思考18 知的生命体の誕生を設定しよう!
「ブレインズからのお知らせです!」
「前回のレポートに【ヤツアシテンモク】と【ボンテンムシ】のイラスト追加しましたよ」
「ブレインズからのお知らせでした!」
【白の部屋】
白い部屋にドアがよっつと温泉がある。適度に広い。
カエル一匹とカピバラ一匹とクマ一匹と、たくさんのムチムーとヤツアシテンモクがいる。
しらず〔なんだかうじゃうじゃ来たな〕
「やっほーしらずちゃん!」
「ブレインズもせっかくだから作った生物でアバター用意してみたんだ!」
「あーしらずちゃんいいな、アタシも温泉入るー」
「大丈夫? ムチムー溺れない?」
「肉体を得たからには温泉に入らずにはいられないっしょ!」
遠闇『お、宵闇君のトコの生き物はまるっこいイモムシみたいだね』
「歩くの遅くてかわいい」
「えっちらおっちら歩いててかわいい」
「押すとぐにぐにしてる!」
「ぐぁーやめろー謎生物の脚で押し潰すなー」
宵闇|《遠闇君のところの生き物は……ひとつ目に脚が生えたとしか形容しようがないね》
「あーっひとつ目生物だー!」
「いいなーいいなー」
「ひとつ目フェチが騒ぎ出したぞ」
「ヤツアシテンモクっていうんだよ、アバター貸そうか?」
「使う! 僕のムチムーと交換しよう」
異種族交流をはじめるブレインズを尻目に、クマは岩風呂温泉の端を拡張するように浅い岩風呂を追加すると、溺れないまでもてっぺん以外お湯に浸かってぷかぷか漂っていたムチムーを掬い上げ増設したミニ温泉に移動してやった。
「ごーぼごーぼごー……はっ!? ありがとうしらずちゃん! なんか温泉で温まるってより柚子湯の柚子にでもなった気分だったよ!」
「ムチムーって鳴き袋があるから水に浮くんだね」
「でも背中以外水の中だから本物のムチムーだと息が出来なくなりそうだね」
〔それはいいとして、そろそろ本題に入ろうか。進行役は宵闇、任せたぞ〕
《それじゃあ僕から進めさせてもらうよ》
いそいそと温泉に浸かりに来るカピバラと、その頭にぴょんと飛び乗るカエルも定位置につく。
「今日は何を話し合うのー!?」
「どんな動物の設定でもどーんとこいよ!」
「今Aチームはノリにノッてるもんねー!」
《ええとね、今から話し合う設定は……》
《――ズバリ、人類、だよ》
「「「「「えっ」」」」」
《今日は人類――つまり知的生命体の誕生について考えてみようと思うんだ》
「えっまじ!?」
「もう生まれちゃうの人類!?」
「てっきり知的生命体に手を付けるのはドラゴンより後の話だと思ってたよ!」
「まぁ最初の設定でいきなり宇宙作ったカエルもいるしいいんじゃない?」
『"宇宙細胞説"だぞ!』
「あーあの宇宙すっかり存在忘れてたなー」
《具体的にはまだ知的生命体に進化できそうな動物が生まれていないから、今から考えるのはあくまで"人類が生まれる為の条件"ってところかな》
『この話題はオイラたちも聞いときたいから幻想の部屋じゃなく白の部屋でやってもらうことにしたんだぞい』
「遠闇くんナイスアシスト!」
『ケロケ~ロ!』
《これは基本的にはファンタジー世界限定の話にはなるんだけど》
『うんうん、その名も?』
《え?》
『その名も?』
《……え、ええと……その名も……"ファンタジー動物グルメ説"?》
「なんじゃその名前は」
・ファンタジー動物グルメ説:魔法が存在する世界では動物はグルメになり、知的生命体が生まれやすい。
「宵闇ちゃんはがんばった、がんばってひねり出した」
「遠闇の無茶ぶりによく応えたな」
「こら遠闇君ダメじゃないか」
「これから先毎回必ず"○○説"ってつけなきゃいけない縛りが出来ちゃうでしょうが。面倒臭いでしょうが」
「遠闇くんバッドアシスト」
『ケ、ケロッ!?』
「まぁそれはさておき、内容だ」
「ファンタジー世界の動物はグルメってこと?」
「そのまんまやないか」
「それが人類が生まれる条件とどうかかわってくるのかな」
《何から説明すればいいかな。現世界の人類が他の動物より抜きんでた知的生命体となったのは、“火”の存在が大きく関わっていると僕は思うんだ》
「火?」
「ファイア!」
「最初期の火の使い道としては“加熱調理”“明かり”“暖を取る”“獣除け”ってところかな」
《今は特にそこの“加熱調理”の部分について注目してほしいかな》
「よーしそれじゃあ考えてみよー!」
「実際のところ、我々ブレインズは加熱調理ってのは人類史上最も偉大な発明だという持論を持っている」
「第一に加工することによってナマモノの腐敗を防ぐよね。加熱処理で寄生虫や病原菌のリスクも減らせる」
「第二にナマでは食べられない木の実などの食材が食べられるようになる。肉も噛み千切りやすくなるしね」
「第三にナマよりもより効率的にカロリーの摂取が可能だ」
「例えばナマのまま食べた時と比べて脂質やたんぱく質が、火を通すことによって短時間で効率良く吸収される形に変化するんだよね」
「より少ない食糧で、格段に多くのカロリーを獲得できるのだ! これは生存戦略上非常に重要だぞ!」
「あるマウス実験では、加熱した餌としてない餌を与え続けたところ、加熱した餌を優先的に選択するようになったという。加熱を知った人類の祖先が、この効率の良いカロリー摂取方法を優先的に行うようになっていったのは想像に難くない話だな」
《そう。火と出会った人類は加熱を知り、食材を美味しくする方法を知り、それを優先的に摂取するようになっていったんだ》
「つまりグルメ化していったってことだね!」
《火を使うことで道具を使い手先が器用になっていって、脳の発達に貢献したっていう研究もあるよ》
「火の獲得によって人類の進化が促されたわけだ」
「やっぱりごはんはあったかいのがいいよねぇ」
「焼肉食べたい」
「口というかそもそも肉体ないけどな」
「このやり取りも何度目であろうか」
「そこで話がファンタジーに戻る訳だね」
「うん! Bチームは完全に理解した!」
「えーなになに?」
「どゆこと?」
「現世界の地球では人類が自分で火を熾せるようになるまで、火を獲得するのには偶然性が必要だったけど、幻想の部屋ではあらゆる生物が魔法を使えるんだ」
「今後幻想の部屋で火を扱える生物はどんどん増えていくだろうね」
「ファンタジー世界では簡単に火が手に入る――故にファンタジー動物はグルメになる――。狩りの後に獲物を火で調理してからもぐもぐするグルメな動物が増えていくって訳だ!」
『ふーん、山火事が怖いね?』
「その発想はなかった」
「そっか。火魔法を使う動物が増えると山火事のリスクが増えるのか」
「下手に火を噴く動物が増えたらコトだな」
「ふーむ、そう考えると地球の自然界とはだいぶ様子が異なるな」
「動植物とかもある程度火に対する耐性を獲得してる奴がいそうだね」
「現世界にもユーカリみたいな植物があるしね」
「説明しよう!
『コアラのごはん』として有名なユーカリの葉は森林火災が起きやすい地域に生息しており、種の発芽は火災によって促される、火災前提の生態をもっているのだ!
むしろ燃えやすい引火性ガスを自ら出して火災を助長し、ライバルの他植物や天敵・コアラを徹底的に潰しにかかる殲滅布陣を敷いているのである!」
「ユーカリにとってコアラは共生すらしていない害獣か」
「そもそもユーカリ毒あるし、『食われてたまるか!!』って意思をひしひしと感じるよね」
「コアラに対抗してかその毒も地域によって毒性を変えてくるらしいし」
「なのにコアラの野郎も毎度それに対応して毒耐性獲得してきやがる」
「ねえ何人か前世がユーカリのブレインズ混ざってない? コアラに対する当たりきつくない?」
「コアラはさておき。火魔法を使う生き物って火を着けられるのはいいけど消せないのかな」
「あ、確かに」
「鳴き声で魔法発動するから任意でやめることはできるけど、既に燃え移った火に関してはどうなんだろうね?」
「火魔法って別に火を操る能力って訳じゃないから、流石に“キエロ”と念じて消火はできない、よね?」
「それはちょっと都合よすぎるんじゃない?」
「うんうん。火を扱いきれなくなった生物は大人しく火に巻かれて滅んでもらおう。それが自然の厳しさだ」
「ブレインズってば時々ドライ」
「学習できる生き物であれば山火事にさせないように獲物を焼く場所や、火の威力を覚えてうまく使うようになっていくのでしょうね」
「あれ、火の扱いを覚えてうまく使うって……それってまるで人類みたいだね!」
「本当だぁ! そうやって器用に物を扱ったり考えるようになったり、火の獲得って本当に知的生命体への進化に繋がりそうだね!」
「火ってカロリーの獲得だけじゃなくて、そういう意味でも重要なのね」
「それが宵闇が言ってた手先が器用になって脳が発達するってことなのかね?」
《そうだね。自滅しないために火を使う場所や焼き加減を覚える生き物が出てくるってところまでは僕も具体的に想像は出来てなかったから、やっぱりここで話してみてよかったよ》
「考えを口に出すのは大事だな」
「案外新発見があったりするものね」
《これを踏まえて情報をまとめなおすと、こうなるよ》
・ファンタジー動物グルメ説:魔法が存在する世界では動物は火による調理を覚えグルメになり、火の扱いを覚え知能を得る知的生命体が生まれやすい。
〔ちなみにこの説でファンタジー世界に同時に多くの種族の知的生命体が林立していることも説明できるな〕
「あーあれだなエルフやらドワーフやら、特に何の説明もなく登場する異人種」
「あと色んな動物から派生したとおぼしき獣人族」
「もう魔族ってだけで何でもアリ感ある奴ら」
「あの手のモチーフのハナから説明を放棄してる感面白いよね」
「先人の作家たちが築き上げたファンタジーの世界観やドラクエ等ゲームの世界観、説明されるまでもなく読者がその世界観を共通認識として共有して読んでいるんだもんな」
「意図せずに大規模なシェアードワールドが展開されている、実に不思議な現象である」
「ブレインズ的にはファンタジー世界に何故そのように祖先の異なる知的生命体が同時多発的に発生しているのかが長らく謎だった……」
「もしその世界が魔法で比較的簡単に火を手に入れられるなら、"ファンタジー動物グルメ説"に基づき、火を獲得した複数種族が同時期に知能を上げて進化していったと仮定してもそう無理のない流れだ」
「だからこそファンタジーならではの多様な異人種が混在する世界ができあがったんだね!」
「いやそれ、単純に世界中の神話や伝承を寄せ集めたってだけの理由なんじゃ……」
「なんてこと言うんだキミは!!」
「なんて夢がないんだキミは!!」
「ええっ!? ファンタジー世界に進化系統図持ち込もうとする方が夢がないんじゃないの!? 怒られるの僕なの!?」
「どんまいブレインズ!」
「あははははー」
つづく
「お暇な人は感想欄も覗いてみてちょ」
「何があるの?」
「我々がわらわらしてる」




