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思考30 魔力の蓄積について設定しよう!〈Bチーム〉


【幻想の部屋】


 風穴の小部屋、岩立の小部屋へと続くドアと音響セットがある。

 カピバラ一匹と姿なきブレインズBチームと山のように巨大なリクガメラがいる。




宵闇|《この世界で“魔力の蓄積”が可能かどうか。これが今後この世界で生き物や文明をつくっていく上で大きな分岐点となるんじゃないかと思うんだ》


「しかし、精霊は音による活性化で初めて物質と干渉する!」

「そうさ、前回の火炎実験の時それで油断してたらスピーカー溶かしちゃったんじゃないか!」

「それを、活性前の精霊を集めようだって?」

「そんなもん、どうすりゃいいんだ!」

「築き上げてきたコンセプトが今、大きな壁となって我々の前に立ちはだかる……!」




 ――GOAAAAAANNNN……!!




「……よし、効果音も演出したしリクガメラ君にはお引き取り願おうか」

「ありがとうリクガメラ君!」

「バイバーイ!」

「現地生物を気軽に効果音として活用するのはどうなんだ……?」

「まぁまぁ細かいことは気にしない気にしない」

《それでこれが以前決めた精霊の主な特徴だよ》



・世界中に散らばる目に見えない程小さな存在。普段は各自適度に増えたり減ったりしているが、共鳴を起こすことで活性化し特殊な働きをみせる。[魔力とも呼ばれる]

・特定の超音波を浴び共鳴・活性化した時のみ物質と干渉し合う。[魔法とも呼ばれる]

・それぞれ好みの環境では分裂サイクルが早まる。



「うーん、やっぱり"活性化した時のみ物質と干渉し合う"としっかりと書いてあるな」

「仮に魔法道具がない世界だとどうなっちゃうの?」

「音を出し続けていないと魔法の維持が出来ない。つまり……」

《明かりが欲しい時に、魔法で点灯中ずっと「ラァ~~~~~~」って声出してないといけなくなるね》

「愚直か!!」

「ポンコツか!!」

「発声練習か!!」

「燃料使え燃料!!」

「北京原人ですら焚き火を覚えたとゆーのにこの世界の人類ときたら!!」



《まぁさすがに現実的な話をするなら、精々“燃料ランプに点火する時に火魔法をちょっと使う”とかになるんじゃないかな》

「魔法の扱いがマッチレベル」

「それはそれで適度に科学技術も同時発展していく世界が作れそうだけどね」

「科学と魔法の融合か! ロマンだな!」

「とはいえ、魔法道具が一切存在しないというのも使い勝手の面で追々困ってきそうね?」

「ハッ!? そうなると“体内に魔力を保有する生物”もいないことになる!?」

「確かに、非活性の精霊を物質に留めておけないとなるとそれも難しいな……」

「それは困る!!」

「私たち、磁精霊の力を使う生き物を考えていたんだ!」

「そのためには身体の外皮・外郭に精霊が宿っていてくれないとダメなんだ!」

《君たちが考えていたのはどんな生物なんだい?》

「とりあえず話してみてよ!」

「うむ……そういうことなら……」



「普段は別々に生活している小さな存在!」


「けど、いざとなったら身体を団子のように丸めバチバチと磁石のように互いにくっついていくのだ!」


「磁精霊の“引力”をなんやかんや強弱して蠢く巨大な黒い塊となる!」


「その数は多い時は優に数百~千を超える! そう、その名も……」


「「「「「だんご千兄弟!!!!」」」」」



「ネーミング!!」

「限りなくアウト寄りのネーミング!!」

「審議! 議長、これは審議では!?」

《まぁ僕らが考えるのはあくまで便宜上の名前だしね?》

「駄目だ宵闇くん意外とその辺は緩いんだ!」

「よっしゃあ便宜上【ダンゴセンキョウダイ】で話し合い継続な!」



「この生物の特徴は、磁石のように互いにくっつくことにある。しかしそこが問題だ。仮に自分の周囲に磁精霊が漂っていたとしても、そのままではダンゴセンキョウダイ君同士がくっつけない!」

「ダンゴセンキョウダイの外皮に磁精霊が宿っていないと、結局は空気中の磁精霊同士がくっつくだけになっちゃうね!?」

《ちょっと磁精霊をこのダンゴセンキョウダイの外皮に留める方法について考えてみようか。これを考えることで他の問題の解決の糸口も見えてくるかもしれないしね》

「おーっ」

「名前がムダに長い」



・議題:“生物外皮への精霊獲得方法”



「これってつまり、生物が精霊を体内に吸収して取り込んじゃえばいいってことだよね?」

「精霊もぐもぐする!?」

「空気中の精霊を? 物質と不干渉なのに?」

「そもそも思考10で『精霊を食物連鎖に組み込むのはちょっとどーなんだ』という至極まっとうな意見から、非活性な精霊は物質に不干渉という設定となったんじゃなかったか」

「精霊もぐもぐできない……」

「風精霊の“他の精霊に干渉する特性”を使ってなんとかならんものだろうか?」

「風精霊を使って他の精霊を体内に留めておくわけか」

「その場合風精霊を常時体内で活性化し続ける必要があるぞ。空気袋的なものを用意すれば不可能ではないが」

「不可能じゃあないけど、空気中から目当ての精霊だけを選んで溜め込むってのはかなり難易度高いぞ?」

「そこまでしても精霊の獲得は辛うじて体内の空気袋にってだけであって、肉体や外皮に取り込む方法にはならないしな」

「う~~~ん難しい!」



「なんかこう……地面から磁精霊がブワァ~って出てきて常にそれを浴びてれば、共鳴した瞬間体内にいた奴らが活性化して生物の身体に働きかけられないかな!?」

「いや、中にはそんな土地があってもいいけど、それじゃあ結局物質に精霊を留めておく方法が解決されてないってば!?」

「それに磁精霊って基本的には岩石内にいっぱいいる設定だし!」

「物質と不干渉って設定がこんなに悩ましいとは!」

「あ~も~! 誰だ精霊をこんな面倒な設定に考えた奴は!!」

俺だ(ブレインズ)

わしじゃ(ブレインズ)

私だけど(ブレインズ)

And you(ブレインズ)



《あ》

「ん?」

「んん?」

《…………》

「……その状態で黙らないでほしいかな宵闇クン!?」

「ただでさえカピバラって常時眠たそうなんだから!」

「『あれ? 時間止まっちゃったかな?』ってなるからキミはもう常に何かしら動いていてくれっ!」

「ニンジン食べる?」

《ごめんよ、ひとつ見落としていた大事な設定を思い出していたんだ。ニンジンは食べる》

「大事な設定とな?」

《うん。磁精霊が“岩石内にいっぱいいる”のはどうして?》

「そりゃああれよ、精霊は“それぞれ好みの環境では分裂サイクルが早まる”って設定があるからよ」

「聖域のひとつ、バースデー洞窟は地精霊・磁精霊が洞窟の岩壁にうじゃうじゃいるって設定なのさ!」

「風穴の音に共鳴して洞窟内の小石が磁精霊の力でびゅーーーーんてアレぇぇぇぇぇっ!?」

「そういえば普通に物質の小石が飛び交ってたよねアソコ!?」

「そうだ! 少なくともその二精霊は普段地面や岩石の中に好んで集まっているんだった!?」

「精霊にはそれぞれ好みの環境がある……裏を返せば、好みの環境を用意することで精霊を呼び寄せることができる!?」

「ニンジンポリポリするカピバラかわいい」



「なんか、解決に近づいてきてる気がするぞ!?」

「この岩石内の磁精霊をうまいこと使えないかな!?」

《例えば、岩を齧り取って中の精霊ごと体内に吸収するとか》

「岩壁もぐもぐする!?」

「いや……なんだろう、ダメとは言わないけどそれってなんか精霊食べてるみたいじゃない……?」

「精霊としての神聖さが! 神聖さがぁ……!」

「あとリクガメラくんとも設定が被っちゃってるぞ!」

「他の手も考えてみよう」

「岩壁もぐもぐしない……」

《それなら岩石の粒を身体に貼り付けてみるとか》

「ううーんなんかこう、惜しい! って感じがする!」

「生態的にはそんな生き物もいてもいいとは思う!」

「ただ、他の精霊への汎用性がイマイチか?」

「もう一声! 宵闇ちゃんもう一声!」

「頼んだカピバラ大明神!」

《それじゃあ、そもそも精霊が集まってくるような外皮を持っているとか》

「おお?」

「ほう?」

「続けて?」

《精霊は好みの環境に集まる。だから、ダンゴセンキョウダイの外皮は磁精霊が自然と集まりやすい性質をしているって考えてみたらどうだろう》

「そうか、それなら何もわざわざ岩を齧ることはないのか」

「うん、繋がったぞ、これでどうだ!?」



 “生物の中には身体の一部が精霊を集めやすい性質のものがいる。生物たちはそれらを時に魔法の媒体として利用し生存に役立てる。

 そしてそれこそが、魔法道具を作るために必要な“魔法素材”ともなるのだ。”



「おーっ、魔法素材……! モンスターをハントする的な職業にも繋がりそうな設定だな!」

「ここに来て魔法道具問題も一気に解決できるじゃないか! これはいいな!」

「好みの環境に寄って来る設定もなんとなくその場の流れでつくったものだったけど……」

「誰だこんな丁度都合のいい設定を考えた奴は!?」

ボクだよ(ブレインズ)

拙者でござる(ブレインズ)

妾じゃ(ブレインズ)

We are(ブレインズ)!」

「でも精霊を集めやすい身体ってどういう事?」

「んー例えば磁精霊なら“鉄分が多量に含まれる外皮”とかじゃないかな?」

「それなら魔石とは、“各精霊が特に好んで寄ってくる性質を持つ石”ってところかな!?」

「精霊の性質が解明されていない段階なら、ぱっと見は周囲の魔力を吸収して蓄積しているように見える訳だ」

「それこそ精霊が密集している聖域に、原石を数日~数年置くことで力を溜める事ができるとかいうのもいいんじゃない?」

「漬け置きだな」

「漬け物かな?」




《ちなみにさっき、“共鳴した瞬間体内にいた精霊が活性化して生物の身体に働きかける”っていう意見があったけど、もしそれが出来るならこれを利用して敵に攻撃する方法があるよね》

「またややこしい事実に気が付いちゃったね?」

「あー……それこそ敵に体内の水精霊活性化させられたら大変だぁ。体内に水が溢れて風船みたいに割れちゃうぞ」

「えぐい!!!」

「怖いってば!?」

「全年齢! この作品は全年齢対象ですぅ!」



「ハイ! アタシが回避案を提示します!」

「でかした」

「精霊の活性化が起きるのは特定の周波成分に共鳴するからでしょう? 生物の体内は構造が複雑で外からの音がうまく伝わらないから、『どんな生物もイチコロ!』って共鳴音を出すのは困難と思われます」

「なるほど、外皮・筋肉・血液・骨・分厚さ……それぞれ周波数の伝わり方が違うから外から中を傷つけるような周波成分を出して攻撃するのは難しい、と」

「後はあらゆる生物があらかじめ体表で余計な音波をシャットアウトするように進化している、とかだな」

「元々精霊がいる世界ならそういう方向に生命が進化していてもなんらおかしくないな」

「それなら安易な最強生物も生まれずに済むね!」

「まぁゾール君みたいな単純構造の生物だと簡単に干渉されそうだけどね」

「ゾール君んんんっ!?」

「体内がほぼ水のみで出来てるゾール君んんんっ!?」

「流石、最弱の名をほしいままにするゾール君だぜ……」




つづく



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