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思考17 謹製菌性☆規制寄生菌〈Aチーム〉


【SFの部屋】


 菌類の森を歩いていると不意に小さな白い綿が目の前を横切った。


 よく見ればそれは生物のようだった。翅のようなものをパタパタと懸命に動かし羽ばたいていく。けれどこの生物はどうやらあまり飛ぶのが得意ではないようで、その軌道はヨロヨロと非常に危なっかしい。


 どうにかこうにか目的地に辿り着いたらしいことが判ったのは、とある茸の上に同じ生物たちが何匹もいたからだ。

 ふわふわと全身綿毛のような丸い身体。

 羽ばたいていた翅は頭からピョンと突き出た触角のよう。

 やや縦長のつぶらな複眼。


 それはとても愛らしい生物たちであった。


 そう。ただひとつ、彼らの居る場所がまるで"真っ赤な血を滴らせる茸”とでも形容するような見た目でさえなければ。






「ついに話し合いすっ飛ばしてイキナリ新生物が描写された」

「かわいいのに見た目がエッグイところに棲んでるねこの子たち」

遠闇『ふっふっふ、キノコの傘に棲む生物考えようとして紆余曲折で全然別の生物が生まれたのだ!』



『そんな訳で担当ブレインズ、この綿毛生物の解説を頼むよ!』

「よかろう!」

「お任せあれ!」

「ではまずこいつらが住処にしているキノコから解説しよう!」

「なんで!?」

「綿毛生物はまだ名前も決まっていないがキノコの方は決まっているからだ!!」

「どうしてこうなった」



「それにしてもこのキノコ……」

「見た目は白い茸から赤い液滴が滴っているような……」

「ありありと毒キノコだよね……」

「ぶっちゃけ見た目はハイドネリウムピッキーだ!」

「まさかの無毒」

「気になる人は“出血茸”で検索してみよう!」

「わりと衝撃的な見た目だから苦手な人は気を付けてね!」



「さて我々はこの血の滴るような半透明部分がお菓子っぽいことからこの菌類を【ベニジュレタケ】と名付けた!」

「ちょっと美味しそう」

「そう! この【ベニジュレタケ】は虫にとって美味しそうな匂いを発して、実際美味しいのだ!」


『ムフフ、キノコの試食といえばオイラの出番さ! もぐもぐしちゃうぞ!』


「おっと食いしん坊がのこのこ出てきたぞ!」

「ちなみに美味しそうな匂いってのはラフレシアのような腐肉臭だ」


『今日はこれくらいで勘弁しておいてやろう! さらば!』


「あ、逃げたぞ!」

「流石に気分的に嫌だったか……」


「さて続きだ。このベニジュレタケのイチゴジャムっぽいベタベタはいわゆる胞子的なものなんだけど……」

「なるほどわかったぞ」




ベニジュレタケの生態: "匂いで虫を引き付けて身体に胞子を付着させ遠くに運んでもらう”




「こうだろ!」

「あ、惜しい、ちょーっと違う!」

「なぬ? 違うの?」

「遠くに運んでもらうところまでは合ってるけど――…」




ベニジュレタケの生態: “その後体表上で発芽し宿主の栄養を糧に成長する。宿主は死ぬ”




「が正解だよ!」

「こっわ!!!」

「えっぐい!!!」

「寄生菌じゃねーか!!」



「結局見た目通りのやばいキノコかい!」

「じゃあここにあるキノコの下にも犠牲になった虫が居るってことなのね……」

「彼らは礎となったのだ……」

「それってまさか動物にも寄生しちゃったりするの? 遠闇くんちょっとキノコの胞子にねっちょり漬かってみてよ」

『嫌だよ?! 匂い付くだけでも嫌なのになんで寄生死前提で触りに行かなきゃならんのさ!?』

「いやぁ、ねっちょりプレイといえば遠闇くんかなぁ~と」

軟体動物との( ◆ 探 検 パ)ヌルヌルプレイ( ー ト 1 ◆ )の事は言うなし!?』



「安心してね遠闇ちゃん、ベニジュレタケは動物には寄生しないから」

「そうなんだ?」

「動物は自分で身づくろいできるから、表面に胞子が定着しないんじゃないかなーって考えだよ」

「なるほど、さすがにそこまでヤバイ代物じゃなかったか」

『ほっ……』



「話を戻すとね、この寄生菌【ベニジュレタケ】に適応したのがこのフワフワな羽虫なの。この子だけは寄生されることなく胞子を存分に舐めることが出来るんだよ」

「どうして?」

「秘密はこの細かい毛! 水分を非常によく弾く。これによって胞子を体表に付着させることなく美味しい思いだけできちゃうって訳」

「こんなに可愛らしい見た目してエグいキノコに棲んでエグいキノコの甘い汁吸ってるんだな」

「ギャップ萌えってやつさ!」

「そっち方面のギャップ萌えは想定してなかったなぁ」



「てことで、名前はどうする?」

「ブルームとかどうよ」

「してその由来は?」

「ブドウとかキュウリについてる水はじく白い粉」

「判りにくい! 他!」

「ハイ! 白いモコモコだからマッシロシロスケ!」

「はい却下ァ!!! 他!」



「じゃあボンテンとか」

「なにそれ?」

「耳かきとかについてるなんか丸くてフワッフワしたボンボン」

「説明もフワッフワしてんなおい」

「あんまり馴染みはないよね」

「でもそれ響きは嫌いじゃないなぁ」

「なんかいい気もしてきた」

「これでいく?」

「賛成多数だね、ボンテンでいこう」

「これも後でどんな生き物か思い出しやすくするために虫を付けて【ボンテンムシ】にしない?」

「おーっいいねぇ」

「白くてフワフワらぶりーな【ボンテンムシ】に決定ー」





「さて、もうひとつくらい考えられそうかな?」

『それじゃあ次に考えるのはー……』

「ハイハーイ! ハイハイハーイ!」

『えーとなんかめっちゃ主張してくるそこのブレインズ!』

「ハスッポイモンと関りがある菌類を考えたよ!」

「へーどんな?」


「ハスッポイモンの地下茎に取り付いて栄養を吸い上げる菌類!」


「寄生菌じゃねーか!!」

「本日二件目の寄生菌だよ!!」

「どんだけ増やすんだ寄生菌!?」



「まぁまぁいいから聞いてくれって諸君」

「蓮根っていうのは栄養を蓄えるところでしょう? その栄養を掠め取るタイプの菌類がいても良いんじゃないかって発想だよ」

「ハスッポイモンの地下茎の周りに網目のように取り付いて増殖していくんだ」



「でも、我らがポイモン先輩がそれを黙って許す筈はない」

「取り付かれた地下茎の表面を硬質化させて寄生菌に対抗する」

「結局は変質して使い物にならなくなった地下茎はそのまま腐り落ちちゃうんだけど……」

「菌と触れ合って硬くなった表面だけはそのまま残り続ける」

「その結果出来上がるのは、地面中層・下層に縦横無尽に張り巡らされた網目状のトンネルだ!」

「このトンネルは地面に生息する生物たちの生活基盤として重要な役割を果たすのであーる!」

「【スリバチ盆地の生物:地下編】への足掛かりとなるでしょう!」



「をを! なんか思ってたよりしっかり考えられてた!」

「地下トンネルに棲む生物かぁ、それも面白そうだね」

「いいんじゃない? それ」

「うんうん」

「ちなみに名前は決まってるのかな?」

「当然用意してある」

「とってもケミカルでリリカルな相応しい名前を用意したよ!」

「地下茎に網目のように取り付く菌類――その名も【アミスト菌】だ!」

「へー【アミスト菌】ね」

「ん? あみすときん……?」

「あみすと、キン……」

「あみ、スト、キン……」



「網ストッキングじゃねーかそれ」




つづく


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