思考21 進路変更、取舵いっぱい!〈Bチーム〉
「いつにもましてグダグダである!!」
【幻想の部屋】
そこかしこに精霊が息づく世界。あらゆる生命はその恩恵を受けて生きていた。
とりわけこのバースデー洞窟のように精霊の力が顕現し神秘的な自然現象を見せる場所を人々は“聖域”と呼び、時に畏怖し、時に崇め敬う。
今よりも遥か遥か遠い未来の話である――。
「そんな訳でここは幻想の部屋のBチームだよ!」
「いつの間にか新しい設定が生えてた」
「前回の洞窟レポートにさりげなく聖域の設定が載ってた」
「聖域かぁ」
「確かに人々は古来より超自然的ともいえる不思議現象の中に神や妖の姿を見ていたからなぁ。新月、日蝕、オーロラ……」
「地震、火山……」
「うわん、すねこすり、あずきあらい、くらぼっこ……」
「なにそれ」
「日本の変な妖怪シリーズ」
「スカイフィッシュは? スカイフィッシュはいるよね?」
「今はその多くの不思議現象も科学的に説明できるようになっちゃったけどねー」
「ちょっと残念だよなぁ」
「なんせ我々ブレインズはUMAとか妖怪とか大好きだからな」
「ほんとだもん! ほんとにスカイフィッシュいたんだもん! 嘘じゃないもん!」
「よしよし、スカイフィッシュはいるいる」
「フフフ、そうしてあらゆる不思議が解明しつくされた中でなお燦然と存在する一握りの人知を超えた不可解! それこそが浪漫ってやつなのさ!」
「おぉ~」
「ま、そうなるとこの世界の精霊なんかは解明されにされて裸に剥かれるレベルだよね」
「剥かれた結果“精霊”が“微生物”に、“聖域”は単なる“共鳴地帯”に成り下がる訳だ」
「浪漫度上げてから落とすのやめようよ」
「この世界の知的生命は精霊の起源を追い求めるうちに我々の存在にも行き着くのだろうか……」
「そこんとこいくとこの世界から見て、僕らブレインズは間違いなく理から外れた不可解な存在だよね」
「ルールの外から世界のルールを作り上げている存在」
「それは神と呼ばれるべきか、神の概念をも超越した別のものか……」
「ていうか何をするって話だったっけ?」
「安定の脱線によってわからん」
「6話も前の事なんで忘れちゃったなぁ」
「確か洞窟探検して、フィンドリザード君の設定がまだ途中だったんじゃなかったっけ?」
「そーだそーだ」
「そーいやそーだ」
「……もし俺らが神なら創造神ってことになるんだぜ?」
「……こんなポンコツがな?」
「ガッカリだな」
「幻想壊しちゃ申し訳ないからとても現地民にゃ顔出せないね~これは」
「よーしそれじゃあとにかくフィンドリザード君の詳細を詰めるところから――……」
【白の部屋】
白い部屋にドアがよっつと温泉がある。適度に広い。
カピバラ一匹と姿なきブレインズがいる。
「んっ?」
「あれっ!?」
「ほぁっ!? なんでまた白の部屋に戻ってきたのかな!?」
宵闇|《僕が呼んだんだよ》
「そっその声は……!!」
「まさか――宵闇ちゃん!!?」
「まさかも何も普通にカピバラの姿である」
「どうしたんだ宵闇?」
《これからのBチームの方針について相談なんだけど、方向性を見直そうかと思うんだ。今のままだとちょっと皆やりにくいみたいなんだよね》
「そうなの?」
「言われてみればそうかも。実のところフィンドリザードの次に考えたい生き物の設定を誰も持っていないもんな」
「いつもはブレインズたちめっちゃグイグイ来るのにね!?」
「だってなぁ、洞窟周辺の環境がイマイチイメージ湧かないしな?」
「岩壁から海に流れ出す滝……知床のような地形を想像しているが、イマイチこう……生き物と言われてもピンとこない」
「虫? 動物? この世界の古代にはどの程度進化が進んだ生物がいるのかなってのがね? 鳥ってもういるのかな?」
「今の私たちってまず単純な鳴き声や音によって規模の弱い魔法を使う古代生物から考えようとしてたんだよね。その生物たちが数百万年後には音と精霊を武器に魔法を駆使して生きる姿を改めて考えるつもりだった」
「ただなぁ~。古代から始めるとなんとなく、せっかくつくった精霊や魔法の設定を活用しきれないのがもどかしくってなぁ」
「今は鳴き声に反応してちょっと活性化してるだけだけど、もっと色々なことが出来るんだよってとこを考えたい!」
「火炎放射魔法考えたい!」
「……という具合にBチームのブレインズはどうにも、生物の生態系を考えるより魔法を基本とした世界観や能力方面の方が話題が盛り上がるようだな」
「じゃあいっそ気が済むまで魔法について話し合っていこうか?」
「その過程で上手い事思いついたら生き物もつくっていく形でいってみようか」
「なんというか新生物よりも魔法の設定ばっかし増えていきそうな気配だけど」
「それもまた良し」
「そんな感じでどうだろう?」
「何やら我々毎ターン方針を変えて迷走しているな……」
「安定の頓挫濃厚定期」
「まぁそれでもやるんだけどね」
「ひたすら意見を出し合いひたすら世界を構築していく、それが我々ブレインズの使命だからな」
「ただでさえ毎ターンAチームとBチームが交互に差し込まれて判りづらいのに、Bチームの動きが迷走してしまっているのは誠に面目ない」
「慙愧に堪えない」
「遺憾の意」
「なんならタイトルに〈Bチーム〉って書いてある所だけ読んでもらうと判りやすいかもしれない」
「実際興味があるチームの話だけ追いかけるってのも一つの手だよね」
「魔法設定がどんな風に生き物の生態に組み込まれているかとか、前回までで雰囲気が掴めたってことが大事なのさ~」
「おかげで聖域なんて新しい設定も生まれたしね」
《以上、反省おしまい》
「というわけでバースデー洞窟は一度別の部屋に移しておこう!」
《さっそく【風穴の小部屋】をつくったよ》
「あれ? となるとフィンドリザード君の生態の設定はどうなるの?」
「フィンドリザードもいったん置いておく」
「oh……」
「なんかすまんフィンドリザード君」
「よーしそれじゃあ気を取り直してもっかい【幻想の部屋】にいくぞー!」
「「「「「おー!」」」」」
【幻想の部屋】
風穴の小部屋へと続くドアがある。
カピバラ一匹と姿なきブレインズBチームがいる。
「そんな訳で戻ってきました!」
「さっそく魔法について話し合おうか」
《とりあえず精霊について復習していくよ》
・世界中に散らばる目に見えない程小さな存在。普段は各自適度に増えたり減ったりしているが、共鳴を起こすことで活性化し特殊な働きをみせる。
・特定の超音波を浴び共鳴・活性化した時のみ物質と干渉し合う。
・それぞれ好みの気候では分裂サイクルが早まる。
・種類は『水・火・風・地・雷・重・磁・光』の8種。
「サンキュー宵闇」
「まずは精霊にどんなことが出来るのか具体的な所を確認していきましょうか」
「まずは水の精霊ミジンコさん!」
《水精霊の特性は“湧水・降温”だよ》
「水精霊を使う生態の生物はまだ思いついていないんだよなあ」
「“湧水”はなんとなく判るとして、“降温”ってのはどんな感じなの?」
《活性化した水精霊が周囲の温度を下げるよ。共鳴率が高ければ高い程温度は下がる》
「湧水のうえ降温が発動したら瞬間冷却で氷漬け出来るかな?」
「水以外のものを冷却した時の反応も気になるね」
「窒素とか?」
「窒素冷却したらどうなるんだ?」
「科学実験番組でおなじみの液体窒素になる」
「でも空気を液化するまで冷やすのに必要なのは-150℃」
「そこまでの強い精霊の活性化を促せる生物はそうそう生まれないだろうが」
「工業では加圧したり熱交換したりなんやかんやしてるみたいだね」
「窒素液体化するには相当量の気体が必要になりそうだな」
「果たして生物の生態に何か役立てられるのか」
「単純に“降温”を敵の熱を奪うのに使う方が有用そうだよね」
「利用方法は今後の課題だね」
「勉強しておこう」
「序盤から科学とか工業とかいう単語が平気で出てきて私は不安だよ宵闇ちゃん……」
《科学で出来ることは大抵魔法でも出来る、てことで参考にしていけばいいんじゃないかな》
「じゃあ次は火の精霊クリオネさん?」
《火精霊の特性は“発火・昇温”だよ》
「この“昇温”は水の“降温”の逆だな」
「大体そんな感じ」
「今考えてみるとこの"発火・昇温"の力で熱気球的に浮かぶことが出来る生き物もいそうじゃない?」
「おお、ありそうだね!」
「考えたい候補に入れとこう」
「実はこの“昇温”を使う生物はもうこの世界にいるのだ! というわけでいでよ、火属性・フィンドリザード!」
ぽわんっ
「まさかのフィンドリザード君、復活……!」
「そういえば地味に火精霊を使う設定があったな」
「詳しくは思考15を読んでみてくれ」
《フィンドリザードは背中の鰭がシーラカンスみたいな形と、バショウカジキみたいな形とがいるから暫定的に【フィンドリザード・シーラタイプ】【フィンドリザード・バショウタイプ】って呼ぶね》
「コンセプトは同じだけど全く別系統の生物っぽいよな」
「アルマジロとセンザンコウみたいなね?」
「モモンガとムササビみたいなね?」
「ワラビーとカンガルーみたいなね?」
「後半ほぼ大きさの問題な気がする」
「フィンドリザードは背鰭を擦った時の音で火精霊を活性化させて身体を温めるんだ」
「というわけでこの幻想の部屋をちょっと寒くして様子を見てみよう!」
ごりごりごりごり
周囲の気温が下がるとシーラタイプは背中に突き出した鰭同士をこすり合わせ始める。
ざりざりざりざり
バショウタイプは近くに置かれた岩に身を寄せると背鰭の開閉を繰り返し始める。
「地味な絵面である」
「身体をあっためる程度の共鳴だから派手な音は必要ないんだな」
「一言で表すなら弱共鳴って感じか」
「ヨシ、ならば代わりに我々が盛り上げようぞ!」
「来てるよ、火精霊の活性化来てるよ!」
「温まってきた! 温まってきたよ!!」
「いいねいいね、もっと熱くなろうかァッ!!!」
《熱くなってるところ悪いんだけど、そろそろ一話終了かな》
「ほへぇっ!?」
つづく




