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思考15 デザインちからの完全敗北〈Bチーム〉


【幻想の部屋】


 バースデー洞窟。

 深い縦穴の底に空いた横穴から縦横に続く洞窟。ある穴は海に面する断崖絶壁へと続き、ある穴は更に地下深くへと伸びて直接海へと繋がっているようだ。

 風が吹き抜ける風穴はさながら潮の満ち引きによってその音色を変える天然の楽器のようである。




宵闇|《洞窟の環境もだいぶ固まってきたことだし、もう少し生き物の種類を増やしてみる?》

「ムチムーを脅かす生き物が少しいてもいいんじゃないか」

「ならばそれは僕らが任されよう」

《この共鳴地帯の洞窟独特の習性を持った生き物も欲しいところだね》

「じゃあそれはアタシたちが考えるよ」


《それじゃあこの洞窟ならではの生物と、ムチムーの天敵を設定していこうか》


「洞窟に棲んでいるものといえばコウモリ」

「しかし不定期に石が飛び交うここで飛ぶのは難しい……」

「ってことでよくいる生物その2! ムカデを元に考えてみよう!」

「もっと洞窟にいそうな虫もいるけど……例えばゴ」

「それ以上はいけないッ!」



「嵩張ると飛んできた石にぶつかるからムカデ的な生き物は平たい形にしようよ」

「ムカデは背板も頑丈そうだし」

「1mはある大ムカデにしよー!」

「そしてこの平たいムカデは鳴き声で地の精霊アメーバに働きかけるのだ!」

「地精霊の活性化で足元の岩の地面を崩し平たいムカデの身体を波打たせて地中へ避難するぞ!」

《なるほど、確かにこの洞窟ならではの習性だね》

「ゲーム風にいうならヒラタイムカデは地属性だ!」

「ヒラタムカデ君は地属性!」

《わかった。この生き物の名前は【ヒラタムカデ】だね》

「……いつの間にか名前が決まっちゃってるし……」




 ズボォォッ




「うわー! 宵闇ちゃんが突如足元にできた穴にスッポリ嵌った!!」

「巨大ヒラタムカデ君の穴掘りまくる設定の所為で地面が見渡す限りボッコボコに……!!」

《これは手も足も出ないね》

「君はもっと慌てようか宵闇くん!?」



「タンマタンマ! この地面じゃ繊細貧弱ボディに定評のあるゾール君が移動できないよ!」

「そもそもこれだけ荒れてちゃエサ場の苔が生えないんじゃないか?」

「見渡す限り砂利と穴ぼこだらけで、磁精霊の共鳴現象でこれが飛び交うとなると凶悪さが半端ないことになるぞ……」

《一気に上級ダンジョンの様相を呈してきたね》

「とりあえず穴から出ようか宵闇くん?」



《さて、ひとまずアバターを作り直して脱出したけど、この有様はどうしようか》


「断固反対ー! ゾール班は環境の改善を強く要求するーっ!」

「「「「「要求するーっ!」」」」」


「うーんムチムー班は獲物のゾールがいなくなると困るのと、地面が砂利だと電流探知がうまく働かなくなるかもなぁ」


「どのみちこれはヒラタムカデ班も想定外だ。ヒラタムカデの大きさ修正するからムチムーとゾールも少々のでこぼこ道では屁でもない大きさにしてくれると嬉しい」

「うむ。それならまあよかろう」

「承諾したー」

「そういう訳だ。頼んだ宵闇」

《わかった。それじゃあ岩と苔の地面に戻すね》

「……ほっ……」

「……あーべっくらこいた……」





《それじゃあ次はムチムーの天敵の設定だね》

「切り替えてこー!」

「ふふふ、ムチムー君はゴムっぽい身体でちょっとやそっとの爪や牙じゃ歯が立たないぞ」

「ふふふ、味も不味いんだよ!」

「むっふっふ、さあどう攻略する!?」

《どうかな、担当グループのブレインズ》

「……噛みきれない、切り裂けない、味も不味いムチムー君を攻略するには……」

「うーん……そうだ!」



「いっそのこと丸呑みしちゃおう!」



「な、何ィーッ!!?」

「そんな手があっただとォーッ!!?」

「ゴムから着想を得た生物の食事に必要不可欠な“咀嚼”という行為を封じる二段構えの戦略がよもやこのような形で破られようとはァーッ!!?」

《楽しそうだね君たち》

「それにしてもこのブレインズノリノリであ~る」



「丸呑みで思いつくのはヘビやトカゲ」

「なんかガバーッと口がおっきくなる深海魚もいたよね?」

「フクロウナギかな」

「じゃあフクロウナギみたいな口を持ったヘビかトカゲつくろう!」

「ムチムーのみならずヒラタムカデとか洞窟内の虫を軒並みごっくんしてっちゃいそうだ」

「ゾール君以外食べ尽くされそう」

「わっはっは、過食部が少ないゾール君大勝利!!」

「それじゃ意味ないでしょー」

「うーん、じゃあこの生物は基本的には洞窟の外に生活する生き物ってのはどうかね」

「時々外から入って来てパクついて帰っていくのか」

「うんうん、そうした生態の生き物がいるのもいいね」

「それなら洞窟内の生き物が食べ尽くされることもないか」



「ちょっとまって、そうなると、あれ使えないかな。前回ブレインズが言っていたヒレのあるトカゲ」

「なんだっけそれ?」


《岩に背ビレを擦り合わせる音で火精霊を活性化させて身体を温める習性を持ったトカゲをつくりたいって話だね》


「おおそれか! ……うん……できなくは、ないな」

「暫定背ビレトカゲのイメージとしては森の中に生息するイメージだったけど、ムチムーの天敵が洞窟の外からやってくるってことは暫定背ビレトカゲのイメージともそう遠くないか」

「いやでもそれは他の地域を考える時まで取っておかなくていいかな。一度にネタ出し切ってあとで困らない?」


「後のこと気にして今を妥協してどーする! どーせ他の環境を設定するまでこの作品が続いてるかだって怪しいんだ! 今に全力投球しないでどーすんでい!!!」


「威勢はいいのに言ってることが悲しいよ!!」


「補足させてもらうと、トカゲかどうかはそんなに重要じゃないんだよね。一番重要なのは背ビレを持った生物が変温動物で、日光の代わりに火精霊の力で身体を温めるって生態の部分だから」

《それじゃあ、この辺の条件を基に考えてみようか》



・ガバッと開く口

・獲物を丸呑み

・背ビレで体温調節

・変温動物



「どうせなら地球にいないような面白動物考えようよ!」

「ならやっぱりまずは深海魚のフクロウナギを参考にしてみるか」

「……あれ、陸で動けるの……?」

「それを今から考えーる!」

《あくまでイメージのとっかかりだから、最終的に違うものになっても大丈夫だよ》




「フクロウナギみたいな口にするならまず足があった方がいいよな。口が嵩張るしさ」

「じゃあトカゲみたいな四足で踏ん張るタイプかな」

「でもコモドオオトカゲみたいな体型だと頭の位置が低すぎて口をガバッと開けないから、頭の位置が高い所にないと駄目じゃない?」

「となると態勢起こして二足歩行ってのもありだな」

「じゃあ首が長くて、口が袋みたいに大きくて、喉にも伸縮性があって獲物を丸呑み出来ちゃうってのはどーだ!」

「ヘンテコ~!」



「――現世界に首が長くて袋みたいな口があって獲物を丸呑みするペリカンという生物がおってだな……」


「な、なんだってー!?」


「ま、まさか、こんなヘンテコ生物が現実に存在するなんて……!」

「今のナシナシ! もうちょっと違う形で考えよう!」

「首だよ、首を細くするから鳥っぽくなっちゃうんだ! もっと太い首にしよう!」

「太い首を支えるなら二足じゃ弱いな、いったん四足に戻そうか」

「口もさ、嘴ってよりは顔の横まで裂けたような口ならガバッと感が出るんじゃん? 横にエラが張ってる感じでさ」

「それじゃあ太い首にエラの張った大きな口、裂けた口がガバッと獲物を捕らえる四足動物なんてのはどーだ!」

「ヘンテコ~!」



「――現世界に大きな口で獲物を咬み千切って飲み下すワニという生物がおってだな……」


「な、なんだってー!?」


「ま、まさか、ここに来てワニっぽくなるだと!?」

「い、いや、これはきっと口の形が細長すぎるせいだ! まだ嘴に引きずられてたな。フクロウナギを思いだそう、口の輪郭を丸くしたらほぅら――……」


「ガマぐち……つまりガマ。もしくはトカゲ」


「ガッデム――ッ!」


遠闇くん(カエル)のバカヤロ――っ!」



「なんてことだ、我々は意図してオリジナル生物を生み出そうとしているというのに、機能面を考慮すると途端に既存の生物に近い姿が出来あがるなんて……!」

「そもそもだよ? 陸棲で『ガバッと開く』『伸縮性がある』口を条件にするなら、そもそも多くの爬虫類の口がそれに該当してるんだよ、よく考えたら!」

「ガバッと開く機能的なガマ口」

「自分の顔より大きい獲物も一呑みにできちゃう伸縮性を持った喉」

「その伸縮性を維持しつつも陸上での活動に耐えうる堅固さを持った鱗に骨格」

「完璧じゃん! 爬虫類完璧生物じゃん!!!」

「無理だ……っ俺達にはオリジナルを、超えられない……っ!」



「すっかりうちひしがれるブレインズであった」

《僕は現世界の動物と似ていても問題ないと思うけどね》

「そうなの宵闇ちゃん?」

《うん。それももともと想定のうちだよ》

「なんだって!?」

《逆に現世界のどんな生き物にも全く姿が似てない生物を生み出すのは難しいんじゃないかな。それに『せかるよ』という作品的にも現世界の生物と類似点はあった方がいいしね》

「どうして?」

《現世界の何かしらと全く似ているところがないと、“形容しがたい生物”としか表現できなくなってしまうからね》

「たしかにそれは作品として致命的だな!!」

「ブレインズの存在意義がなくなっちゃうな!!」



「それならもう姿がトカゲっぽくなっちゃうのも仕方ないよね」

「一周回ってイメージが背ビレトカゲに戻ってきちゃったな」

「それが思考の結果なのだから問題ないのですわ」

《ちなみに背ビレはどんな形になるのかな》

「シーラカンスのような肉鰭もカッコイイし、バショウカジキのような艶やかな鰭も捨てがたい」

《じゃあ両方の姿で設定してみようか》

「おっしゃー!」



「名前はどうするよ?」

「トカゲって英語でなんていうの?」

《リザードだって》

「ポケモンのリザードは名前をまんま使っていたのだな」

「ブレインズのお喋りは流れるようにポケモンの話題が出てくるなぁ」

「かんそうはだパラセクトは俺の嫁」

「色違いメノクラゲは俺の嫁」



「じゃあ名前は【フィンドリザード】にしよう」

「oh,Finnedlizard」

「ここに来てまさかのエングリッシュネーム、だと……!」

「他が他故に相対比較的にカッコ良く聞こえる……っ!」

「ゾール君だって負けてないよな?」

「強そうだよな?」

「強さの片鱗もないけどね」

《【フィンドリザード】……“鰭のあるトカゲ”だね》

「正確には“トカゲっぽい謎生物”だがな!」

「“魚の背鰭のようなものがある謎生物”だがなだがな!」

「我々ブレインズが考えるのはあくまで暫定的な名前に過ぎないのであーる」




《一区切りついたしこれからこの生き物たちを観察してみようか》

「探検パート突入だね!」

「我々ブレインズ探検隊はこれより、“前人未踏”の洞窟奥深くに棲息する“人喰い大ムチムー”を探し行くーー!」

「レッツゴー!!」

「ゴー!!」




「大いなる矛盾を感じるのだが」

「ツッコミは野暮だぜブレインズ隊員」




つづく


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