思考24 生き物を毛皮が有るか無いかで見ている節がある〈Aチーム〉
【SFの部屋】
エースエーフ星の冬は厳しい寒さだ。
そんな中にあってもスリバチ盆地は昼夜、生き物が過ごしやすい暖かさを保っている。
これは折り重なる菌類によって地面に何重もの空気の層が出来ているためだ。この層は重気体と呼ばれる重いガスに満たされている。
日が暮れるにつれて周辺は一段と冷え込んでいく。そうするとハスッポイモンは地下茎の節目よりこの重気体ガスを放出するのだ。
温められた重気体ガスは冷たい外気とぶつかって水蒸気を生み、スリバチ盆地は霧の海に包まれていく――。
「ん? あれっ? なんか遠闇ちゃんがおっきい!」
「ちょっと見ない間に小洒落たクッションくらいの大きさになってるぞ!?」
遠闇『Bチームに呼ばれて手伝った流れで大きくなった』
「へー、Bチームのところに行ってきたんだ」
「どうだった? どんな感じの部屋だった?」
『なんというか、何故かかなりこだわった感じの音響セットが並んでたよ。かなり無意味にこだわった感じの』
「え?」
「な、何故?」
「ファンタジーな世界で何故?」
『なんだろう、まるでスピーカーだけで事足りるところを妙なこだわりを発揮したかのような機材の充実っぷりだった。全体的にフリーダァァァム! って感じだった』
「それって地味にせかるよ初の文明の利器だよね?」
「あああすっごく気になるんだけどBチームっ!?」
「詳しくは前話のBチームレポートの【音響セット】を参照だ!」
「それはそうと、こっちも世界づくりを始めようか」
「そういえば寄生菌ベニジュレタケ君の生態から、この世界には昆虫的な生き物が生息していることも決定したよね」
「便宜上"虫"と呼ぶが、それらは香りに誘われてベニジュレタケの胞子を身体に付着させ、最終的に冬虫夏草的運命を辿るのだったな」
「虫がいるなら当然虫を食べる雑食の生き物もいるはずだ」
「さて、どんな生き物が良いかね」
「モフモフ!!!!!」
「モサモサ!!!!!」
「フワフワ!!!!!」
「うわっなんだなんだ」
「また特殊な嗜好のブレインズか?」
「否……! 刮目せよ、我々は世間一般で最もメジャーな嗜好である!!」
「この世界ないしこの作品に足りないものと言えばなんだ!? そうそれはモフモフ成分さ!」
「モフモフ・イズ・癒し! わたしたちには動物のぬくもりが足りないのだわ!」
「可愛い動物つくって癒されたい! マスコット的な激かわ動物つくろう!」
『マスコットならもういくつかいるんじゃない? ほら、Bチームのムチムー君とかウチのボンテンムシ君とか』
「シャラップ両生綱無尾目カエル亜目!」
「毛を生やしてから発言しやがれこのアマガエル科アマガエル亜科アマガエル属ニホンアマガエル!」
『ぬーんっ!?』
「えええ……ガラ悪……」
「アマガエルって分類表記くどいのな?」
「可愛い動物って言ってもねぇ……? 基本的にこれまでせかるよで設定してきた動物は皆可愛い動物作ろうとして設定されたものしかいない訳じゃない?」
「いやさ、そもそもキミたちブレインズは揃いも揃ってカワイイの定義がおかしいのよ!?」
「えーそうかなぁ?」
「そうともさ! ちょっとこの作品に付けられてるタグを見てみんしゃい!」
"細胞フェチ” "一つ目フェチ" "多脚フェチ" "土食フェチ"
「もう、ヤバさしかないっ!」
『ヤバさしかないな』
「まともな作品とは思えない」
「他人事だけど遠闇くんの細胞フェチがダントツでヤバいからな?」
「なんか土食フェチとかいうのが増えてるんだけどBチームに一体何が起きているの……?」
「という訳でここでひとつ、プリティでキュアキュアな毛皮生物つくって“このせかるよはとってもプリキュアな作品です”ってアピールを全面に押し出そうじゃあないか!」
「プリティでキュアキュアな動物の事“毛皮生物”って呼んでる時点でプリティでもキュアキュアでもないと思う」
「読者は絶対に騙されないと思う」
「お前そういうところだぞ」
「あ、あれぇ!?」
『それで、具体的にどんな動物をつくるんだい?』
「それは悩み中です」
「毛皮があるのは大前提として、それ以外が……そもそも脚の数から決まらない」
『ん? なんで脚の数?』
「四つ脚だと地球の動物に似てきちゃうけど、じゃあ脚を増やしたとしてそれって可愛いのか? っていうね……」
「脚が多い動物が何故このエースエーフ星に生まれたかって疑問もある」
「皆にはこの辺を一緒に考えて欲しいかなって思ってるんだ」
「うーん、確かに地球を見る限り、脚の数はほとんどの哺乳類で同じ四脚だ」
「それが地球上で生きるのに最適化された数ということなんじゃろか」
「そうなると、僕らが今ここで決めた数が、今後このエースエーフ星の動物のスタンダードとなっていくってことだよな」
「うわ、そう考えるとこれって結構重要案件なんじゃない?」
「ヤツアシテンモクはあれ、どちらかというと虫とかカニイメージだったから脚の数もあんまり気にしてなかったけど」
「どうするよ遠闇ちゃん?」
『んー、よし! それじゃあ、この星の動物の脚の数について、皆で考えてみるか!』
「「「「「オー!」」」」」
「まず脚の数が多いと不気味じゃないかという懸念だが……君たち」
「八本脚のヤツアシテンモクをどう思う?」
「かわいい」
「八本脚のムチムーをどう思う?」
「かわいい」
「脚たくさんのヒラタムカデをどう思う?」
「たくさんかわいい」
「ハイ問題解決!」
「多脚フェチブレインズの勢力が強い」
「まあブレインズのことだからそんなこったろうとは思ってた」
「じゃあ次に何本脚にするかだけど、意見ある人いるー?」
「そもそも地球上の動物が四つ脚なのはなんでだ」
『あー、そういえば以前進化の部屋でこの話題話しかけて別の話に流れちゃったんだったな。えーと、今別チャンネルで聞いてみたけど、しらずが言うには“陸上生物の脚は陸上で重力に負けないように鰭が足に発達したらしい”――とのことだよ』
「なるほど、そもそも対重力用の進化だったのか」
「本数については?」
「なんで四本が標準なんだ?」
『ん~~~、しらずも判らんって!』
「判らないんだ?」
『なんやかんや四本で事足りたんだろうって結論になってた』
「……なんか盛~~~大に端折られている気がするのだが……」
「……しらず絶対にもっと色々と言ってただろう……」
「……あいつは特に理屈っぽい考え方するクマ公だからな……」
「とりあえず、地球に似た環境ならこの星の動物も四つ脚になる可能性が高く、それより脚が多いとなると重力が強い可能性が高いって仮説を立てたがどうだろうか?」
「重力が強いからたくさんの脚で踏ん張る必要があったってことか」
「うーんなるほど……?」
「ハッ……!? 待って、でもそんなに重力が強い星でドラゴンが飛べるの!? 地球でだって到底飛べるイメージが湧かないってのに!!」
「本当だ! 駄目じゃない? 私たちが最優先しなきゃいけないのは“ドラゴンが無理なく飛べる世界”をつくることだよ!?」
「それでは巨体を飛ばせるために重力の弱い星にします?」
「いやちょっと待ってよ……、それだと動物の脚の本数が少なくなって、脚が翼に進化しても結局鳥と同じような姿になるんじゃないの?」
「ドラゴン誕生のためには、少なくとも地球とは違った骨格形成が絶対条件」
「ドラゴンが生まれなくなっちゃうの!?」
「ええーっ!」
「……重力が強いと飛ぶことが難しく、重力が弱いとドラゴンの見た目として生まれてこない……」
「……た、大変だわ……重力が強くても弱くてもドラゴン誕生に関わるわよ、これは……」
「……ま、まさかここまで来てこの星ではドラゴン誕生できないなんてことは……」
「それは悲しい頓挫」
「流石に悲しすぎるぞ」
「なんとかドラゴンが生まれそうな環境にする方法は無いのか……!」
『うーん……。こうなったらいよいよアレを決めていくしかないみたいだね』
「アレ? アレって何、遠闇くん?」
「細胞パワーでなんとかするとか言わないよね?」
「また細胞の宇宙つくるとか言わないよね?」
『言わんよ! 大体オイラ別に細胞フェチって訳じゃないし』
「ダウト」
「ダウト」
「これはダウト」
「勿体ぶらずに早く教えてよ~」
『ウオッホン。それでは、次回はかつてメンドクサイを理由に宇宙の彼方にブン投げていた議題――…』
『この【エースエーフ星】という天体について思考するぞい!!』
つづく




