思考22 音の質は機材で決まる〈Bチーム〉
【幻想の部屋】
風穴の小部屋へと続くドアがある。
カピバラ一匹と姿なきブレインズBチームがいる。
「なんか……」
「前回の終わり方……」
「不完全燃焼というか……」
「なんかぁ……」
宵闇|《ええと、なんかごめんね……? 本題に入るのが遅かったからあんまり残り時間がなかったみたいで……》
「気を取り直して次いってみよー!」
「次は風の精霊ミカヅキモさんだ!」
「久々に聞くと『風の精霊ミカヅキモってなんだよ』って感じだな」
「名前が趣味丸出しだよね」
「丸出しなのは微生物だろ」
《風精霊の特性は“運動・拡散”だよ》
「あのー、この特性実のところどういう目的で考えたか忘れちゃったんだけども」
「うんうん」
「特性“送風”とかじゃないんだ?」
「特性“運動”の結果、風に近い動きは可能だ。ただし、この “運動” は空気の流れに限らない」
「風の精霊ミカヅキモさんの一番重要なポイントは、他の精霊への働きかけですわね」
《設定した時の思考9を振り返ってみるに、他の精霊を効率よく運び、散らすことが出来るのが風精霊の特徴みたいだね》
「実験してみようぜ!」
「火炎放射つくりたい!」
「火を吹く生き物はまだいないから……とりあえずスピーカー用意すればいいか。景気良く大音量でいこうぜ」
《じゃあ僕は火を被らないように少し離れてるね》
「再生機も用意して……ぽちっとな」
Ring-ring-ring-ring-ring!
真上に向いたスピーカーから音が鳴り響くと、スピーカー上の空間に炎の塊が発生した。
炎の塊はスピーカー上で放射状に広がっている。中心が最も激しく燃え、中心から離れるにつれ、またスピーカーの接触面から遠のくにつれて炎の勢いも弱まっている。
「おお~、火精霊の“発火”だ!」
「やっぱり火は見た目の効果が判りやすいな!」
「それはいいけど、何故に黒電話の音?」
「深く気にしてはいかん」
「実際はヒトの耳には聞こえない超音波帯に反応しているぞ」
「そもそも燃焼とは物質の激しい酸化現象のことを指すが、この場合燃料はなんなのだ?」
「んー、やっぱり火精霊?」
「火の精霊クリオネは自身を燃やし尽くしているのか……」
「主成分石油かな?」
「変なこと言うな、精霊は物質的なものじゃないんだぞ」
「儚い存在なんじゃな」
「っていっても他の精霊たちも力を使い果たすと消えるし似たようなもんである」
《ねぇブレインズ》
「ん? なーに宵闇ちゃん」
《確か精霊は普段は物質と干渉しないけど、共鳴して活性化した時には物質とも干渉を起こすんだったと思うんだけど》
「ああ、そういえばそうだったね。全く非物質的な存在って訳じゃないんだっけ」
《それでそこで燃えてる火精霊だけど、火の粉になってスピーカーの上に降り注いでいるみたいだよ?》
「ほあちゃああああああっ!」
「引火したあああああっ!」
「消火、消火!」
「敷金礼金さようならぁ!」
「無いわんなもん!」
《鎮火させたから、皆いったん落ち着こう》
「はぁ、はぁ……びっくりしたぁ……」
「よく考えなくても、魔法産の火が物質に干渉しなけりゃ戦えないし肉も焼けないことになるんよなぁ」
「うっかりしてたぜ……」
「精霊活性化の反応と共に非干渉から干渉へ移行する様子をしっかり体験できたね……」
「気を取り直して、次はここに風精霊の共鳴を混ぜてみよう!」
「スピーカーは耐火性に変更したぞい」
「今度は火精霊と風精霊が共鳴する音にして……ぽちっとな」
Ding-dong-ding-dong-ding-dong!
スピーカーから上がった炎は先程よりも密集し、煌々と周囲を照らしながら高い位置にまで真っ直ぐに延びていく。
「火柱だ!」
「これは周囲の風精霊が火精霊を運んでいるという事だな?」
「なんで今度はインターホン音なの? それでなんでさっきからアメリカンな音なの?」
「深く気にしちゃあかんで?」
「もう一度言うけど実際はヒトの耳には聞こえない超音波帯に反応しているんだぞ」
「ここまでの規模の火炎放射が吹ける生き物はそうそういないにしても、火を吹く生き物は浪漫だよなぁ」
「うんうん、絶対に作りたいね」
「でもどんな生き物にしようか……」
「火を吹くといえば――ガメラ!?」
「ガーメラー、ガーメラー♪」
「いーかすぞガメラ♪」
「つーおいぞガメラ♪」
「わかったわかった、考えとく候補にガメラも入れておくから、とりあえずは次いってみような?」
「次は雷の精霊クンショウモさんだな!」
「雷精霊を使う生物ならもういるぞ! というわけで、いでよ雷属性生物・ムチムー!」
ぽよんっ
「地面で跳ねて転がってった」
「ゴム毬みたい」
《雷精霊の特性は“発電・伝播”。ムチムーは体の中の鳴き袋を鳴らすことで、雷精霊を“発電”させて周囲に微弱な電流を流して獲物の位置を探るよ》
「バースデー洞窟では静かだったみたいだけど?」
《体長が小さすぎて鳴き声が聞こえないだけみたいだね。成長して大きくなったムチムーなら……》
「おっ、おっきくなった」
「ビッグメロンパンサイズ」
「guu、guuu……」
「おお~、鳴いてるねー!」
「ところで精霊の活性化を強めるには?」
「より強く精霊との共鳴を起こせばいいんじゃないか」
《つまり精霊の周波成分により近い音を鳴らすか、単純に音量を上げて振幅数を大きくするか、かな》
「ふむふむ。つまりは雷精霊の場合、より強い共鳴をしたら単なる探索から攻撃手段に昇華されるんじゃないか?」
「そうなるね」
「一言で表すなら強共鳴って感じか」
「ちょっと思いっきり鳴かせてみようか」
《そうなると攻撃を受けた時の防御反応って形がいいかな》
「こんな時は……」
「遠闇、カモーンッ!」
「ちょっと実験手伝ってー」
ぼわわわんっ
遠闇『呼んだ?』
「来た来た。幻想の部屋にいらっしゃーい」
「ちょっとそこのムチムーをもぐもぐしてみてよ!」
「あ、でもカエルの方がちっちゃいね?」
『カエルアバター大きくすればいいだけだから問題ないよ』
『よく判らないけどもぐもぐしていいならなんだって食べるよ! 遠慮なくいただきまーす!』
ビッグメロンパンサイズのムチムーより大きな姿へと変貌したカエルがぱくっと軽快にムチムーをくわえた瞬間、
「Gyuuuuuu!!!」
『あびぇびゃ』
拒絶の声と同時にムチムーの周囲にバチバチと火花が散る。加えてお尻の突起からも液体が噴射しカエルの濡れた部位に更なる電流の衝撃を与えた。
カエルは麻痺してその場で硬直してしまう。
「うわあお」
「なんか思ってたよりすごいことになったぞ」
「雷精霊での探索能力に、ゴム体に、液体噴射……話の流れでたまたま付加された要素がここまで凶悪なコンボを叩き出すとは」
「そういやムチムーって危険時に液体噴射する習性があったんだっけ」
「いやー僕たちもすっかり忘れてたよ。ゴメン遠闇ちゃん」
「本気で忘れてた。すまんな遠闇」
《電撃実験しようと思ったんだけど、予想を上回るダメージ与えちゃってごめんね遠闇君》
『そっちの前提条件も先に伝えといて欲しかったかなぁブレインズ!?』
「ブレインズはブレインズの扱いが基本的に雑なのだ」
「だってブレインズだししょうがない」
「というわけでありがとう遠闇ちゃん、参考になったよ」
「そんじゃあまたねー」
「バイバイ!」
『まったく気軽に呼び出してくれちゃって、オイラはカプセル怪獣ミクラスじゃないんだぞ。また呼んでね』
「そこはポケモンじゃないのな」
「ウルトラセブンなのな」
「ウィンダムも好き」
「アギラを忘れないであげて……」
「俺たちもここらで一度実験を一区切り入れるか」
「休憩、休憩」
「もう実験て言っちゃってるし」
「次回も引き続きBチーム!」
つづく




