初陣
―――シノブが魔界に行ってから1週間後。
「そっち行ったぞ!!」
「任せろ!」
僕たちは今、ルネサリア王国ロビエス村に来ている。
近くで魔王軍の侵攻が見受けられたため、見回りをしていたら魔王軍の中隊と思われる軍がロビエス村とアニワ村を襲っていた。僕たち1班はロビエス村を担当し、タイガたち2班にアニワ村を任せることにした。僕は、土を操る魔法を得意とするハンスが村の周囲に防壁をつくり、籠城戦へと持ち込む作戦をたて、戦闘に秀でている者で敵を撃破している状況だ。
「はぁっ!!」
この声はスカーレットか。実戦を経験してわかったことなのだが、彼女の錬金術はチートじみている。
轟音が響き渡る。彼女は大砲の作り方を学び、それを作ったのだ。玉は無尽蔵にあるし、魔法学校の者たちが玉に魔法を付与している。国でも攻める気なのかと思えるくらいの威力だ。
彼女はここ数カ月間、放課後も工場などへ行って色々な物の仕組みを理解することに努めていた。そうすることで作ることができる物の種類が増えるからだ。
その賜物があの大砲だ。とはいえやりすぎだとも思うが…
「すごいもんだな。見ろよ、敵が引いていくぞ。」
「本当にな。あの威力の大砲をバンバン撃たれちゃ攻める気も失せるよな。よし、みんな!一旦戻ってきてくれ!!」
近接戦闘をしていた仲間たちが戻ってきた。
「お疲れ様。怪我はないか?」
「怪我はないんだが…スカーレットの大砲が怖え…巻き込まれそう。」
「そうだな。確かに危なかった。すまん、次回からもっと連携をうまく取れる方法を考えるよ。」
「そうしてくれ。」
こうした戦闘の作戦を考えるのは主に僕の役割だとみんなで決めた。僕はこの数ヶ月間凡人ながらに努力して、軍略や経済などの授業でクラス内1位をキープできる程になっているからだ。
「いやぁ。でも見事な圧勝だったね〜。私が大規模魔法ぶっ放すでもいいんだけど、あまり魔王軍に危険視されたくないし、スカーレットちゃんの大砲でも同じか(笑)」
そう言ったのはルアだ。さすがはギルド最高ランク、大規模魔法ぶっ放すなんて普通の魔法使いがサラッと言えることじゃない。
「勝ちましたね!ルア!」
スカーレットだ。自分の生成したものが役に立って嬉しそうなのはいいんだが…今はその笑顔が怖い
「みんなお疲れ様!ハンスもよく防壁を作り続けてくれた。確認だけどハンスがここからいなくなっても防壁は残るんだよな?」
「あぁ、残るぞ。それにしても結構相手も強かったな。防壁壊されるから作り続けてたらすんげえ疲れた。」
「ほんとにお疲れ様。それじゃあみんな帰ろうか!初陣にして初勝利おめでとう!」
こうして僕たちは王都へ戻り、初勝利を飾ったわけだが、もう一つの班は大丈夫だろうか…
タイガもいるし大丈夫だとは思うのだが。
そう思っていたところにタイガたち、2班が帰ってきた。
「悪いな、少し手こずった。」
「問題ない。怪我した者はいるか?」
「いや、多分いないはずだ。アニワ村は無事に守ったぞ。」
安心した。全員無傷で両方とも勝利するなんて。初陣にしてはできすぎな戦績だ。
人間本気で鍛えるとかなり強くなれるんだな。
「ベルペン、いる?」
「います。」
ベルペンはシノビ衆の副頭領をしている。世界武術大会でシノブと決勝戦で当たったあの男といえばわかるだろうか。
「今日のことを王都、そして他国の首都で言い広めてくれないか。」
「誰がやったといえばいいですか。」
「そうだな…」
「ピースディザイアっていう集団がやったと言ってくれ。」
「承知。」
そう言ってベルペンは消えた。
「よし!初勝利を記念して今日は祝勝会をしよう!」
「いいね!!」
僕たちはいつもの、ギルローイ広場にそれぞれが食べ物を持ちより、パーティーを開いた。
そして時間は過ぎ、パーティーも終わりへと近づいた頃。
背後でガタンッという音がした。振り返ってみるとそこにはなんと、血だらけのシノブがいた。
「どうしたんだ!大丈夫かシノブ!」
「あ?ええ。ごめんなさい体も洗わず。大半が返り血です。ですが…」
「どうした?」
「ごめんなさい。ノア。魔王に存在がバレました…!!シノビ衆の頭領ともあろう者が、何たる不覚…!」
「魔王に…」
その場が凍りついた。魔王…姿を見たものは皆殺されたというとてつもない力の持ち主。
そんな存在にバレたなど恐れるなというほうが無理がある。
「何があったんだ。教えてくれ。」
「はい。」
シノブが僕に教えてくれたことはこうだ。
シノブはシノビ衆数人を引き連れて魔界へ入った。魔界にもこちらと同じように街や村があり、そこでの会話内容などから情報を収集したそうだ。それでも大まかな魔界のことはわかったらしいのだが、シノブたちは一際でかい城を見つけたためさらなる情報を得ることができると思い、潜入した。
潜入しているうちにどう見てもすごいやつが居そうな部屋を見つけたので、中に入った。するとそこは城主の部屋だったらしいのだが、そこで部下がミスをして部下が城主に見つかった。
シノブは部下を回収すべく敵の城主と交戦したのだが、まったく刃が立たなかったらしい。
どうにか全員で逃げ、城から抜け出したものの追手は当然放たれ、交戦。そうして逃げているうちに、あの城が魔王の城だということがわかったのだそうだ。
「あれは化け物です。不意打ちも、真っ向からの攻撃も、何も効かなかった。」
「どういうことだ?」
「障壁を展開していて、それを壊さないとダメージを与えられない。だが僕は障壁を一枚も破れなかった。おそらく障壁だけではなく、魔王本人も化け物のように強いのでしょう。」
「一枚もって言うことは何個もあるのか?」
「ええ、常に透明な障壁が体の周りを覆っています。」
シノブの攻撃が全く通らなかっただと?世界の総合体術王者だぞ。忍術も使ったんだろう。それで刃が立たないなんて、どうやって勝てばいいんだ。
「とりあえず、お疲れ様。こんな危ない目にあうとは思ってなかった。ごめん。」
「いいですよ。誰でも想定なんてできませんよ、魔王と交戦なんて。」
「いや、でも考えるべきだった。」
「結果オーライです。ところで何かを祝ってるみたいですが何かあったんですか?」
僕は、今日あったことをすべて伝えた。スカーレットがすごかったことやハンスも頑張ったこと。そしてシノビ衆に王都・他国の首都に言い広めに行ってもらったことなど、全てだ。
「これはめでたい!初陣で初勝利ですか!しかも二箇所で!僕も混ぜてください〜。」
「戻ってきたばかりなのに大丈夫か?」
「はい〜!弱いのはサクッと片付けましたので!あまり疲れてません!魔王にやられたところが若干傷みますがね〜。」
「それ大丈夫なのかよ。」
そんなこんなでパーティーは遅くまで続いた。
みんなの笑顔を見ながら僕はこう思った。
今日は反省点がいっぱいある。この間の不吉な感じ、まだ気になる。不吉だと思っていながら不注意な行動を取りすぎた。
もっと僕がしっかりしなくては。リーダーなんだから。
―――同じ頃、魔王城。
魔王城では、1人の男が玉座で考えに耽っていた。
「間者、か。」
そうつぶやいた男はこう思った。
そろそろ本気で落としにかからねば、と。