思考8 魔法とかいう便利なアレ〈Bチーム〉
【幻想の部屋】
なにもない空間。
カピバラが一匹と姿なきブレインズBチームがいる。
宵闇|《僕ら宵闇と……》
「「「「「仲良しブレインズBチーム!!!」」」」」
キュワワアアッ☆
「宵闇君がくるくる回って光ったぞ!」
「あたしこれ知ってる! メイクアップするやつだ!」
「美少女戦士のやつだ! 最近は魔法少女もある!」
「光ったけどカピバラのままだぞ!」
《背景がびかびかして酔うねこれ》
《さて、僕たちは科学では説明できないようなファンタジーな世界を考えていくよ》
「改めて難しいテーマだよね」
「あくまで物理を題材にして考えればいいAチームと違ってこっちはまず“世界のルール”から考えなきゃならないもんね」
「下手したら宇宙の概念考えたときと同じくらい迷走するぞ」
「でもその分上手く填まればかなり自由な世界を設定できるようになるよ!」
「よ~し、がんばろー!」
「さて。どんな世界を考えようか?」
「先程出ていた意見では魔法、火を吹く、肉体がない世界などがあったが」
「うーん、魔法かぁ」
「そもそもだね、魔法とか魔力ってのが曖昧なんだよね!」
「衣類や防具が丈夫なのも魔力のおかげ、武器の切れ味が鋭いのも魔力のおかげ」
「火も水も風も電気も光も闇も重力も自由自在。傷も癒えるし死人も復活するよ」
「便利だな魔法!」
「困った時の魔法頼みだね!」
「まあ魔法が便利なことは一向に構わない。しかし住人の誰一人がそれを疑問にも思わず諾諾と与えられた魔法という能力を行使しているようでは駄目だぜ!」
「また思い切った主張だね?」
「人ってのは疑問から学び進歩する生き物だからな。必ず『魔法とはなにか?』を疑問に思い、突き詰め、より効率よく使える方法を探す筈だ」
「でも中にはそうしたことを『禁忌』として暴いてはいけないとなっている事もあるよ?」
「まぁそれはそれで『禁忌』があるのは過去にそれに触れた者があるという証左だよねぇ」
「必要に迫られるからこそ決まりが作られるってもんだ」
「フランス人はかつてナイフや手掴みで食事をしていたから『食器を使って食べましょう』というテーブルマナーが出来たとか出来ないとか」
「……フランス人よ……」
「……豪快だなフランス人……」
「そうでなくとも『禁忌』を作った者自身は少なからず世界の真理に近い場所にいるということだよね」
「そういった世界は『触れてはならない』ということがそのまま世界観を構成する要素になってるんだね」
《逆にそういう背景設定が無いにも関わらず、与えられた能力をただ使うだけの世界は良くないんじゃないかって事だね?》
「頑張って究明しようとするその世界の学者たちに対して『魔力は適当につじつま合わせに作っただけだよ』だなんて申し訳なくて言えないじゃないか」
「そうした都合が悪い疑問を創作者の都合で敢えて無視させるのはさらに寂しい」
「我思うゆえに我あり」
「人間は考える葦である」
「あれ? でもぉ――……今からすぐに知的生命体を作る訳じゃないんだよねぇ?」
「うん」
「そうだよ」
「……だとしたらこの話題って杞憂じゃないかしら?」
「…………うん?」
「…………あれ?」
「……なんだか盛大に脱線していた……?」
「……自分も話を振っておいてなんだが今話の着地点に迷走している……」
「をいをい」
「……えーと、僕ら結局なにが言いたかったんだろう……?」
《うーん、そうだね。つまり僕たちは『魔法とかがつじつま合わせのためじゃなく、その中できちんと法則性を持って存在する世界をつくりたい』――って事じゃないかな?》
「そう! そ~いう事だったんだよ宵闇くん! それが言いたかったんだ!」
「さすがブレインズのまとめ役だね!」
「確かにそうだわ。これまで書いてきたファンタジーはまず書きたいシーンありきで後からつじつまが合うように設定を考えてきた!」
「むしろ『魔法』とかそこがファンタジーの世界である事を簡潔に説明するための便利な言葉としてしか使ってなかった!」
「むしろ登場人物が魔法使える設定とかもほぼ死んでる! 死にスキルと化してる!」
「治癒能力持ってるのに作中一回たりとも活用されないとか書いた奴アホちゃう!?」
《一体誰の話してるのかなそれは》
「とにかく! せっかく制約なく新しい世界を設定できる機会を得たんだし、とことん設定を突き詰めていけたらいいねぇ」
「いつか生まれた知的生命体が少しずつ解明して真理に近づいていくのをニヨニヨしながら眺めたいねぇ」
「そうねだぇ。うふふふ」
「――と、いう訳でやっと振り出しに戻ってきたよ!」
「一周まわって進まない話し合い」
「ブレインズだししょうがない」
「それがブレインズという存在だ」
《実は上の話を聞いている間に一つ世界観の設定を思いついたよ》
「マジか宵闇くん!!」
「宵闇くん有能かよ」
「これが遠闇ちゃんだったらいまごろ流れるように仕事を取られて一話が終了している所だよ!」
「ありありと光景が目に浮かぶな!」
《でも、いくつか問題もあるんだ》
「うんうん、その辺はこれから我々で検証していこう」
「どんな設定なの?」
《ええとね。人にもモンスターにも不思議な能力が備わり魔法が日常的に使える世界があるとするね》
「ふんふん。物語でもよくあるタイプだね」
《モンスターによって使える魔法の種類が決まってたり、人によって上手い下手とか複雑な魔法だと使いこなせる人が限られてきたりとか》
「あるある!」
《実は……地球の生物たちも同じように日常的に使いこなしている、それでいて種類や熟練度に差があるうえに普段目には見えない特別な能力があるんだよね》
「なぞなぞみたいだな!」
「なんだろう? 電力?」
「磁力?」
「妄想力?」
《それはね、“音”だよ》
「音かぁ!」
「種類や熟練度って鳴き声とか歌唱力か」
「確かに目には見えないけど」
「空気があるんだから音が聞こえるのは当たり前じゃない?」
「……あ、そうか。魔法が存在しない世界の人が魔法がある世界に来て『どうしてそんな不思議なことが出来るの?』って質問しても……」
「『魔力があるんだから魔法が使えるのは当たり前でしょ?』ってなるのか!」
「人の耳でも聞こえない周波数で会話する生物もいるし、実は音が聞こえる事、音を発する事って特別な能力なのかもね」
「うあぁぁぁ先程は『疑問にも思わず諾諾と与えられた能力を行使しているようでは駄目だぜ(キリッ』とか生意気なこと言ってすみませんでしたぁぁぁ!! 諾諾と過ごしてたのは自分でしたぁぁあっ!!」
「こやつ改心しよったぞ」
「使える事が当たり前すぎると特別凄いことだとは思わないもんなんだねぇ」
「でも現世界にも音や声を研究する人は少なからずいる訳だし」
「うんうん。あながち全て間違った主張ってわけでもなかったと思うよ」
「ドンマイ!」
《『空気のように当たり前に存在する“何か”』の設定を一つ取り入れるだけで現世界とは違った『当たり前』を操る生き物たちの不思議な世界が出来上がる》
「それが【魔力】であり【魔法】かぁ」
「つまりその“何か”――世界に満ちる【魔力】の設定さえ作り込めば……」
「おのずとその世界の法則に則った【魔法】という現象が生まれてくる」
「その現象を前提にしたその世界だけの生き物が生まれてくる!」
「その場しのぎでつじつま合わせの設定増やしてたら後から書きたいシーンと世界観に矛盾が生まれて泣いたりしない!!」
《それ誰の話かな?》
「よーし魔力について設定しよう!」
「そうしようそうしよう!」
「大賛成」
「さっき言っていた“音”を魔法として行使する世界、面白そうじゃない?」
《うん。思いついたのはこんな感じだよ》
・魔法とは: “空気中の特定物質が対応する音波に共鳴して活性化する現象”
「一気にファンタジー遠退いたぞっ!」
「幻想の部屋! ここ幻想の部屋だよ宵闇ちゃん!」
「もっとめるへんちっくに包んでプリーズ!!」
《……ええと。ファンタジー風に言うとこんな感じかな》
・魔法とは: “空気中の魔力の素が声に共鳴して力を振るう現象”
「なるほど。例えばほとんど決まった鳴き声しか出さない動物は使える魔法も一つか二つ程度で……」
「人や知能の高い生き物は声音や言葉を使い分ける事でより多彩な魔法が使えて……」
「中でも大魔法使いともなるとさながらプロのオペラ歌手のような技量をもってして魔法を使うと……」
《歌う必要はないけどね》
「ドラゴンが咆哮と共に火炎を吹くことも夢じゃないかも!」
《でも今のままだと問題もあるんだ》
「なになに?」
「ゆってみそ?」
《第一に、空気中の魔力の素がただの環境音や戦闘音にいちいち反応してたら大変なことになるよね》
「そこら中でひっきりなしに魔法発動しまくっててんやわんやの大騒ぎか~!」
「くしゃみでもしようものなら連鎖反応起きまくって世界が火の海だぜ!」
「それじゃあいくらなんでも設定が欠陥過ぎるよな!」
「あはははは」
「それでそれで? 他にも問題はあるの?」
《第二に、この魔法の設定を使ってどうやってドラゴンみたいな巨体が飛ぶのかがまだ見えてこない》
「ハイハイなるほど?」
「じゃあ次回はこの力でどんな現象が起こせるのか具体的に考えていこうか!」
「歌おうよ、ドラゴン歌って踊っちゃおうよ?」
《踊る必要はないけどね》
《第三は……いや……》
「うん?」
「第三は? 遠慮しないで言ってみてよ」
《……その。僕的には……“そもそも肉体が無い世界”っていうやつとかも……やってみたかったなぁって……》
「いやちょっとキミっ!」
「その姿でションボリして鼻ヒクヒクさせるのは反則でしょ!」
「ああもうカピバラかわいすぎかよ!!」
「小悪魔ッ! 宵闇くんの小悪魔ッ……!」
「皆テンション高いなぁ!」
「あっはっはっは!」
つづく




