将棋大会0回戦突破と将棋会館での島崎さん
「ここが、将棋会館かー!!」
ついにやって来た将棋の聖地に否応なしにも胸が躍る。
将棋会館を前に突っ立っている私の横を数人の少女や女性が入って行く。
「0回戦は突破したね。」
「0回戦とはなんですか?」
「大会に遅刻せずに会場まで到着した。ということだよ。」
「そんな言葉があるんですね。なにごとにも勝利は嬉しいものです。」
「はは。そうだね。さぁ、中にはい入ろうか。」
島崎さんに促され、いざ! 行かん将棋会館。
中に入ると少し先に売店が見えたので入ってみる。
「おー! 将棋グッズがいっぱいだぁ。」
売店には人気棋士の揮毫の入った色紙や扇子に書籍、グッズなどがたくさん置いていた。
その中には雪野将王の揮毫付き新刊書籍があった。
すでに道場には置いてあるが揮毫付ではないため、とても欲しい。というか買おう。
「島崎さん来てください。雪野将王の新刊がありますよ!」
私の声を聞き島崎さんが売店に入ってきた。
「あら、島崎君じゃない。」
「あ、お久しぶりです。」
売店の店員さんと島崎さんが話している。知り合いみたいだ。
「もう、何年ぶりかしら。」
「3年ぶりくらいですかね。最後に会館に来たのがそれぐらいだったと思います。」
「この間、雪野君から島崎君が元気にしているって聞いて安心したのよ。」
「ありがとうございます。」
「島崎さんは奨励会時代に売店に通われてたんですか?」
私は島崎さんに質問する。
「うん。たまにね。」
「島崎君は私や他の店員の手伝いをよくしてくれたの。段ボールいっぱいに入った本を持って運んでくれたり、天井の電球を変えてくれたり、島崎君ほどの好青年はいなかったわ。」
と店員さんが教えてくれた。
普段から接してわかっていたが、島崎さんって本当に人格者だなぁ。
「なんだあ。はずかしいですね。」
島崎さんが照れ笑いをした。
「田村さんが今日、島崎君がここに来たって聞いたらとてもガッカリするわね。彼女、島崎君の大ファンだから。」
「はは、ありがたいです。田村さんによろしくとお伝えください。」
その後、島崎さんと売店を見回って雪野将王の書籍の他に数点の揮毫付書籍とグッズを買い売店を後にした。
4階の対局室に行くエレベーター向かう。
エレベーターの前には1人の若い20歳前後の男性が立っていた。
「ぁ……」
「どうしましたか?」
「いや、なにもないよ。」
私たちは男性の背後に立ってエレベーターが来るのを待つ。
「名人クラスは対局室で行われるなんてすごいですね。普段棋士の先生方たちが対局している場所で将棋を指せるなんて一生の思い出です!」
「多分一度大会に出たら絶対に次も出たくなると思うから来年も対局室に来ると思うよ。」
と島崎さんと雑談していると前にいた男性がこちらに振り向いた。
「つっ!!!」
なぜか男性が私たち……というか島崎さんを見てとても驚いている。
「え……っと」
「お久しぶりですね。氷見君。」
と私がどうしましたか.
と問う前に島崎さんが男性に声をかけた。
「……お久しぶりっす。」
島崎さんの知り合いか。将棋会館に来ているんだから当然か。
でも……なんだか少し硬い雰囲気がある。
そんな2人のあいさつが終わったころエレベーターが到着して扉が開く。
男性は3階、私たちは4階のボタンを押す。
数秒で3階に着き扉が開くがなぜか男性、氷見さんが開くボタンを押したまま降りない。
そして、島崎さんを見る。
「あの……島崎さん話したいことがあんだがちょっといいですか。」
「急にそんなことを言われても今日は彼女の付添いで来たので……」
島崎さんがそう言うと氷見さんが今度は私の方を見る。
「ちょっと島崎さん借りていいっすか?」
この氷見さんすこーし目つきが悪いのでなかなかの迫力がある。
大会が始まってしまったら島崎さんは暇だとは思うけど……
「あの、島崎さんにどういったご用件なのでしょうか? 私にとって島崎さんは大事な人です。
失礼ですがあなたと島崎さんの間に流れる雰囲気がよくないような気がするんです。」
と正直に氷見さんに話してみる。
「別にケンカとか悪いような話しねぇっすよ。ただ、赤の他人には理由は言えない。」
悪い話ではないが私には話したくない内容らしい。
うーん、どうしようと考えていたら。
「わかったよ。話しましょうか。青葉さん大丈夫かな。」
「私は大丈夫です。」
「応援しているね。じゃあ、氷見君行こうか。」
氷見さんは推し続けていたボタンから手を放して2人は3階で降りていった。
私はそのまま4階の大会会場に向かった。