思考2 これからの方針を設定しよう!
【白の部屋】
白い空間。適度に広い。
カエル一匹と姿なきブレインズがいる。
「さて、無事に我々のアイデンティティーが確立されたところでいよいよ本題に取りかかるとしましょうか」
「といっても肝心なことはまだ何も決まってないんだよなぁ」
遠闇『あのー、進行役って自分では……』
「めっ! 今大事な話してるでしょ」
『めっ!されたケロ……』
「そもそも話を書くにあたって何がしたいやらハッキリしないからこんな事態になっているんじゃないか?」
「ではまずはこの場の目的と到達したい目標をはっきりさせるのがいいだろうね」
「そこんとこどうなの遠闇君?」
『なんか神話とか道具とか新しい動物の設定考えるのって楽しいでしょ?』
「つまりそれがやりたいと」
『出来ることが段々増えていったり改良されてく過程を見るのも好き』
「つまりそれがやりたい」
『異種動物が洞窟かなんかでいちゃいちゃしながら暮らしてるのをただ眺めるも善き哉』
「つまりそれが」
『あっでも勘違いしないで人と人外のエロも好きだよ!』
「ラブと言えラブと!」
「だめだこりゃ。言ってることにまとまりが無さすぎる」
「わかったぞ、一番の問題点が。本来こうした事はまず……」
「剣と魔法の世界であんなことしたいなぁ!」
「こんなキャラの冒険を書きたいなぁ!」
「ぼくのかんがえたさいきょうせいぶつだぞ!」
「……のように具体的な“もの”や“理想”があって始めて設定を固めていくものだ。ところが遠闇はその土台となるべき物が録に無いときている」
「さながらアイディアにも満たない欠片の寄せ集め……」
「本来であればそれぞれきちんと形にして別の作品として組み立てるべきもの……」
「そんなものを一緒くたに詰め込もうとするから訳が判らなくなって頭がゴチャゴチャになるんだ!」
「挫折不可避」
「敗色濃厚」
「まぁそれでもやるんだけどね」
「それが我々の使命だもの」
『なるほど、別の作品として組み立てる、か……。フッフッフッフ……ブレインズのお陰で思考の新しい道が開けたよ……』
『諸君! やりたいこと全部を一つの世界に詰め込むのは――やめにした!!』
「うんそうだね」
「それが当然だよな」
「とっととそうするべき」
『思ってたより反応薄かった……』
「話をまとめると目的は地球とは違う新しい設定の世界……世界観をつくりだすことでOK?」
「OK」
「異議なし」
「動物にしろ生態系にしろ知的生命体にしろ、終局的にやりたいことはそれだよな」
「そんでもってアイディアの欠片があればとりあえずそれぞれ別個で設定を考え始めよう」
「その結果もし世界観を共有出来るようなら統合しちゃえばいい、ということで」
「らーじゃ」
「異議なし」
「じゃあ目的はそれでいいとして、目標はどうするよ?」
「それはやっぱりアレじゃないの? ほら、知的生命体とコミュニケーションってやつ」
「でかすぎる目標は単なる無謀ってゆーんだぞ」
「現状が先行き不透明である以上実現が難しい目標は避けるべきだ」
「完走できる可能性の方が低いわけだしね」
「ただでさえ作品の未完率にかけて定評があるからな」
『ぼろくそな評価だけどそれ誰の話?』
「いざとなれば目標は上方修正も出来る。まずは堅実にいこうではないか」
「うーん」
「うーん……」
「かといって具体的に作りたい物やキャラクターがいないからこそのこの現状なんだよねぇ」
「うーん困った」
『…………ドラゴン』
『ドラゴンをつくろう!』
「ほへぇ」
「なしてドラゴン?」
「ドラゴンなんてファンタジー世界にしょっちゅう出てくるじゃん」
「特にま新しくはないよ?」
『甘い、甘いぞブレインズ! 巨体なドラゴンが現代の地球で自前の翼なんかで飛べると思うか!? ドラゴンが飛べる世界……それを追求することはこれ即ち地球の物理法則とは異なる新たな世界を生み出す事と同義である!!』
「……この理屈、前も誰かが力説してたような」
「あ、あれだ」
しらず〔あいつらあの巨体で我が物顔で飛んでっけどさ、ありえなくない? ちょっと羽ばたいた位で飛べる図体じゃないだろ! 不思議パワーか!? なんでもかんでも不思議パワーなのか!?〕
「……って、しらずが騒いでたわ」
「そうだそうだ」
「“しらず”も我々と同じくブレインズのうちの一人だよ」
「またの機会があれば詳しく紹介することもあるだろう」
「ドラゴンにも色々あるけどどんなタイプがいいのさ」
『東洋風でも西洋風でもいいし、爬虫類っぽくなくてもいい。これぞドラゴン!と言い切ることが出来るなら』
「ただしコモドドラゴン、てめーはダメだ」
「まあ目標にする以上最低限飛ぶ能力は欲しいところだね」
「ちなみに“しらず”は飛べないドラゴン問題の解決策として、『上半身が鳥タイプ』なグリフィンみたいなドラゴンを生み出しました」
「なんだかんだ骨格から重量から重心まで加味した上で姿かたちを決めてたよね」
「凝り性というか融通が利かないというか……」
「それもまた我々ブレインズのひとつの性質である」
『はいはい、いいから話を戻しますよー』
「遠闇の癖になに気取りだよ」
「遠闇の癖に生意気」
『進行役気取りですがナニか!?』
「じゃあ“然るべき進化を経てドラゴンと呼ぶに相応しい見た目に成長した生物が物理法則に則って飛んでいるような世界”がつくれれば良しってことかい?」
「不思議パワーは無しか」
『いや、不思議パワーでもいいよ。必然性を説明できる確かな設定を用意できるなら』
「つまり“魔法の力で飛んでいる”ではなくて」
「“魔法と呼ばれる××な性質の力を××することによって力場を作り……”みたいに説明できればいいわけだね」
「それ魔法の設定も追加で考えなきゃあかんやん」
『下手なファンタジー世界でドラゴン飛ばすためにはえらい労力がいることに気がついた。頭抱えた』
「そーいう事言ってるから頭がゴチャゴチャになるんだぞ」
「お前本当そういうところだぞ」
「じゃあ目標は、これから作り出す世界の中でドラゴンを誕生させること……ということでOK?」
「オッケー!」
「異議なし」
「いやーやっと基本方針が固まったね!」
「なんで登場人物が作品の方針から決めなくちゃならんのだ……」
「受け入れろ、それが我々の使命だ」
「じゃあついでにこの調子で作品のタイトルも決めちゃいましょうか!」
「それも決まってねーのかよ!!」
「だって作品の方針がたった今決まったくらいだし」
「よしじゃあ皆思い付いたタイトル候補出してってー」
・ブレインズによるお喋り世界創作
・ちょっと思い付いたので新しい世界つくってみる
・世界創作のための思考実験withブレインズ
・ドラゴン飛ばし隊
・その設定が世界を救う!
・設定を考えて新しい世界が作れるか実験
『ろくな候補が無えケロ……』
「ほら僕ら便宜上複数いるけど頭の出来は一律変わらない意識集合体だから……」
「センスの欠片もありゃしない……」
「適度に省略できるタイトルでないと後で苦労するぞ、気をつけろ!」
「一体何目線なのそれ?」
「長すぎるのもなんだから、この際我々の目的を簡潔に一言くらいで表したらどうだろう」
「では遠闇くん。我々の目的とは?」
『世界をつくる事だよ!』
「もう少し馴染みやすく!」
『せかいをつくるよ!』
「もう一声!!」
『せかいつくるよ』
「……うん。もうそれでいいんじゃないでしょーか」
「作品タイトルは【せかいつくるよ】」
「略して【せかるよ】だな、ちゃんと省略もできるので大丈夫だ!」
「だから何目線なのそれ?」
「いやーしかし」
「タイトル決めたはいいけど2話にしてまだなんにも新しい世界の設定つくり始めてないわよ」
「タイトル詐欺があやぶまれる」
「それじゃあ最後に、次回からなんの設定を考え始めるかだけでも決めておきましょうかね」
「手始めにかるーく設定しちゃいましょう」
「遠闇ちゃん最初のテーマ決まってたりするの?」
『フッフッフ。実はもう決めてあるんだ!』
「ほぉ、我々は何の設定について考えればいいんだい? 動物? 生態系? 知的生命体?」
『最初のテーマは――……』
『――ズバリ、宇宙ッ!!!』
「「「「「えっ」」」」」
つづく