「ヤツアシテンモクはヤツアシテンモクだよ」

「なんなら遠闇にでかくなってもらって食レポしてもらうか?」

「でもカエルだと基本丸呑みだからなぁ」

「ふむ。ならここは肉食獣の出番だな」

『あ、せっかくだから宵闇くんも呼んでね』

「そんなわけで……しらず、宵闇、カモーンッ!」



 ぼわわわんっ



しらず〔あいよ〕

宵闇|《なんだい?》


「SFの部屋にいらっしゃーい」

斯々然々(かくかくしかじか)でしらずにここのヤツアシテンモクをもぐもぐしてみてほしいんだ!」

『下の盆地にいるからさ、捕獲からよろしく』

〔了解、捕獲してしまっていいんだな。行ってくる〕

『宵闇君はオイラの横にスタンバイね。はいお茶』

《隣に座るんだね。わかったよ》

「なんだなんだ」

「オイ、なんかちゃぶ台の前にレトロなテレビが出て来たぞ」

「ハスッポイモンの淵までのし歩いてくクマが映っておる」

「こ、これはもしや……」




『さぁ~始まりました地球生物の中でも強者と名高いクロクマによる地球外生命体ハンティング! 実況は私両生類代表アマガエルの遠闇と!』

《解説は草食動物代表カピバラの宵闇でお送りします》


「実況中継だ!? なんか実況中継が始まった!?」

「わーい実況だ応援だー!」

「おいちょっとこれ白の部屋にも流せ流せ、Bチームの奴らも絶対見たがるから」


『おーっとここでクマが浮き葉の足場から颯爽とダーイブ! いよいよクマとヤツアシテンモクの戦いの火蓋が切って落とされます!』

《まずは空中から眼下を確認するようですね。実際の飛行生物もこうして目視しようとするでしょうが、夜間はうっすらとした光しかないので視覚による捕捉は難しそうです》


「た、確かに夜行性なら視覚以外の感知能力が欲しいかも!」

「てゆーか宵闇君順応力めっちゃ高くない? 突然始まった上に初めて来る世界だよねここ?」


『一方目が上方についていて索敵能力に特化したヤツアシテンモクの目玉はこの突然の強襲も正確に捉えているようだ! 地表に居る複数のテンモクたちがクマの存在に気が付いた! ここでテンモクたちが取る行動は……!?』

《おや、意外にも止まりましたね。敵が正体不明な以上動きを止めて気付かれずにやり過ごせるならそれに越したことはないというところでしょうか》

『そうこうしているうちにキノコの庭にクマが胞子を巻き上げ華麗に四足着地!』

《着地の衝撃は例の通りアバターだから問題ないものとします》



《動きを止めて捕食者の目を欺くのは地球の被食者界隈でも広く使われている戦法です》

『しかし残念ながら今回の相手は並の動物よりちょっと優秀な脳みそ(ブレイン)が入った特別仕様の捕食者です、不動の戦術に騙されることなくテンモクに襲い掛かかったー!』


「「「「「あぶなーい!!!!」」」」」


『避けたぁーっ! 付近のテンモクが蜘蛛の子を散らすように……いやさテンモクの子を散らすように一斉に逃げ出した! クマは一匹に狙いを絞ってなおも追いかけます!』

《ヤツアシテンモク、逃げ足も中々素早いですね》

『さすが8本脚は伊達じゃない! ジグザグに逃げて敵を翻弄しています!』

《走りが苦手な動物相手なら初撃を躱せば今ので逃げ切れる可能性は高いでしょう》


「ふんふん」

「ほうほう」


《ですが相手がクロクマとなると少々分が悪いですね。クロクマも足場の悪い森林に生息する陸上特化の動物です。通常は木の実、昆虫、魚などを主食として積極的な狩りはあまりしないとされていますが、人は普通に襲われるので十分にご注意ください》

『ご注意ください』

《人の100倍とも言われる嗅覚でどこまでも追いかけてきます》


「クマこわい」

「そうか、初撃で仕留めるなら猛禽タイプの脚でもいいが、そうじゃないなら追いかけるための強靭な脚が必要になるんだな……」

「ひょっとしたら軽気性生物もクマみたいな四つ脚かもしれんな……」


『ここで渾身のクマパンチ! ヤツアシテンモクを地面に縫い止めます! これは勝負あったか!?』

《オスの成獣で全長2m、体重400kgあると言われますから、体重をかけられてはひとたまりもありませんね》


「クマこわい」

「こわい」




『身動きの取れないテンモクにクマが噛みつきフィニッシュ……おや? なにやらまごついている様子。これはどうしたのでしょうか? 現場のブレインズさーん?』

「ハーイこちら現場のブレインズでーす」

「ちょっとしらずちゃんに様子を聞いてみたいと思いまーす」

〔なんなんだ君らのそのノリは……別に構わんが。このヤツアシテンモク、全方位から足が伸びていて胴体を口でくわえるのが難しいんだ〕

「あーなるほど」

「うまく胴体をくわえるには、ちょっと面長な方が都合がいいのか」

「今回は脚から齧っていくしかないかな?」

「ヤツアシテンモクの血液は無色透明で初心者向けだから安心してもぐもぐしてね」

「初心者向けとは一体……」



〔ふぅむ。表面がカニのようなゴツゴツのトゲトゲだな。ああ、でも噛み砕いたら硬めの煎餅くらいの強度かもしれん〕

「ゴツゴツでほどほどに硬い、と」

「これは捕食者側にもクマに負けないしっかりしたアゴを用意した方がよさそうだね!」

「お味の方は?」

〔……わさび醤油かな〕

「味付けの話じゃなくて」



『はー楽しかった。協力ありがとね宵闇君』

《僕も楽しかったよ。まさかこのタイミングでこっちの部屋に名前持ちが勢揃いするとは思わなかったけど》

〔まったくだ。ラストに満を持して両部屋御開帳するのかと思えば、またあっさりと呼びつけてくれたな〕

『てへ? ノリかな?』

《ノリならしょうがないね》

〔まぁノリならしょうがない〕

「しかしなんだ、唐突に始まった実況中継だが、得るものは大きかったな」

「うんうん、軽気性生物を考えるにあたって課題が色々見えて来たわね?」



「まず昼夜行性どちらにするかだけど、ヤツアシテンモクの習性上やはり捕食者は夜行性なんじゃないかと思うんだ」

「さっきの熱いハンティングの攻防を見ちゃうと夜行性でいきたくなっちゃうわよねぇ」

「上空からの奇襲ってなると翼が必要不可欠だね!」

「それに目以外に……耳もいいってのはどうだろう?」

「あとは陸上を走るがっしりした四つ脚が欲しいところだね」

「顔は面長で獲物を噛み砕く強靭な顎を持っていないとな」

「肉食獣の牙もだよ!」

「よーし、これを元に新しい軽気性生物を考えていくぞー!」

「おー!」

『……あのさ、ブレインズ?』

「どうした遠闇」



『その身体的特徴を持った生物って……所謂ドラゴンなのでは?』




つづく



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