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思考11 今夜はキノコとレンコン気分〈Aチーム〉


【SFの部屋】


 沈みかかった太陽が地平の境界を紫に染め、荒涼とした山肌を朱く彩った山々がスリバチ盆地に影を落とす。

 まもなく盆地内部はゆっくりと霧の底へと飲まれて消えていく。

 やがて霧の水面に浮かぶように顔を出しているのは盆地を埋め尽くすかのように幾本も突き出した、巨大植物ハスッポイモンの葉のみとなる。

 薄暮の空、霧の中に聳え立つそれを星明かりが照らし出す。霧の底では夜を待ちかねた者たちが蠢き出す。


 一見密やかなれど幾多の生命が息づくスリバチ盆地の、夜に生きる者たちの時間が始まる――……。





遠闇『以上、エースエーフ星スリバチ盆地上空からお送りしました』


「いやぁついにこのSFの部屋も何もない空間じゃなくなったね」

「描写を入れられるようになった」

「さりげなくハスッポイモンとかいう名前が付けられているんだが」

「実は謎植物の名前も相談してあったのだ」

『ふふーん、レポートにはちゃんと載せてたよ!』

「相談の模様はディレクターズカットされたと思ってください」

「名前から察せられるように大した内容ではなかった」



『それにしてもハスッポイモンの葉っぱでーっかいなー! みてみて、上で飛び跳ねてもびくともしないよ!』

「そりゃカエル一匹だもの」

「でもこれなら人間サイズが乗ってもびくともしないな」

「遠闇が乗ってる葉っぱが直径10mはあるし、まわりにはもっと大きいものもあるよ」

「この浮き葉は周辺が囲いみたいにめくれあがってて頑丈だね。軽気性生物の休憩所にもなってそう」

「それより更に高く突き出ている立ち葉はラッパみたいな形だ。浮き葉よりおっきいぞ」

「下に降りてみようよ!」

「気体の重さが違うってことは声も低くなるんじゃない? 遠闇君ちょっとカエルアバターで喋ってみてよ」

「まずは軽気体!」


『ケロケロ』


「んじゃ次は地面に降りて重気体!」


『ゲコゲコ』


「ぶははは! 野太くなった! ぶはははは!」

「科学実験番組で見たことある」

『ゲコッそれじゃあ生息してる生物の設定始めちゃうぞっ☆』

「あはは、頼むから普通に戻ってくれ!」



「ハスッポイモンの見た目が蓮に似てるということは、きっと地下には蓮根もあるよね」

「蓮根は蓮を支える大事な地下茎だからな」

「ちなみに実は根っこではなかったりするよ!」

「蓮根は泥水の中を横這いに延びていくけど、盆地の地面もやわらかいのか?」

「水の中じゃ困るよね。重気体を吸収する菌類たちがいっぱい生えてる必要があるし」

「菌類がいっぱい……」

「柔らかい……」

「つまり……」

「地面は菌類や茸たちが密集して積み上がって出来た柔らかい地面だ!」

「その中にハスッポイモンが地下茎を伸ばしているのか!」



『うわいきなり足元がもふっもふしだした!』



「描写出来ることが増えたからだな」

「地面がキノコで満たされたんだ」

「じゃこの下は菌類がぎゅうぎゅうのドロドロなの……?」

「それだと空気を吸い込むのに効率が悪いんじゃない?」

「表層の菌類は少しでも多く重気体を取り込むためひとつの茸が大きく上へ上へと延びている感じじゃないか」

「下の方はそれほど空気を必要としない種類や、他の菌類を餌にするタイプの菌類、バクテリアがいるのかな?」



「あのさ、よく考えたら日本の茸って季節があるよね?」

「まあ一般には秋が多いよね。冬とか梅雨にも出て来るらしいけど」

「スリバチ盆地は一年中茸が盛ってるの?」

「うっ……」

「それを言うなら本物の蓮だってあれ思いっきし季節ものだぞ。ハスッポイモンは年中生えてんのか?」

「うぐっ……」

「……」

「……」



『むふふふふ』


 ぴょこたん ぴょこたん


 もっふん もっふん



「遠闇くん! 遊んでる場合じゃないよ、出番だよ!」

『ケロロッ!?』

「進行よろしく」

「議題提示GO!」


『ほいさっ、しからば――…』



 “スリバチ盆地の環境を形成する主要な生物【ハスッポイモン】と【重気性菌類】の年間を通した生態”



『――について相談開始だぞい!』





「まずハスッポイモンについてだけど――本物の蓮だと7月頃から花をつけて種を作って冬には地下茎……蓮根を残して上に伸びていた葉や茎は枯れるみたいだよ。次の春にまた蓮根から新しい芽が出てくるの」

「しかしこの盆地はハスッポイモンが出す重気体で持っているんだぞ。肝心のハスッポイモンが枯れてしまったのでは盆地に棲む生物たちの生活が成り立たない」

「たとえば今は冬だけど、夏になったら枯れるとかは? 重気性生物たちはその間冬眠ならぬ夏眠してるとか」

「なんだって暖かくて日が長くて過ごしやすい夏に枯れて、厳しい冬にガスをまとってまで葉を出さなくちゃならないんだ?」

「いくら重気体であったかくしてるったって冬は日光も弱いだろうしな」



「ん、んー……じつはここ、冬でもいうほど厳しくない、とか?」

「まさかの温暖地域かよ」

「え、厳しい寒さの中逞しく生きてると思ってたけど、え……まさかの寒がりさん……?」

「えっ……マジすかポイモン先輩……えっ……?」

「とまあ冗談は置いておいて、今のところ二つ案がある」


「ひとつめは枯れる場合」

『自分蓮だけど夏が過酷すぎて草も生えないス……。 Byハスッポイモン』


「ふたつめは枯れない場合」

『ポイモンは蓮じゃないから年中葉がついててもい~んでスぅ~! Byハスッポイモン』


『――どっちがいい?』

「絶妙にイラつくキャラだな」

「なんだその語尾」



「どちらにしろ夏と冬で環境はガラッと変わるだろうね」

「夏は日照時間が60時間中40時間。おそらく、夏の盆地内部で温室効果のある重気体なんぞ被ってたら、蒸し風呂状態になるだろう」

「仮に夏場は温度充分ということで重気体を出さなかったとしたら?」

「必然重気性菌類・生物も冬が来るまで休眠期間に突入する事になるだろうな」

「どっちにしろ夏眠するしかない訳だ!」



「それってつまり枯れても枯れなくても夏に重気体を出してないなら重気性菌類からしてみれば同じ事だよね?」

「それならハスッポイモンも夏にはレンコンを残して枯れる方がいいな。地面の肥やしにもなるし、何よりその方が植物らしさがあるよ」

「そうかもしれないね」

「夏は水も少なく日差しがきつい。秋頃から新たに芽を出して冬の暖かな盆地を形成するのだ」



「この盆地は冬でも降雪量さほど無さそうだな。雪あるのか知らないけど」

「平らな葉っぱに降り積もっちゃったら本末転倒だもんね。雪あるのか知らないけど」

『めったにないってことにしよう! 考えんの大変だし!』

「そうすると川の水源とか……」

『じゃ山頂にはあることにしよう! 山の地下水!』

「雑だ」

『早く動物の設定考えたいんだよぅ!』

「……と、なるとお次は」

『いよいよ!!』

「夏の重気性菌類の行方だな」

『ちくせう……』





「夏に重気体がなくなる以上それを吸って成長する菌類たちがそのままでいられる訳がない」

「一斉に胞子となって飛び立ち、次の冬まで胞子のまま夏を越すんだろう」

「他の生物たちもそれぞれ地中に潜って夏眠したり仮死したり、卵の状態になったりで乗りきるんだろうな」

「夏前に表層(地面)に着いた胞子は種菌のような状態になり一度外皮を固い膜で覆う。その影響で表層全体が普段よりも固くなる」

「表層が固くなれば重気体の一部は外に逃げずにその下に留まる」

「それで重気性生物たちもなんとか夏眠につける訳だ」



「ハスッポイモンも重気体もないとなると夏の盆地の地表は軽気体に満たされた広大な空き物件」

「外縁の植物や鳥に運ばれた種が風に乗って芽吹くだろうねぇ」

「雑草ボーボーに伸びてきそう」

「重気性生物たちの危機!」

「しかして秋になり新たに芽を出したハスッポイモンは一斉に重気体を放出!」

「軽気性植物たちにはひとたまりもない!」


『ふははは、邪魔な雑草は根絶やしにしてくれるっス~ッ! Byハスッポイモン』


「待ってましたとばかりに固い膜を破って菌類たちが一斉に発生!」

「眠っていた生物たちも這い出してくる!」

「そしてまた冬のスリバチ盆地に姿を変えるんだな」

「その中から重気体に耐性を持った一部の植物も生まれてきそうだね」

『その辺は! 別の機会に! 考えよう!!』



「ざっくり一年の様子が決まったな!」

「相変わらず一年がどれくらいの周期なのか不明だけどな」

「その辺は必要になったらその時考えるぞ!」

「でも流石に冥王星みたいに太陽の周りを247年で一周とかはしてないよ!」

「すげぇな冥王星」

『それじゃあいよいよ!!』

「この機会に地面の設定をもうちょっと固めておかないか?」

『おにょれ……』





「地面は冬の間に伸びては夏に表層が固まって、そうして古い茸に新しい茸が折り重なって作られているんだね」

「下の層はバクテリアが分解していき、ハスッポイモンや他の重気性植物の養分をつくる」

「なるほど。それが盆地全域という広範囲で起こっているとなると、バクテリアが分解時に出す発酵熱も盆地を温める重要な要素になっていそうだな」

「むしろハスッポイモンの狙いはそこにあったのかも……?」



「下の方は分解が進んだ柔らかい層でも、遠闇が乗ってる表層のすぐ裏は空洞も多いんじゃないかな」

「茸同士密集した挙げ句空気が吸えなくなれば共倒れだしな。そうした方向に進化が進んでいてもおかしくない」

「そうした空間には外に逃げ出すことのない重気体が常に溜まってたりするわけだ」

「何重もの空気の層のお陰で夜も昼も一定の温度を保っていられるんだね」

「いつでもあったかおふとん」

「もしやハスッポイモンはじめからそれを狙っていた……?」

「マジかよポイモン先輩策士だな」



『うんうん。茸の下の重気体溜まり……これで当初から薄ぼんやりと感じていた“茸だけでホントに重気体全部吸い付くせるのか?”っていう疑問も、“冬なら昼間も寒いのに重気体なくす必要あるのか?”っていう疑問も解決するね、グッドジョブ!』

「そんなこと思ってたのか君は」

「茸の下の空間は動物たちの隠れ家にもなっているんだろうな」

『そう! 動物! つくろうどうぶつの森!!』

「そうだね、いよいよ生息する動物たちを考えていこうか」


『YES!!!』


「でももう残り時間ないから次回ね」


『NO~~~~!!!』





つづく



「ブックマークや評価ありがとー!」

「感想くれたらブレインズがちょっとうっとうしいくらい喋りに来るよ!」

「疑問点や反論、矛盾の指摘、なんでもお待ちしてます!」

「ですです!」


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