思考16 一つ目リベンジマッチ〈Aチーム〉
【SFの部屋】
スリバチ盆地は外界とは隔絶された環境を持っている。
盆地を囲む山々にはたっぷりと水分を含んだ雲がぶつかり雨を落とし、川を成しカルデラ湖をつくっている。あるいはそこはあらゆる生物にとってのユートピアとなりうる場所であったにも拘らず、それは叶わなかった。
己以外の植物の台頭を許さぬハスッポイモン。冬を迎え、その新たな葉が地下茎より現れる。数百日を掛けて巨大で頑丈な植物へと成長したそれらは一斉に重気体の放出を開始する。そうして重気体がゆっくりと盆地内部に溜まり、蔓延っていた他の軽気性植物を駆逐していく。
さながら暴君ともいうべき横暴。
けれどそれを歓迎するモノもまた確かにいるのだ。
君臨する王を祝福するかのように鮮やかに色づく菌類の森。
活動を始めるそこに生きる生物たち。
スリバチ盆地の暴君は、されど、名君でもあったのだ――。
「さてこちら茸と蓮根と貝で織りなすカラフルカルデラ鍋ことスリバチ盆地でーすよ!」
「ナレーションとの寒暖差が激しい」
「ハスッポイモン先輩、ついにキングに……」
「流石ハンパねっすポイモン先輩」
遠闇『うんうん、これだけ大きな植物だとこの大きさまで育つのも一苦労だよね。冬が来て数百日かけて成長してなお季節は冬って、エースエーフ星の1年が365日以上あることがほぼ確定したね』
「相変わらず行き当たりばったりで設定が増えていくなぁ」
『さてそんな訳でブレインズ! まだ茸と蓮根と貝しか入っていないこの鍋、お次は何を設定しようか? 誰かアイデアある人挙手!』
「はい!」
「はい!」
「はーい! 手ないけどな!」
『おお、思ったよりいっぱいいたね』
「カサセオイの天敵を設定しようよ!」
「キノコを隠れ蓑に生きる生物の設定を推奨します!」
「わたしはハスッポイモンの地下茎に取り付く菌類を設定したいかな!」
『色々アイデアあるんだね、じゃー早速上から攻めて行こうか』
「まず、この地面はキノコでデコボコだ。それを苦も無く移動できることが望ましい」
「そうつまり多脚!」
「その上なんと8本脚!」
「おおー! カニ来たー!?」
「新具材かな!?」
「海鮮鍋かな!?」
「そろそろ鍋から離れようか諸君」
「そして背面にまんまるなひとつ目!」
「ん? ひとつ?」
「断固ひとつ!」
「なんでひとつ?」
「カワイイからに決まってるでしょうが!!」
「それ以外にどんな理由があるってのよ!!」
「丸い胴体上の大多数を占める大きな目。首とか頭とか余計なものは付けない! そんなものは不要だ!」
「そして8本脚でわさわさ動く……脚多い生き物かわいぃ~」
「かさかさ!」
「しゃかしゃか!」
「特殊なフェチを持ったブレインズたちが化学反応を起こしてなんかよく判らんもんを生みだそうとしている」
『まぁその方が面白そうだから問題なし!』
「でも一つ目の生物ってどうなんだろうね?」
「現世界の生き物って基本対であるパーツが多いよねぇ」
「その辺はどう考えてるの?」
「うむ、色々考えるには考えてみたんだが。例えば蛸みたいな胴体で、本当はちゃんと目も2つあるけど真横についてるから横からだと一つっぽく見えて、走ってる時は胴体が寝てるから片方の目だけが上を向いてる、とか」
「ミジンコのように対の目が一つの目に合体している、とか」
「そもそも蛸目と虫目どっちも捨てがたい」
『まってミジンコ一つ目だったってだけで衝撃なのに二つの目が合体してるって何ソレェ!?』
「そもそもなんで目って基本2個なんだろうね?」
「ヒトデやクラゲのようにもっとたくさんの目を持っている場合もあるけど、生物は基本的に左右対称の形ばっかりだよね。細胞分裂の法則性のようなものが関係あるのかもしれない」
『細胞!?』
「途端にイキイキするな遠闇」
『つまり細胞分裂の法則性が違う世界なら左右非対称の生物ばかりの世界になったりする!?』
「ここぞとばかりに細胞の設定考え始めないでよ遠闇ちゃん?」
『大丈夫、もう難しくて想像もつかないケロケロリ』
「誰かそんな世界考えてみてくれないだろうかなー」
「まあ色々考えてみたけどやっぱり一つ目って所が魅力だよね」
「ってことでぼくたちは"一つ目が生まれたっていいじゃない"なノリでいこうじゃあないか」
「あとは目の種類を虫目、蛸目、動物目のどれにするか……」
「カマキリみたいな虫目で、どの方向から見ても常にこっちと目が合ってるのもかわいいよなぁ」
「かわいい」
「かわいい」
「動物っぽい濡れた目がギョロッとしてるのも嫌いじゃない」
「かわいい」
「不気味かわいい」
『んーと、目が上についてるとなると索敵にしても獲物探すにしても不便だったりしない?』
「あっ」
「……オウ」
「確かに」
『気づいてなかったんかい!?』
「いや待って。それならやっぱり虫的複眼にしようよ、動物目と違って常に全方位の視野が確保できるし」
「それもそうだね」
「動物の目だと嵩張っちゃうし丁度良いんじゃない?」
『でもさ、獲物のカサセオイをどうやってもぐもぐするの? 本体部分が胴体だけってのがいまいちイメージ湧かないんだけど』
「それに関してはヒトデやウニを想像して貰えば判りやすいと思う。各臓器が胴体の中にすべてしまわれているイメージだ」
「つまり食事方法も……?」
「そっちはキャッチコピー”貝の敵は貝だった”ことツメタガイさんのように、カサセオイの殻に穴を開けてチューチューしちゃうのだ」
「ひぇぇ、すごい」
「獲物を見つけたら8本脚でガッチリ掴んで~、歯舌でゴーリゴーリ穴を開けちゃうんだよ~」
「脚も蜘蛛みたいに左右4脚と悩んだけど、やっぱり四方八方に等分についてる方が可愛いのでそっちにします!」
「なんかそんな形の多脚ロボットあったよねぇ」
『いやでもそれってめっちゃ脚邪魔じゃない? 視界悪すぎない?』
「確かにな!」
「盲点だったぜ!」
『君らもかい!?』
「ふむ……獲物のカサセオイの動きは遅い。目の用途としては主に夜間に襲ってくる上空の敵。だから目も上を向いている……ってことでいいんでないかい?」
「それなら、視覚は動くものには敏感だけど色認識に関してはそんなに性能良くないのかもな」
「でもそれじゃカサセオイどうやって見つけてるの?」
「視覚以外……熱、はなさそうだし、音もない。匂い、かな?」
「確かカサセオイには丁度良くフェロモンを分泌してるって設定があったよね」
「つまり匂いセンサーを持っているのか!」
「蛇が熱関知するみたいに胴体に匂いセンサー用の穴が空いてるとか?」
「それも良いけど、ハエのように肢で味や匂いを感じ取るってのはどうだろう」
「へー、ハエってそうなんだ?」
「カサセオイ君は地面を這っている訳だし、フェロモンが付くのも地面なことを考えるとアリだと思う」
「いい感じに決まって来たね」
「名前はどうする?」
「やっぱり目をウリにしたいよね!」
「メデカ」
「テンメ」
「ヒトツメガニ」
『う~んイマイチ!』
「点目と書いてテンモクと読むのはどうだろう?」
「おー! なんかかっこいいかも!?」
「天目茶碗みたいな名前だな!」
「かっこいいのはそれのおかげか」
「いいね! でもこのSFの部屋の生き物が増えた時に、名前聞いてどんな奴だったか想像しにくいかも?」
『なら8本脚ってことで、【ヤツアシテンモク】にしたらどうだろう?』
「それなら判りやすいな!」
「今のところ他に八つ足いないもんな!」
「それじゃあこの子の名前は【ヤツアシテンモク】に決定だ!」
「わー!」
「パチパチパチー」
「今後八つ足増えたらどうするの……?」
『その時はその時!』
つづく




