強力な協力者
「今僕たちに賛同してくれているのはどれくらいだ?」
「全貴族のうち7割といったところだ。」
「そうか、ならそろそろ王の耳にも届いている頃だろう。頃合いだな。」
今日も僕たちは、計画について話し合っている。世界武術大会が終わってから3ヶ月、大会で実績を残したものが多かったため、僕たちはある行動に出た。貴族を仲間に引き入れたのだ。
始まりはラーグのこの言葉だった。
「あれ?行ってなかったっけ?俺の家、爵位持ってるよ。」
その場にいた皆が凍った。貴族の家の者がこのクラスにいるなど考えていなかったからだ。
この国を動かす議会を構成する貴族。数十人しかいないため、このクラス内にいるとは考えていなかった。
「…この集まりのこと、ラーグの父さんには言ったのか?」
「あぁ。言った。」
まずい。計画が漏れた場合、しかも貴族に漏れたりなんかしたら危険思想を持っているとして罰せられる可能性は充分にある。僕らがこの世界を統一する、というのは聞こえようによっては王国に対する反逆罪にもなりかねない。
「なんて言ってた?」
「本当にその通りだって言ってた。」
「っはぁ…。ひとまず、良かった。」
みんな胸をなでおろした。万事休すだ。どうにか持ちこたえた。
しかし、これは賛同してくれたということでいいのか?だとしたらかなりのチャンスだ。新たに仲間が増え、それも貴族の仲間だなんて。
「ん?じゃあなんで行動を起こさないんだ?貴族ならすぐに意見することができるだろうに。」
「俺も気になって聞いてみたんだ。父さん曰く、力が足りないんだって。議会では今保守派が力を持ってるらしい。なぜかって聞いたら、魔王と戦う前に信頼していた他国に裏切られる懸念が取り除き切れず、国王が渋ってるんだと。それに、誰がトップに立つのかっていう話もあるしな。」
「じゃあ、他国が裏切らないようにできてみんなに中立な立場のものがトップになればいいってことだな?」
「おそらくは。」
これ、いけるかもしれないぞ。幸い、この数ヶ月の間に僕らの影響力というものはとても大きくなった。
僕らに賛同している中心メンバーの影響が大きい。世界大会で優勝した者が数人いるし、入賞したものもいる。つまり、戦力が大きい。
もう一つ、国民から人気があるメンバーがいるということだ。
何故かと言うと、ただ強いだけではダメだ。民衆から支持される存在にならないといけない。そういった意見が話し合いで何度も出たので、僕たちは自分たちの能力を民衆から支持を得るために使うことにした。
。冒険者登録をして名を馳せるやつもいれば、筋力強化ができるサリアのように能力を応用させて歌手になり、支持を得るやつもいた。
そう。幅広い界隈に影響を与えることができるようになっていたのだ僕たちは。この数ヶ月間頑張って周りの人間と関係を構築し、地道に影響力を上げてきた。でも、貴族にだけは影響力を持つことができなかった。接点がなかった。だが今、ラーグのお陰でそれができた。
「ラーグの父さんに会わせてもらえないか。」
「わかった。聞いてみる。もしダメって言われたら?」
「いいって言われるまで粘る。」僕はそう言って笑った。
「わかった、ならいいって言われたらいつ会いに来るつもりだ?」
「来週の、ラーグの父さんが都合良い日をお願いできないか聞いてみて。」
「あいよ。期待してて。んじゃ家帰って父さんに伝えてくる。多分明日には返事聞かせられると思う。」
そういってラーグが集会の場、ギルローイ広場から出ていった後、僕たちは解散し、家に帰った。
「絶対に成功させてみせる。」
僕はそう呟いて、返事にドキドキしながら目を瞑った。
―――翌日。
「ノア!やったぞ!5日後なら空いてるらしいんだけどノア平気か?」
ラーグは、朝教室に入ってくるなりいきなり僕に飛びついて来てそう言った。
理解するのに数秒かかったが、理解したとき僕は叫んだ。
「よっしゃああああああ!!」
ついに、ついに難関を突破した。貴族とのパイプがないというのはここしばらくの課題だったのだ。留学していたラーグの父親が貴族なんて、なんという幸運。
「全っ然平気。5日後ね、わかった。」
その日から5日間。僕は集会にも顔を出さず、すべての時間をラーグの父親への説明、説得の内容を考えることに費やした。
―――5日後。
「よし、行こう。」
休日なので学校で待ち合わせ、僕たちはラーグの家、レペルグラード家へと向かった。僕たちというのは、特に世間に対して影響力の強いサリア・シノブ・タイガの3人にもついてきてもらったのだ。
準備はしっかりとした。あとはそれをわかりやすく伝えるだけ。
そう思いながら僕は、レペルグラード家の門をくぐった。
「ようこそ。ノアくん。そして歌姫、シノブくんとタイガくんか。私はラーグの父のバナードという。話はよく聞いているよ。上がりなさい。」
そう言われ、僕たちは家へ入った。
「どうぞ座って。して、君たちはどうやって世界をひとつにする気かね。」
そして僕たちは自分たちの計画の全貌を話した。バナードさんはすべて頷きながら聞いてくれた。
「よくできている。王国学校にはきっといい先生がいるんだろう。実はね、私もずっと君たちと同じように、世界を1つにするべきと考えていたのだよ。そして一度は行動に移した。他国で賛同してくれる貴族と関係を構築したりしてな。だが、一部の貴族を味方につけても意味がない。世論を味方につけることができなかったんだ。」
この王国は人口の多くが王都、そしてニザ―ユに集まっている。そのため、魔王軍の侵攻を対岸の火事と考えてしまっている国民が多いのだ。昔の僕らのように。
だから魔王軍に対する危機感が薄くなり、今世界が危険な状態にあることすら認識していない。
この人はそんな中、世界を守らんと必死に現在の対抗策に異を唱えて来たのだろう。
「じゃあ…」
「あぁ、支援するよ。」
そう言ってバナードさんは僕の手を握ってくれた。
「ありがとうございます!」
「できることはなんでも協力すると約束しよう。私が何をすればいいかを教えてくれ。」
「では―――。」
僕はバナードさんにしてほしいことを伝えた。主に人脈構築や根回しといった権力のある人間しかできないことだ。バナードさんは快く引き受けてくれた。
「君たちとの連絡はどうやって取ればいい?あまりこの家に何度も来ていると不審がられてしまうが。」
「それは僕が毎日忍びを1人ここに送るので、言伝していただければこちらと連絡を取る事ができます。」
「わかった。随分話し込んでしまったね。もう遅い。家に帰りなさい。今日は話せてよかった。」
「ありがとうございました。ではまた。」
そう言って僕らはレペルグラード家を後にした。
「ここからだ。始まるぞ。僕らの改革が。」
これで王国学校編は終わりになります。次回からは世界統一編となります。どうぞお楽しみください。
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