思考20 へのつっぱりはいらんですよ
【白の部屋】
白い部屋にドアがよっつと温泉がある。適度に広い。
カエル一匹とカピバラ一匹とクマ一匹と、たくさんのムチムーとヤツアシテンモクがいる。
ミニサイズの温泉には複数のムチムーが集まったり、大きい温泉にぷかぷかと漂ったりしている。ヤツアシテンモクも何匹か湯船に沈んで水中歩行を楽しんでいた。なんだかカニっぽい。
遠闇『というわけで遠闇の疑問質問コ~ナ~!』
「出し抜けになんだよ」
「何がどういうわけなんだ」
『現世界の”火の獲得手段”についての疑問が届いたよ。ってことでよろしくしらず!』
しらず〔ふむ。火の獲得手段か……〕
「私はやっぱり雷とかの森林火災からじゃないかと思ってたけど」
「でもそれだと一時的なものなんだよな。次に火に出会えるまで延々炎を絶やさずに過ごさなければならないぞ」
「それはそれで宗教の成り立ちに関わりそうで面白いね」
「聖火の概念って世界各地にあるものね」
「でもどこかのタイミングでどうにかして自力で火を熾す手段を見つけないとだよな」
「テレビで専門家が『木の枝が擦れて発火するのを見た祖先が真似して枝同士を擦り合わせたのが始まり』と言っているのをつい最近見たけど」
「ええー、そんな簡単に火の熾し方って見つけられるものかなぁ……?」
「俄かには信じられないな……」
「少なくともそれより先に石同士をぶつけて火花を生み出す方法あたり生まれてそうだよな?」
「アウストラロピテクスに代表される猿人の成立は約400万~300万年前と言われているよ」
「一方火を使用した痕跡が見つかっている中で最も古いものでもたった30万年前の北京原人!」
「火の熾し方を発見するまで270万年もかかったと思えばまあ、妥当といえるのかもしれないな?」
「うーんやっぱり火を手に入れる手段って限られてて大変だねぇ?」
「現世界にはファンタジーみたいに火を噴く生き物もいないもんな」
〔ふむ。それに関してだが、私は現世界に“火を噴く生物がいない”のではなく、“たまたま生まれなかっただけ”、或いは単に“火はイマイチだっただけ”なんじゃないかと思う〕
「んん? しらず、どういうことだい?」
「火を噴く生物が生まれる可能性もあったって事?」
〔例えばミイデラゴミムシのように、体内で高度な化学反応を起こす生物は現世界にも存在している〕
「説明しよう!
ミイデラゴミムシは体内に蓄えた過酸化水素とヒドロキノンという二つの物質をお尻の噴出口で瞬間的に化学反応させて超高温のヤバめの蒸気を噴射する事で外敵を攻撃するのだ! しかもその噴出口は超スピードでの方向転換をほぼ全方位に可能としている! もはや存在自体化学兵器と言っても過言ではないのである!」
「ちなみに別名は屁っぴりムシで、このゴミムシの仲間にはカエルの胃の中で臭いガス……つまりオナラを出して自分を吐き出させる種類もいるぞ」
『ええ~、カエルに優しくないなぁ』
「まずカエルがゴミムシに優しくないからな」
〔それと比べたら、体内で可燃性ガスをつくるのは比較的簡単だ。メタンなど人の身体でも放っておいても勝手に溜まっていく〕
「いわゆるオナラだね」
「またオナラか」
「じゃあもしその体内で作られたガスに点火できれば、現世界でも火を噴くファンタジーな生物が誕生しうるということ?」
「ただし魔法は尻から出る」
「やめろやぁ!」
「そんなのファンタジーじゃないやいばかぁ!」
「じゃあ”火はイマイチ”ってのは?」
「ガスを身体のどこかしらから放出できて、身体の一部が火打石のような構造で点火もできる生物がいたとして、それがイマイチな理由は?」
〔少なくともガス状の燃料では有効な攻撃手段にはなり辛かったと思う。火を噴ける動物がいたとして、それを一体何に使えるかという話だが……〕
「ガスに着火するにしても燃えるのは一瞬だよね」
「一度使い切ったらまたガスが溜まるまで待たなきゃならないし」
「そうなると……火力の持続が出来ないんじゃ獲物も焼けないな」
「外敵の迎撃にしたって、相当な火力がないとコケオドシにもならないんじゃない?」
「窮鼠猫を噛む戦法の方がまだ効果がありそうだ」
〔……そんな具合に、生半可な火力じゃあまり役に立ちそうにない。仮に火を噴く能力を獲得した生物がいてもすぐに淘汰されていくものと思われる〕
「ハイ質問! じゃあじゃあ、ファンタジー世界で火属性の生物って弱いことになっちゃうの!?」
「ええええまさかの超メジャー属性戦力外通告!?」
『そんな、世のファンタジー作家に喧嘩を売るような発言したら炎上するぞ! 火属性だけに!』
「そーだそーだ! そんなこと言ったらいろんな人から怒られちゃうんだぞ!」
「幻想の部屋の火の精霊クリオネさん涙目……!」
「涙腺ないけどな!」
〔ちょっと落ち着け君ら〕
〔少なくとも幻想の部屋では精霊の活性化が起きている限り燃え続けるだろう。前話で話した通りファンタジー世界の生物は魔法のおかげで火の獲得のためのハードルも低い。つまり、火属性でもちゃんと使えるレベルに進化する土台が出来ているって事だ〕
「ほっ……」
「ある程度の火力と持続力が確保できるなら、あとは火魔法の便利さは人類の歴史が証明している通りってわけだな」
『よしよし、争いの火種は無事消えたようだね。そう、火属性だけに!』
「おい誰かこのダジャレ製造機をつまみ出してくれ」
『ケローッ!?』
「遠闇ちゃんボッシュート」
〔さて、遠闇がSFの部屋に投げ込まれたところで、今回はここまでにするか〕
「次回はどうする?」
「なんだかこのまま魔法の設定に行きたいかな!」
宵闇|《それじゃあ次回はまたBチームから始めようか》
「オッケー!」
「魔法の話しよう魔法の!」
「宵闇くん地味に今のが初喋りか」
「メインの進行役が居る時は基本他の進行役は出番を控えることが多いぞ」
「そういや思考5でも序盤でいなくなったしね」
「今は温泉があるからアバター消してないだけか……」
「たっぷりほっこり温泉堪能してたな……」
つづく
「偉大なる魔法使いは言った。 ”ただし魔法は尻から出る!”」




